【展覧会レポ】静岡市立芹沢銈介美術館「型染 色と模様の翼」
【約3,900文字、写真約40枚】
初めて静岡市立芹沢銈介美術館(以下、芹沢銈介美術館)に行き「型染 色と模様の翼」を鑑賞しました。その感想を書きます。
※本展覧会はすでに終了しています
▶︎ 結論
人間国宝である芹沢銈介の作品が見られる貴重な美術館。手仕事による「美しさ」を再認識できました。渋谷区立松濤美術館も手がけた白井晟一による石の趣きのある建築も必見!観覧料も420円と安価のため、静岡観光にも最適です!
▶︎ 訪問のきっかけ
静岡に行った際、1)静岡駅から片道30分以内、2)芹沢銈介の展覧会を日本民藝館で見て、さらに見識を深めたかったため、行くことにしました。
▼ 芹沢銈介展@日本民藝館
▶︎ アクセス
芹沢銈介美術館へは、静岡駅南口の22番乗り場からバスで「登呂遺跡」まで約10分。そこから徒歩約3分で到着します。バス内は、USBで充電できたり、現金支払でもお釣りが出るなど、静岡のバスは進んでいました。
バス停から、登呂遺跡を横目にどんどん進みます。
すると、大きな建物が見えてきます。「芹沢銈介美術館ってもっと小ぢんまりしたものを想像してたけど、さすが市立やなぁ〜!」と思いました。
しかし、正面に見えていた大きな建物は「静岡市立登呂博物館」でした。その横にある建物が芹沢銈介美術館。ちょっとホッとしました。
住所: 静岡県静岡市駿河区登呂5丁目10−5
▶︎ 芹沢銈介って誰?
芹沢銈介は、1895年に静岡市葵区本通、呉服商の家に生まれました。東京高等工業学校(現・東京工業大学)工業図案科を卒業した後、20代でプロのデザイナーに。30代で生涯の師・柳宗悦と出会ことで人生に転機が訪れます。
柳宗悦のオススメで、沖縄の染物・紅型に出会い、染色の道にめざめます。34歳で染色家としてデビュー、「型絵染」という新しいジャンルを確立しました。
デビュー作《杓子菜文間仕切》は「地味で正確な制作態度」を評価され、国画会工芸部で国画奨学賞を受賞。1956年、全工程を芹沢銈介が一人で手がけていたことが評価され、重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定。1967年、静岡市名誉市民。1984年、享年88歳で逝去(前年で没後40年)。
▶︎ 静岡市立芹沢銈介美術館とは
芹沢銈介美術館は、1981年に開館。芹沢銈介が静岡市に作品などを寄贈したことが、建設のきっかけです。本人の作品を約1,300点、収集した民芸品を約4,500点を収蔵しています。
朝9時からオープンしているのは、旅行者にとってありがたいです。午前中は、ほぼ貸切状態でした。
中に入ると建築の面白さが分かる点も、芹沢銈介美術館の魅力です。外観だけでなく、内観にも石を使った造りが特徴。特に、教会のような「G展示室」は圧巻でした。
建築を担当したのは白井晟一。白井晟一は、美術館を2つ手がけています。1つが芹沢銈介美術館、もう1つが渋谷区立松濤美術館です。松濤美術館は「建築ツアーイベント」を企画するほど、建築が人気コンテンツになっています。
▼ 杉本博司展@松濤美術館
▶︎ 「型染 色と模様の翼」感想
✔️ 作品はすべて1人で手作り
キーワードは「緻密」「正確」だと思いました。芹沢銈介は、柳宗悦に沖縄へ誘われたことで、染物・紅型に感化されます。確かに、芹沢銈介の作品からは、赤、オレンジ、黄色など沖縄っぽい色合いを感じます。
館内で流れていた映像「芹沢銈介 その生涯と作品」(15分)は参考になりました。芹沢銈介は、他人の手を介さず、自らの手で作品を作りました。独力で膨大な作品の数をこなしたのは、気の遠くなる作業だと感心しました。
✔️ 日本人の感じる普遍的な「美しさ」
芹沢銈介の作品のモチーフは、文字や動物、自然など、身近なものが多いです。アートはどこにでも転がっている。真に価値があるものは、特別なものではない。この心を揺さぶる普遍的な感覚は、民藝にもつながる考えだと思いました。
現在、無駄を削ぎ落としたシンプル・モダンなデザインが好まれる傾向があると思います。しかし、芹沢銈介の作品は、今の感性でも「愛おしい」と感じました。機械的な真っ直ぐした線は1つもありません。そこに人間の温もりや、ストーリーを感じます。PCなどで描く絵には表現できない世界です。
私は、ミュシャ的なおしゃれポスターよりも、芹沢銈介がつくる手ぬぐいや暖簾の方が美しいと思いました。改めて手仕事による温かみを再認識。このような「民藝」的感覚は、日本の八百万的な土着思想に基づくもので、西洋では「民藝」的な感覚は薄いと気づきました。
▼ ミュシャ展@茅ヶ崎美術館
日本人のDNAに残る「美しい」感覚を後世に残した方がいいと思いました。芹沢銈介美術館は市立だからなのか、若干のほほんとした雰囲気が漂っていましたが、民藝についての情報発信をもっと積極的にすべきです。
✔️ すべて撮影禁止は見直しの時期
写真撮影がすべて禁止である点が気になりました。「ご利用ガイド」には、マーカーまでする徹底ぶり。「特別室」でも「不必要な写真は1枚も撮るな!」というムードが漂っていました。
アクセスが良いとは言えない美術館で、民藝を次の世代に伝える役割に加え、静岡市民や観光客へ周知するにあたり、一部の作品でも撮影を可能にしてはどうでしょうか。
また、館内では静かにするように過剰に対応しているように感じました。本来、アートは楽しく見る、感じるものだと思います。看視の厳しい中で、厳かに勉強するものではありません。このような態度が、美術館へ行く心理的なハードルを上げていると感じます。
✔️ 今後に向けた意見
芹沢銈介美術館は市立のため「会議録」を開示しています。ほぼ編集なしで、一言一句が書き起こしされているのは珍しいです。
直近の協議会 会議録の中で特に気になった点が、小中学生をターゲットにする提案です。「月森委員」が「私は個人的にあまり積極的じゃないですね、そういうことに関して。」と述べています。もちろん、多様で忌憚のない意見を協議会の中で発言することは重要です。
しかし、芹沢銈介の認知や美術館の客数を増やすために、今後の運営を話し合う協議会の中で、このような考えの人がいるのは不適だと思いました。私は「稲垣委員」の考えに賛成です。重要なことは、幼いときに「体験をすること」「知ること」だと思います。小中学生に「民藝」の良さが分かったら、むしろ恐ろしいです。
静岡生まれの人間国宝を扱う美術館として「静岡に芹沢銈介ありき」と伝えることが、芹沢銈介美術館の役割でしょう。このように閉じた運営だと、今までの40年と今後も、税金を使って継続する意味が薄いです。
費用対効果を上げ、客数を上げるための私の提案は以下です。
1)他の美術館との連携も念頭に、継続的な情報発信
2)一部作品でも館内撮影を可能へ
3)過剰に鑑賞マナーを押し付けない、親しみやすい雰囲気の醸成
4)白井晟一の建築ツアーの定期的な実施
協議会の議事録を読む限り「検討」はするものの、館長が頻繁に変わることに加え、役所の決裁が降りないため、毎回同じ話を繰り返しているようです。今後も、画期的な前進は期待できないと感じました。
▶︎ まとめ
いかがだったでしょうか?1点1点手作りした作品からは、人の手にしか出せない「美しさ」を感じたことで「型絵染」「民藝」の良さを知ることができました。翻って、日本特有の美意識も再認識できました。観覧料も安価のため、静岡市民はマスト、静岡観光にも最適のスポットだと思いました。
▶︎ 登呂遺跡
登呂遺跡(特別史跡)は、弥生時代後期の集落遺跡です。当日、保育園児が水田付近をお散歩するなど、のどかな風景を見て、心が和みました。