越智 間九良 (おち まくら)

ばかばかしいことや価値のないことを書いて「まったく、くだらねえなあ」と思われたい作家。…

越智 間九良 (おち まくら)

ばかばかしいことや価値のないことを書いて「まったく、くだらねえなあ」と思われたい作家。『くだらないエッセイ』、連作ミステリー落語&全国酒蔵紀行『落語家探偵 事件ノオト』。

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くだらなさのデザイン ⇑くだらないエッセイ⇑

 日本の伝統芸能である落語に『あくび指南』という演目がある。ある男が友人を誘って、あくびの師匠に “あくびの仕方” を習いに行くという実にくだらない噺なのだが、この噺の作者は、いったいどのようにしてこんなくだらないアイデアを思い付いてしまったのか、私はそれが知りたい。  そもそも、くだらない事とはどのようにくだらないのか。つまり、くだらない事というのはどのようなデザイン(構造)なのか。このような『くだらないエッセイ』を書く事に何か意味があるのか、と考えながらこの文章を書いてい

    • 失言を笑ってはいけない ⇑くだらないエッセイ⇑

       「口は災いの元」といいます。私たちは言わなくてもいいことを、つい言ってしまう。失言ともいいます。  最強クラスの台風10号が日本を縦断している真っ只中、浜松市長が、 「台風が近づくとなぜか高揚する」 と仰った。翌日の定例記者会見で、 「市民の感情からかけ離れた不適切な発言だった」 と謝罪し、撤回。  正直な人だなあと思いました。だって、私もその気持ち、分かりますもん。誠に正直なお気持ちだと思うんですけど、これは「言っちゃいかんかった」ですね。「言っちゃいかん」ではなくて、

      • 落語家探偵 事件ノオト 第九話 犯人は舞い戻る

         小料理屋「七草」の暖簾をくぐって店に入ろうとすると、なにやら店の中で、強面の野郎が女将を目の前にして凄んでいる。テーブルに出刃包丁をダーンと突き立てて、 「手荒な真似はしたあないんや。姐さんに恨みは無い。あるんは旦那のほうや」  一八(いっぱち)じゃねえか。まだ東京にいたのか。  コードネームはワン・エイト。通称、詐欺師の一八。大阪を拠点に犯行を重ねている全国指名手配犯だ。野郎は決まって毎月十八日に犯行に及ぶ。そう簡単には尻尾を掴ませねえ、うなぎみてえな野郎だ。  数カ月

        • 落語で考える 文系か?理系か? ⇑くだらないエッセイ⇑

           毎度、くだらないエッセイにお付き合いいただきありがとうございます。  今回はこの、いろんなところで、あーだこーだ、と論争される「文系か? 理系か?」問題について、古典落語の『三方一両損』という演目を題材に考えてみようと思います。簡単にこの噺のあらすじを書いておきます。                * * * ◆古典落語『三方一両損』◆   江戸っ子で大工の吉五郎が、金三両と書付を入れた財布をどこかで落としてしまった。落とした金のことは忘れて、逆にさっぱりしたいい気分で

        くだらなさのデザイン ⇑くだらないエッセイ⇑

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        • くだらないエッセイ
          16本
        • 落語家探偵 事件ノオト
          9本

        記事

          落語家探偵 事件ノオト 第八話 幼馴染の死

           アパートの一室で独身男性の変死体が発見された。  両国警察署の熊倉刑事から、江戸川亭探偵事務所に捜査協力依頼があったのは今朝の事だ。さっそく、四太郎と俺は警察の現場検証に同行することになった。  死亡した男性の名前は阿久津猛(あくつ たけし)。室内には干されたままの衣類、敷きっぱなしの布団、散らかった競馬新聞に週刊誌、吸殻で山盛りになった灰皿、食べかけの食事、床に転がったカップ酒の瓶。台所には、まな板や包丁、鍋、皿が洗われないままで溜まっている。部屋に争ったような形跡はない

          落語家探偵 事件ノオト 第八話 幼馴染の死

          落語家探偵 事件ノオト 第七話 奇妙な死体

           寝床のローバーミニから外に出て、両手を拡げて伸びをした。良い天気だ。今日みたいな日は何か面白えことがあるに違えねえ。白Tシャツ、インディゴブルーのジーンズに雪駄履き、お気に入りのスカーフを首に巻き、羽根挿しの麦藁帽を小粋に頭に乗っける。ピーチクパーチクとさえずるヒバリの鳴き声を聞きながら、気持ちのいい風が吹く川沿いの土手をぶらぶらと歩いてみることにした。  俺は江戸川亭鉢五郎(はちごろう)。落語家、江戸川亭乱走(らんそう)師匠の五番弟子だ。見習いの俺は、四番弟子で探偵の四太

          落語家探偵 事件ノオト 第七話 奇妙な死体

          落語家探偵 事件ノオト 第六話 神秘の数秘術

           師匠から言いつけられた酒蔵ミッションだが、今回は兵庫県を訪れることにした。兵庫県には、京都・伏見、広島・西条とともに、「日本三大酒所」といわれる灘五郷があるが、知る人ぞ知る酒蔵の銘酒を入手する方がミッションの主旨に近いような気がする。周辺にもレアな観光スポットがあるはずだ。  ってなわけで俺たちはまず、三番弟子、江戸川亭花魁(おいらん)姉さんの出身地、兵庫県小野市を訪れた。そろばん生産量日本一の小野市。地元の子どもたちは小さい頃からそろばんに親しみ、姉さんも中学生の時に全国

          落語家探偵 事件ノオト 第六話 神秘の数秘術

          落語家探偵 事件ノオト 第五話 掟

           買い物客や通行人が行き交う銀座の高級時計店に、白昼堂々、窃盗団グループが押し入った。ハッカー集団アノニマス風のガイ・フォークス・マスクを被った四人組がガラスショーケースを叩き壊しながら、鷲掴みにした商品を次々とバッグに入れて、停めてあった車に乗り込んで逃走した。 「これ本物の強盗?」 「ドラマか何かの撮影じゃない?」  目の前で起きている光景に通行人は唖然とした様子だが、冷静にスマホで撮影していたりするところが現代社会の異様さを醸し出している。              

          落語家探偵 事件ノオト 第五話 掟

          落語家探偵 事件ノオト 第四話 特殊能力

           合理的に説明できねえような超自然的な能力のことを「特殊能力」というんだそうだ。たとえば、スポーツマンや音楽家は、超人的に足が速いとか、耳がいい、という肉体的特殊能力を持っている。看護師や介護士が、患者やケアの必要な人に、献身的に寄り添うことができるのも一種の特殊能力だ。  探偵にはどんな特殊能力が必要なんだ?  落語家にはどんな特殊能力が必要なんだ?  俺にはいったいどんな特殊能力があるんだ?   俺の特殊能力を活かした天職に、俺はいつか巡り合うことが出来んのか?   そ

          落語家探偵 事件ノオト 第四話 特殊能力

          落語家探偵 事件ノオト 第三話 第一発見者

           『尾祖松商事社長、自宅で死亡! 心臓発作か?』  早朝、ニュース番組の字幕テロップが目に飛び込んできた。俺の脳裏に、あの事件が鮮明に蘇った。                * * *  ある営業マンが尾祖松商事へ商談に行く途中、車に跳ねられて死んだ。俺たちはこのひき逃げ事件の現場調査に同行したことがあった。  当時、とある大型プロジェクトの競争入札で、尾祖松商事に談合疑惑がかけられていた。ガイシャ(被害者)は談合に関する情報を握っていたため、誰かが雇った殺し屋に消さ

          落語家探偵 事件ノオト 第三話 第一発見者

          noteと神社は似ている ⇑くだらないエッセイ⇑

           noteにアクセスすることは、神社へ参拝することに似ている。  「出版社や編集者の目に留まりたい」などの動機で文章をUPする人は、神様に「願いを聞いてもらいたい」「願いを叶えてほしい」という動機で参拝する人に似ている。  「自分の想いを書いておきたい」「自分とはこういう者なんです」などの動機で文章をUPする人は、神様に「自分のことを喋りたい」「日々の感謝をしたい」「自分自身を懺悔したい」という動機で参拝する人に似ている。  これらの人たちは、note神社におわします神様と

          noteと神社は似ている ⇑くだらないエッセイ⇑

          笑い袋の緒が切れる ⇑くだらないエッセイ⇑

           現代はまさにストレス社会だ。街を歩いていると、今にも堪忍袋の緒が切れそうな人があちらこちらにいる。危ないので、そういう人には近付かない方が身のためだ。堪忍袋の緒が切れそうな人は、自らのイライラ加減を意図的に放っている。「俺は怒っているんだ!」「私は腹が立っているのよ!」ということを周囲に伝えようとしているのだ。  ところが、今にも笑い袋の緒が切れそうな人はあまり見かけない(ここでいう笑い袋とは、ボタンを押すと笑い声が出る巾着袋のことではありません)。なぜなら、笑い袋の緒が切

          笑い袋の緒が切れる ⇑くだらないエッセイ⇑

          葛藤を書く ⇑くだらないエッセイ⇑

           物書きにはやはり、葛藤がなければならない。書きたいのに書けない。書けないのに書きたい。そういう葛藤が必要だ。  書き手の心の葛藤だけではなく、書く内容にも葛藤がなければならない。   小説でいうと、たとえば、宝の地図を見つけた少年が宝探しの冒険に出る。何の困難も無く宝を探し当てて帰ってくる。めでたしめでたし。こんな葛藤のない小説など何の面白みもない。宝を探し求めるライバルが出現して先を争ったり、途中で盗賊に殺されそうになったりするからこそ、読み手はドキドキワクワクして先を

          葛藤を書く ⇑くだらないエッセイ⇑

          ばかばかしいにもほどがある! ⇑くだらないエッセイ⇑

           知人のクリエーターがオススメしてくれた映画『シャークネード』を観た。まさに、「くだらないエッセイ」シリーズにぴったりのネタ満載だった。決して悪評価ではなく、むしろ私の中では好評価の部類に入る。   私は以前から、何事もない日常の事象がどのようになれば「ばかばかしさ」や「くだらなさ」を帯びてくるのか、その境界線に関心がある。この『シャークネード』という映画には、その疑問に対するヒントがある。書かずにはいられない衝動に駆られたので書いておくことにする。 ※ 多少ネタバレがあ

          ばかばかしいにもほどがある! ⇑くだらないエッセイ⇑

          これは気になる ⇑くだらないエッセイ⇑

           これはくだらなさすぎると、自分で書いていて思う。  「冷やし中華まん」ときた。しかも、冷やし中華と間違われないように「まん」を強調している。これは気になる。まずはキャッチコピーで「おやっ?」と注目してもらうことに成功している。宣伝手法の好事例といえるだろう。  「冷やし中華」というのは、みなさんご存じの通り、茹でた中華麺を冷水で締めて冷やした日本の麺料理。キュウリやトマトなどの夏野菜、叉焼や金華ハム、錦糸卵、茹でモヤシなどの具材を麺にのせて、冷たい酢醤油、胡麻だれ、味噌だ

          これは気になる ⇑くだらないエッセイ⇑

          羽衣は風まかせ ⇑くだらないエッセイ⇑

           昔から私の興味を惹きつけてやまないもののひとつが『天女の羽衣』だ。いつもばかばかしく、くだらないエッセイを書いて、いろんな人からクレームやお叱りを受けるが、それも覚悟のうえで、今回は羽衣の謎に迫ってみたい。  羽衣伝説は世界各地に伝承されている。  天女が地上に降りてくる。身に付けていた羽衣を脱いで水浴びをしている間に、男が羽衣を盗んでどこかへ隠してしまう。羽衣を無くして天に帰ることができなくなった天女は途方に暮れる。男は、羽衣を盗んだことを黙ったまま、天女と結婚し、子供

          羽衣は風まかせ ⇑くだらないエッセイ⇑