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落語家探偵 事件ノオト

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落語家探偵 事件ノオト 第九話 犯人は舞い戻る

落語家探偵 事件ノオト 第九話 犯人は舞い戻る

 小料理屋「七草」の暖簾をくぐって店に入ろうとすると、なにやら店の中で、強面の野郎が女将を目の前にして凄んでいる。テーブルに出刃包丁をダーンと突き立てて、
「手荒な真似はしたあないんや。姐さんに恨みは無い。あるんは旦那のほうや」
 一八(いっぱち)じゃねえか。まだ東京にいたのか。

 コードネームはワン・エイト。通称、詐欺師の一八。大阪を拠点に犯行を重ねている全国指名手配犯だ。野郎は決まって毎月十

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落語家探偵 事件ノオト 第八話 幼馴染の死

落語家探偵 事件ノオト 第八話 幼馴染の死

 アパートの一室で独身男性の変死体が発見された。
 両国警察署の熊倉刑事から、江戸川亭探偵事務所に捜査協力依頼があったのは今朝の事だ。さっそく、四太郎と俺は警察の現場検証に同行することになった。
 死亡した男性の名前は阿久津猛(あくつ たけし)。室内には干されたままの衣類、敷きっぱなしの布団、散らかった競馬新聞に週刊誌、吸殻で山盛りになった灰皿、食べかけの食事、床に転がったカップ酒の瓶。台所には、

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落語家探偵 事件ノオト 第七話 奇妙な死体

落語家探偵 事件ノオト 第七話 奇妙な死体

 寝床のローバーミニから外に出て、両手を拡げて伸びをした。良い天気だ。今日みたいな日は何か面白えことがあるに違えねえ。白Tシャツ、インディゴブルーのジーンズに雪駄履き、お気に入りのスカーフを首に巻き、羽根挿しの麦藁帽を小粋に頭に乗っける。ピーチクパーチクとさえずるヒバリの鳴き声を聞きながら、気持ちのいい風が吹く川沿いの土手をぶらぶらと歩いてみることにした。
 俺は江戸川亭鉢五郎(はちごろう)。落語

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落語家探偵 事件ノオト 第六話 神秘の数秘術

落語家探偵 事件ノオト 第六話 神秘の数秘術

 師匠から言いつけられた酒蔵ミッションだが、今回は兵庫県を訪れることにした。兵庫県には、京都・伏見、広島・西条とともに、「日本三大酒所」といわれる灘五郷があるが、知る人ぞ知る酒蔵の銘酒を入手する方がミッションの主旨に近いような気がする。周辺にもレアな観光スポットがあるはずだ。
 ってなわけで俺たちはまず、三番弟子、江戸川亭花魁(おいらん)姉さんの出身地、兵庫県小野市を訪れた。そろばん生産量日本一の

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落語家探偵 事件ノオト 第五話 掟

落語家探偵 事件ノオト 第五話 掟

 買い物客や通行人が行き交う銀座の高級時計店に、白昼堂々、窃盗団グループが押し入った。ハッカー集団アノニマス風のガイ・フォークス・マスクを被った四人組がガラスショーケースを叩き壊しながら、鷲掴みにした商品を次々とバッグに入れて、停めてあった車に乗り込んで逃走した。
「これ本物の強盗?」
「ドラマか何かの撮影じゃない?」
 目の前で起きている光景に通行人は唖然とした様子だが、冷静にスマホで撮影してい

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落語家探偵 事件ノオト 第四話 特殊能力

落語家探偵 事件ノオト 第四話 特殊能力

 合理的に説明できねえような超自然的な能力のことを「特殊能力」というんだそうだ。たとえば、スポーツマンや音楽家は、超人的に足が速いとか、耳がいい、という肉体的特殊能力を持っている。看護師や介護士が、患者やケアの必要な人に、献身的に寄り添うことができるのも一種の特殊能力だ。
 探偵にはどんな特殊能力が必要なんだ?
 落語家にはどんな特殊能力が必要なんだ?
 俺にはいったいどんな特殊能力があるんだ? 

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落語家探偵 事件ノオト 第三話 第一発見者

落語家探偵 事件ノオト 第三話 第一発見者

 『尾祖松商事社長、自宅で死亡! 心臓発作か?』
 早朝、ニュース番組の字幕テロップが目に飛び込んできた。俺の脳裏に、あの事件が鮮明に蘇った。
 
               * * *
 
 ある営業マンが尾祖松商事へ商談に行く途中、車に跳ねられて死んだ。俺たちはこのひき逃げ事件の現場調査に同行したことがあった。
 当時、とある大型プロジェクトの競争入札で、尾祖松商事に談合疑惑がかけられていた

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落語家探偵 事件ノオト 第二話 おとり捜査

落語家探偵 事件ノオト 第二話 おとり捜査

 東西に走る見通しの良い直線道路で、横断歩道を渡ろうとした男を白い車が跳ねた。
 横断者に気づいてブレーキを掛けようとした八十代の高齢ドライバーが、間違ってアクセルを踏んじまったらしい。車に跳ね飛ばされた四太郎(よたろう)は、まるでオリンピックの体操選手のようにクルクルッと回転し、両手を上げて「パー」と叫びながらピタッと着地した。幸いなことに、野郎は無傷だった。高齢ドライバーは後日運転免許を返納す

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落語家探偵 事件ノオト 第一話 不可解な死

落語家探偵 事件ノオト 第一話 不可解な死

◆あらすじ◆
 ノマド生活に嫌気が差した俺は、落語家、江戸川亭乱走(えどがわてい らんそう)師匠に弟子入りし、鉢五郎(はちごろう)という名前を貰う。見習いの俺に、師匠は二つのミッションを課した。
一、全国の酒蔵を巡り、おススメの酒を入手してくること。
二、兄弟子である四太郎(よたろう)の世話をすること。
 何をやってもうまくいかない四太郎は、落語を覚えることを諦めて探偵になると言い出し、俺は助手に

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