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ワークショップとファシリテーションAtoZ

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ワークショップとは何か?ファシリテーションとは何か?上達する方法はあるのか?経験と知識から体系的に書いています(連載中)
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00-「平成」という時代とファシリテーター、ワークショップデザイナーに至るまで

少々壮大だが「平成をふりかえる」ことから初めてみたい。  私は1980年生まれ、バブル崩壊から就職氷河期を10代で過ごした我々はロストジェネレーション(失われた世代)と言われる。なんとも失礼な話だな、と思いつつ、失われていったものが多い時代を確かに生きてきた。  では平成では何が消えたのかと言えば、まず「正解」が消えた。つぎに「つながり」が。そして「希望」が。消えたと表現すると、本当に身も蓋もないが、むしろ平成という時代はそれらを「どう創るか」に注力する時代だっただろう。

01-ファシリテーションは教えられない?

「ファシリテーションは教えられないから」 ワークショップデザイナーを育成する機関に関わる中で、受講生の方々からボヤキのように度々聞いた。ワークショップを取り入れた講座、研修をしている企業のご担当者や演劇関係者が”フィードバックをもらいたいが、スタッフの中で自分が一番詳しいから「本当にこれでいいのか?」と心配になる時でも、アドバイスはもらえないし、後進の育成もなかなか…”というジレンマの次に出てくる言葉だ。 「そうですよねえ。自分のやり方を自分で作っていくしかないですもんね

02-ワークショップ、ファシリテーションって?

・その言葉から連想されるものあなたは「ワークショップ」「ファシリテーション」と聞いて、まずどんな風景をイメージするだろう? 模造紙と付箋を用い、グループで話し合いをしているシーンや、 対話の場面を思い浮かべる人、 話しあう内容が見える化された中で会議をしている様子であったり、 はたまた美術作品を観ながら対話しているものや、 大勢で工作を手がけているアート体験であったり、 自然の中で時間を過ごしているものかもしれない。 そのどれもがワークショップであり、ファシリテ

03-答えも道のりも不確定なところから

・「みんなちがって、みんないい」のジレンマ「頭のいい人が答えを考えてくれる、それを教えてもらう」「その答えをいかに早く多く覚えるか」といった時代は過ぎ去り、仕事も社会も学歴も「これがお手本」といったモデル(正解)が曖昧になった時代では、自由の反面、不安も高まり、嗜好の同質性が高いコミュニティに人が集まるのはある意味仕方のないことだ。そして、自分の知らない情報には、ぐるナビやAmazonのレビュー数や点数といった「数」が一定の信頼になるのも当然であろう。 一方、正解が曖昧にな

04-大切なマインドの話。「共創」「納得解」とは。

答えのない(答えが多様な)時代ゆえに「一人一人違って良い」と「みんな違うと困る」という状況下でワークショップ やファシリテーションは、どう全員で答えを創り出して行くか、という心がまえや役割について言及した前回。ワークショップ デザイナーは、いくつもの選択肢を用意しておくこと、その動的判断を下すチェックポイントをあらかじめ想定しておくといった「道筋の準備とバリエーション」が重要であると伝え、ファシリテーターは、進行の都度、参加者の反応を観たり、問いで考えや意見を引き出し、それを

05-ワークショップの特徴

私はワークショップを「共振・共鳴する場、わかちあう場」と定義づけているが、実際にプログラムを設計していく立場として、もう少し具体的な特徴を6点に絞り、今回は述べたい。 と言っても、中野民生氏の「講義など一方的な知識伝達のスタイルではなく、参加者が自ら参加・体験して共同で何かを学びあったり創り出したりする学びと創造のスタイル」(『ワークショップ』岩波新書 11頁)という定義づけからさほど変わらないのは重々承知であるが、実践者として自分の言葉に置き換える、という作業は大切にして

06-ファシリテーター 10の心構え(前編)

ワークショップの特徴を6つに分けて説明した前回。それではプログラムデザインされたワークショップを進行していく(参加者を促進させる)ファシリテーターにはどういった振る舞いが求められるか。 実践者として、最も端的に整理できていると感じるのは、中野民生著『ワークショップ』(岩波新書 147頁)内でも引用している西田真哉氏の「ファシリテーターであるために望ましい条件」として10の項目(トップ画像参照)である。 ただ少し抽象度が高かったり、「なんでその項目、その言葉づかい?」という

07-ファシリテーター 10の心構え(後編)

中野民生著『ワークショップ』(岩波新書 147頁)内でも引用している西田真哉氏の「ファシリテーターであるために望ましい条件」として10の項目(トップ画像参照)。 ただ少し抽象度が高かったり、「なんでその項目、その言葉づかい?」というものもある中で、実践を重ねていくことで「もしかして、こうだから?」という自身の言い換えも含めて記述する。(後編) ⑥プロセスへの介入を理解し、必要に応じて実行できる。  ➡︎(自覚が大事) ファシリテーターの介入のタイミングも「評価的な言動を使

08-ワークショップの5系統

コミュニティや地域、アート、教育、人材育成といった分野で(一日で完結する狭義の)ワークショップの依頼を受けた時、プログラムデザインで心がけることは、ワークショップの個性としてそもそも何を際立たせていくか、という点である。自分が着想する際に大きく5つに分類しながらやっているので、今回はその分類について実践例とともに述べる。 ①目標達成系(例:たまご落とし)チームワークに必要な体験を促すワークショップ。試行錯誤やトライ&エラーを繰り返しながら、グループで「成功を目指す」体験を重

09-コミュニケーションのデザイン(関係編)

ワークショップをデザインするには、いつもと(ちょっと)違うコミュニケーションをいかに誘発するか、という工夫が欠かせない。この”いつもと(ちょっと)違う”へ到達するにあたり、私は「関係・環境・構造・方法」という4つのデザインを心がけている。今回はまず起点になる「関係」に言及していきたい。 ・関係のデザインって?ワークショップの依頼がきた時、まずはその場がどのような状況に置かれているのか、という部分に着目する。プロジェクトをこれから立ち上げる初対面同士なのか、一日だけの講座参加

10-コミュニケーションのデザイン(環境編-会場ver)

ワークショップをデザインするには、いつもと(ちょっと)違うコミュニケーションをいかに誘発するか、という工夫が欠かせない。この”いつもと(ちょっと)違う”へ到達するにあたり、私は「関係・環境・構造・方法」という4つのデザインを心がけている。今回は当日のワークショップのコミュニケーションを促進させる「環境のデザイン」について言及していこうと思う。 ・そもそもコミュニケーションの環境のデザインって?頭を最初によぎったのは机や椅子の配置のことだ。同じ人数でも机や椅子によって感じ方は

11-コミュニケーションのデザイン(環境編-準備ver)

会場のレイアウトや机の配置などに前回は言及したが、”ワークショップ当日のコミュニケーションを促進させる環境づくり”は、打ち合わせやプログラムの決定、告知、直前準備、本番、クライアントとのふりかえりといったプロセスから気を配れて初めて適切な環境のデザインを達成できるものと考えている。 「コミュニケーションの環境のデザイン」という言葉において、かなり拡大解釈をしているが、こういったコーディネートの範疇もワークショップデザインに含まれていることは強調しておきたい。 (ただ、この

12-コミュニケーションのデザイン(構造編)。大人数の場合。

ワークショップ当日をどれだけ豊かにバリエーションを持ったふくらみのあるコミュニケーションするか、といった構造デザインの話をしたい。特に数時間〜1日のワークショップの場合は、作り込みの密度をかなり高めなければならないため、バリエーションを持って考えることが求められる。今回のコラムはそんなプログラムの流れを作り出す話題。 ・3つの構成要素 ワークショップには流れが重要だ。一番の狙いに向けて階段をのぼるよう段階的に構成し、頂きに到達すれば終わりに向かって徐々に降りていく。そんな

13-コミュニケーションのデザイン(構造編)。少人数の場合。

「グループのカタチ、行動のカタチ、言葉の方向性」の3要素の組み合わせからバリエーションを作り、コミュニケーションの構造をいかに豊かにするか、という点を解説しているコミュニケーションのデザイン(構造編)。前回は大人数ワークショップの事例を元に、いかにテンポよくバラエティに富み、グルーヴを作っていくか、という視点であったが、では参加者が少人数の場合でのワークショップではどうしていくか、といったことを伝えていきたい。 ・小人数ワークショップの場合(かつ動きの少ない講座系) 旧来