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場所とともに、ことばは育つ〜「名付ける」パワー その3〜

なんぼー:去年りさちゃんが教えてくれてからカラー診断や骨格診断を意識して見るようになったけど、本当に最近色々なところで使われているよね。

りさ:本当に!ファッションもメイクも、当然のように語られるようになりましたよね。この間の「情報が飽和する時代に、診断がガイドになる」っていう話は面白かったです。

なんぼー:最近は、ファッションの診断に加えてMBTIが人気だね。

りさ:MBTIこそ、あらゆるところで活用されてますよね〜!韓国アイドルたちはプロフィールに載せてるし、最近はマッチングアプリでも活用されてますよ。

なんぼー:まさにマッチングアプリなんて情報が飽和している時代のガイドって感じだね。

りさ:見るべき情報を絞り込むための手段にもなってますよね。今まで名前のなかったことを名付けたり、ラベルをつくったりするパワーはやっぱりすごいですね。

なんぼー:「名付けるパワー」についてまたいくつか面白い話を見つけたから紹介しても良い?

りさ:是非是非!教えてください!

なんぼー:まず、最近面白かったのが、ドン・キホーテに売っている商品で見かけた「羽織る魔法瓶」という表現。魔法瓶のような仕組みで熱を逃さずに温かくしてくれるらしいんだけど、一瞬「そんなわけないでしょ」と違和感を感じつつもすごくわかりやすい名前だよね。

りさ:そういうワードって結構ある気がする。去年流行ったモノだと「まるでこたつソックス」とか。

なんぼー:「人を駄目にするソファ」とかもそうだよね。真面目な人は敬遠するかもしれないけど、「そんなわけないでしょ〜」と思わせてインパクトを与える。

りさ:「人を駄目にする」はネガティブな表現なのに、魅力的で面白い!

なんぼー:「本当はダメになりたい」という隠れた気持ちをよく観察しているからこそ出てくる言葉だよね。それからそもそも、「魔法瓶」っていう言葉もかなり面白いと思うんだけど。

りさ:確かに!魔法の瓶!

なんぼー:「魔法みたいに液体が温かいまま」ということなんだろうけど、なかなか思いつかないよな〜。今となっては、保温機能にそこまで魔法を感じるわけじゃないから、その時代だったからこそ、価値を発揮する名前になってしまったけど。

りさ:ただ、こういう言葉って取扱い注意ですよね。むしろ今は、インパクトがある言葉がSNSで増えすぎている気もします。コスメを探していても「〜すぎる」「感動モノ」「もう戻れない」とかそういう言葉が多くて、本当はどれがいいのかわからなくなっちゃう。

なんぼー:今SNSで流行っている過剰な修飾語、SNSのコミュニケーション速度で発信しようと思うとそうなっちゃうんだと思う。

りさ:どういうことですか?

なんぼー:例えば本当は「このマグロは◯◯から仕入れて、10年修行した大将が〜」とか伝えるほうがいいんだろうけど、いちいちそういうことを調べて発信するには、SNSコミュニケーションは速度が速すぎる。だから、とにかく修飾語を強くしていくことでインパクトを伝えるという手法が取られているんじゃないかなと思うんだよね。

りさ:確かに、長々とした説明や歴史を発信されたとしても、殆どの場合見ていられなさそう。

なんぼー:そうだよね。だからどんどんインパクトのある言葉で魅力を表現するようになる。だけど実は、よくある「震えるほどうまい◯◯」とかいう表現って実は何も説明していない。例えば「震えるほどうまい鮨」って、実はどんなふうな鮨かわからないじゃない。

りさ:確かに。すごいことしか伝わらない(笑)

なんぼー:だから、いつかは廃れるんじゃないかとは思うけどね。

りさ:SNS上の修飾語のインフレはいつ止まるのか……!

なんぼー:「名付ける」パワーの話に戻ると、「羽織る魔法瓶」と同じく『ドン・キホーテ』という場所にぴったりの名付けをしていると思ったのが「スニーカー心地のビジネスシューズ」。

りさ:これも同じく「そんなモノあるのかな〜」って思いますね。

なんぼー:そうそう。これは、ドン・キホーテだからこそ活きる表現だと思っていて。ドン・キホーテって、どんなモノでも揃っていて、痒いところに手が届くものもあるイメージじゃない。

りさ:そうですね。雑多にものが並んでいて、何でも置いている感じ。

なんぼー:それでいて、ど真ん中のモノを買うところでもない。普通、ビジネスシューズの価値は「ちゃんとして見える」「フォーマルに見える」というところがまずあって、その次に「履きやすい」だと思うんだよね。

りさ:ビジネスシューズですもんね。

なんぼー:ドン・キホーテはそういう、100人中100人は求めていないが、10人は強く求めているモノを置いているポジションをちゃんと理解して、「スニーカー心地のビジネスシューズ」みたいなニッチなニーズを抑えているんだと思うね。

りさ:なるほど。確かに「羽織る魔法瓶」も「スニーカー心地のビジネスシューズ」も、誰かに強く刺さりそうなネーミング。なんとなくドンキっぽいし……。

なんぼー:POPみたいなネーミングだからじゃないかな。

りさ:そうだ!POPみたいだからドンキっぽいのか!

なんぼー:だからきっと「名付ける」ときには並んでいる場所を考えるのも大事なんだろうなあ。

りさ:それは忘れずにいたいですね!どこに並ぶ言葉なのか考える。

なんぼー:もう一つ素晴らしいと思ったのが「白湯」でさ。

りさ:あ!知ってます!!人気らしいですね。

なんぼー:そうそう。実は昔「アサヒ 富士山のバナジウム天然水 ホットPET340ml」という名前で販売してたらしいんだよね。

りさ:そうなんだ、知らなかった。でもなんかその名前だと買いたくないな。(笑)

なんぼー:それはどうして?

りさ:なんか温めてるだけっていうか……手抜きな感じがします。

なんぼー:だけど、バナジウム天然水として常温でも売ってる水だからね。ただ、気持ちはわかる。温められる前から買われている商品なのに、なぜか温めているだけだと価値が毀損してしまう。それを名前を変えることで、価値をあげたのではなく価値を変えているんだよね。

りさ:価値を変えている?

なんぼー:白湯って健康のために労力をかけてもやるべきアクションっていうイメージがあるじゃん。ただ温かいお茶を飲むのとは違うよね。

りさ:確かに。健康法としてよく言われていますよね。

なんぼー:だから「温まる飲み物」ではなく「健康のために」というニーズにハマる。プロダクトの内容は変わってないのに、名前によって、商品の位置づけが変わっている。

りさ:おもしろーい!それも確かに、コンビニで見かけたら健康を気遣っちゃうかも。どこで見られるか意識しながら使う「名付ける」パワー、さらに強力だ……!

なんぼー:また面白い例を見つけたら紹介し合おう。

りさ:そうですね!探すの楽しいです。見つけてみよう……!

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