「ありのままの自分を好きになってくれる男なんていないんですからね」
「校閲ガール」 (角川文庫Kindle版) 宮木 あや子 (著) KADOKAWA) (2016/8/25)を読んだ感想を書きたい。
ファッション誌編集を目指す主人公が配属されたのは校閲部。希望の部署への異動を目指して働くも、校閲の仕事の面白さに目覚めていくお仕事小説である。
女性作家によるお仕事小説(経済小説)は最高だ。辛い時に私を励ます。新たな気づきをもたらす。業界固有の知識を得られる。ストーリーも楽しめる。同性目線だから共感できる。
華やかな雑誌編集者の過酷な労働環境の描写に泣いた
「人が足りないの。仕事が多すぎるの。読者モデルがわがままなの。ライターさんの原稿が遅いの。外校さんとかデザイナーさんとか印刷所さんに陰でボロクソに言われるのあたしたちなの。売り上げも落ちてるの。広告部に圧かけられるのあたしたちなの。仕方ないの、不景気だから雑誌売れないの。でも景凡社の女性誌が安っぽくなったらこの業界終わりなの。でも売れるためには安っぽくするか確実に買うファンがついてるイケメン載せるしかないの。でもヤなの。自分のふがいなさにも力のなさにも絶望するの。ねえどうすればいいの」「校閲ガール」 (角川文庫Kindle版) 宮木 あや子 (著) KADOKAWA) (2016/8/25) Location 87%
タイトなスケジュールで期日前に仕事を終わらせる大変さは、どの仕事でも同じだと思う。しかし連日で帰宅せず勤務した経験は私にはない。華やかに見えるファッション誌編集の過酷な労働現場に思いを馳せた。
企業継続のために妥協する。誇り高く真摯に仕事に向き合う人ほど辛いだろうと考えた。
外見を整えることの重要性は男性も同じ
「ありのままの自分を好きになってくれる男なんていないんですからね。もしいたとしてもそういう人は平気で目の前でおならとかするんですよ。で、ブクブク太って汚い中年になるんですよ。ありのままのおまえを受け入れるんだからおまえも俺のありのままを受け入れろとか言って。あーやだやだ吐き気がする。ていうかー、一緒に暮らしてる彼氏が最近太り始めたんですよー。見た目と資産にしか価値がない男なのに太ったらおまえ無価値だろ自覚しろよって、どうやったらオブラートに包んで優しく伝えられますかねー。」(同上 Location 32%)
この文章を読んだときにその通りだと思った。特に外見に気を使わない男性にこの言葉を投げかけたい。ありのままの自分を好きになってくれる女なんていないぞ!
一緒に仕事をする同僚や取引先、一緒に過ごす友人・家族・パートナー。時と場所と場合に見合った清潔な装いを心がけてもらいたい。
見た目を整えることで仕事のパフォーマンスも変わる。外見や衛生面を改善する努力をすべきだ。
今井に「その人の何が好きなの?」と訊かれた。悦子は「顔」と答えた。世の中の人は表面的に、「内面の良さ」を好きになる人のほうが、顔を好きになる人よりも尊い心の持ち主だと言う。身なりが貧しくてもお金がなくても、内面さえ美しければすべて許されるみたいな風潮を、悦子は昔から噓だと思っている。もし世の中のすべての人がその考えに則って生きているならば、ファッション雑誌も美容雑誌も存在しないし、そもそもその元となる服飾産業も美容産業もこの世に存在しなかっただろう。(同上 Location 94%)
生まれた時の自分自身から、なりたい姿へどれだけ近づけていけるか。これに取り組む姿勢が美しいのだと思う。男性も同様だ。
ファッションに係る知識は雑誌で学べる。難しいと感じたら、すべてのワードローブをホワイトシャツとブラックジャケットとブラックパンツだけにしてみるとか、方法はある。
夏は暑いかもしれないけど黒をベージュに変えるとか!。
ビジネスにおける美意識
見た目が整っていることは悦子にとって正義で、見た目を整えようと努力することも悦子にとっては正義だ。分野を変えて、同じ正義が校閲に存在していたことに気づいた。文芸の校閲がやりたくて出版社に入った米岡は、日本語をより正しく美しく整えてゆく作業にエクスタシーを感じるという。その感覚が聞いた当初は判らなかったが、今日初めて判った。
ファッションに存在するルールは季節ごとに変わり、そのルールを学ぶためのものがファッション雑誌だ。文章に存在するルールも、媒体や筆者ごとに変わる。ルールを学び、体現してゆく作業。悦子にとって遥か彼方、というか別の宇宙に存在していたファッション雑誌と校閲が、今日、ごく細い糸でだが、つながった。(同上 Location 94%)
美しいという感覚を私は仕事をする上で大切にしている。「この業務プロセスは(計算過程は)美しくないな」とか考える。効率性、正確性、準拠性、有効性、重要性、あらゆる要素をバランスよく備えたパフォーマンスを美しいと感じるのだと分析する。
このあたりの感覚は「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」」 (光文社新書) (2017/7/19 山口 周 (著))での著者の主張のほうがずっと先を行くと感じる。一度読んだものの咀嚼(そしゃく)の途中で、読み返したいと考えている。
女性作家による経済小説は少ないのでは
私はお仕事小説(経済小説)が好きだ。大変な思いをしているのは自分だけではないと思える。新たな気づきも得られる。業界固有の知識を得られる。ストーリーも楽しめる。
一方で、経済小説は男性作家によるものが多いと感じている。筋を楽しみ業界を知ることはできるが、男性視点の描写に共感できない場面がある。読書の楽しさが損なわれるのだ。
本作のような女性作家のお仕事小説は私にとって貴重品だ。女性の社会進出に合わせ、女性作家は恋愛小説から経済小説へジャンル変更することを切望する(と大した読書量でないくせに言う)。
(参考)読めばやる気UP 専門家おすすめ「お仕事小説」15選(日経新聞電子版より)
本書を手に取ったのは、日経新聞のブックコラムでやる気UPのお仕事小説として紹介されていたからだ。
読めばやる気UP 専門家おすすめ「お仕事小説」15選
「主人公が仕事に取り組む姿を描き、プロ意識や職務を全うする大切さを教えてくれる「お仕事小説」。書店員ら12人の専門家が、仕事と改めて向き合うきっかけになる作品を選んだ。」(2020/11/30 日経新聞電子版)(2021年9月4日 13:17閲覧)
終わりに
本書の読了は3か月ほど前だった。感じたことや刺さった文章をNOTEに吐き出さなければ次の書籍に進めない気がしていた。書いてすっきりしたので、次の書籍に進みます。
長文お読みくださりありがとうございました。
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