レミングを知ってるか。【Richard Matheson" Lemmings" 書評】
レミングは北極付近に生息するネズミの一種。
大量繁殖と食糧を求めての大陸移動を3~4年のサイクルで繰り返し、移動の際に大量の犠牲を伴うことから集団自殺をする生き物として知られる。
その光景は" 死の行進" と称され、1958年公開のドキュメンタリー映画(ウォルト・ディズニー) " White Wilderness(邦題: 白い荒野) " で取り上げられ世界で知られるようになった。
彼らは海辺を眺めている。
人々は次から次へと現れて、車を降りる。
海へ海へと歩いていく。
死の行進は一週間続いている。
叫び声はない。笑い合う者もいる。
何が起きている?
そして誰も、いなくなる。
彼ら二人を除いて。
それから?
なんて美しい死に方だろう。
生きている人間にはコントロールできない" 何か" がはたらき、世界に飲み込まれていく。
Richard Matheson(リチャード・マシスン)はアメリカのSF、ホラー小説家。
数多くあるショート作品のなかでこの「レミング」は圧倒的に輝いている、とわたしは思う。
死ぬことが怖くないのなら、人生はなんて美しくなるだろうか。
それとも、つまらなくなるだろうか。
穏やかな世界の終わり。
中学生のときに読んだ、伊坂幸太郎の「終末のフール」
いろんなごちゃごちゃしたものをすべて手放して消えることができるのなら、なんて楽だろう。
だけども痛みを伴いたくない。
なにかを捨てるにはものすごい力が要るのだ。
そのあとの、からっぽの地球はどれほど美しいだろう。
〈出典〉
英語版全文ここから読めます。
日本語訳は早川書房の「異色作家短篇集4 " 13のショック"」に掲載あり。
余談ですが、たしか穂村弘と春日武彦の対談集(多分)でこの死に方について議論されてた気がします。