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08-ワークショップの5系統

コミュニティや地域、アート、教育、人材育成といった分野で(一日で完結する狭義の)ワークショップの依頼を受けた時、プログラムデザインで心がけることは、ワークショップの個性としてそもそも何を際立たせていくか、という点である。自分が着想する際に大きく5つに分類しながらやっているので、今回はその分類について実践例とともに述べる。

①目標達成系(例:たまご落とし)

チームワークに必要な体験を促すワークショップ。試行錯誤やトライ&エラーを繰り返しながら、グループで「成功を目指す」体験を重視したもの。

ワークショップは誰かとともに作業をしたり、コミュニケーションをとることが多いので「何かの目標に向けて共にやり遂げる」というものとの相性は良い。ただ、目標達成系のワークショップは話し合いや試作、実験といったプロセスデザインをしっかりとプログラムに落とし込んでおかなければならない。

簡単に列挙すると

・意見は否定しない(Yes,and)
・発散は質より量
・意見の発散と収束は混ぜない
・ある程度話し合ったら(意見を棚上げし)、ある程度手を動かし形にして、(意見を棚卸し)ふりかえる。(話し合い→試作→実験→ふりかえり→改善)

といった要素をしっかり組みこむ。もちろん、すべてこの要素を入れる訳ではない。時として、手を動かしながら状況に応じて形が変わっていくようなものや、あえて対話を制限することで、異なる知覚が鋭敏になり非言語コミュニケーションが向上することもあるため、その都度、考えられるワークショップの肝の部分に応じて、諸要素のバランスは変えていくべきだろう。

この類のワークショップは、コミュニケーション教育、チームビルド、理系領域(医療・製造業など)、問題解決プロセス、プロジェクト進行研修が求められる時に手がけることが多い。

代表例)「たまご落とし」
限られた材料の中で「高さ4mぐらいから卵を落としても割れない装置を作る」という目標の達成を目指す。グループワークを行い、思考したことを可視化し、実践する。グループでの対話を深めながら、思考と実践を重ねることで想像と現実に起こることの強度のちがいを知り、試行錯誤しながら不可能の壁を越えるようにチャレンジする。問題解決のアプローチとして発散と収束と実験とふりかえりの過程を体験し、グループワークならではのPDCAサイクルの基本を学ぶ。

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まずは話し合い。考えられる意見をすべて出し切る

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ある程度出たら、見当をつけて、いくつか試作を開始

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実験後、割れたら、ふりかえり改善。成功したら材料をさらに制限させて、チャレンジする。


②共有体験重視系(例:ゆびの気持ち)

チームワークに必要な体験を促すワークショップ。「目標達成型」に近いが、「成功を目指す」というより、「一つのものをグループでつくる」体験を重視したもの。

目標達成系ではゴールを目指す気持ちに焦りも生じ、時折、できる人ができない人、苦手な人を引っ張る。できない・苦手な人も指示されることを待つ、ということになる。時としてそういうリーダーシップも必要であるが、ワークショップが大切にする「納得解」という状態とは異なる。「足並みを揃える」「全員が見通しがついてから始める(イメージの共有)」という要素を大切にすることにより、グループワークにおける認識や経験の共有からファシリテーションが活きている場を経験してもらう。

そのため、この類のワークショップはチームビルディングも兼ねて冒頭に経験してもらうことが多く、また引率型のリーダーシップではなく、息を合わせる、歩みを整える、というファシリテーター型のリーダーシップを学んでもらう時に実施することが多い。

ただ「納得解」「イメージの共有」を重視するワークショップは、引率型リーダーシップに影を潜める場合が多いため、その効果を実感してもらう時は、同じアクティビティを引率型リーダーシップのやり方とファシリテーター型リーダーシップの2つのやり方を行い比較することで、スピード感やプロセスの安心感、チーム感がどうだったか、といった内省時間をとり、より自覚的にファシリテーター型のリーダーシップを学ぶことになる。

この類のワークショップは、コミュニケーション教育、チームビルド、組織開発、ファシリテーション研修、リーダーシップ研修、プロジェクト進行研修が求められる時に手がけることが多い。

代表例)「ゆびの気持ち」
テーマは「共有」。
「ゆびの気持ち」は通常の折り紙の約100倍にあたる4m×4mの巨大折り紙で「箱」をおる。チームワークで求められる一つのことについて、異なる人間が一つのことを成し遂げようとする際、同じゴールイメージを具体的に描けているか。指示する人、される人。という関係性では、間違いなくチームのパフォーマンスは落ちる。イメージや経験の共有を重ねて、ファシリテーションが発揮されながらゴールに向かう体験を重視する。

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最初は「ハコの折り方」が書かれたマニュアルを渡すだけで、制限時間内で完成することを目指させる。ほとんどの場合、得意な人が指示役や率先したリーダー役を務める(が、折りを進めるにつれて、一人で指示できる範疇を超え始め、停滞したり、周囲もなにをしたらいいかわからず、たちつくすことが多くなる)

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完成後、また違う「ハコの折り方」説明書を渡すが、今度は普通の折り紙で全員が折れるようになるまで練習し、それから巨大折り紙を試みる。全員が自主的に動ける時間を体感する。

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③他者と私系(例:質問の時間)

コミュニケーションに必要な体験を促すワークショップ。他者と自分との関わりを通じて、他者理解や自己理解を違う視点から体験する。

ワークショップにおいて「ファシリテーターと参加者」「参加者と参加者」といった「相互作用」の中で創造や学びを得ていくため、おのずと目標達成や共有体験の機会以外に「他者理解、自己理解」が促進されるのは自明である。ただ、間違ってならないのは、ワークショップは単に他者とわかり合うことだけが目的ではない。「同じだと思っていたが違う。違うと思っていたが同じだった」という誤差への眼差しに敏感になることによって「”わかる”が深くわかる」「”わからない”がわかる(に変わった)」「”わからない”が理由はわかる」「”わからない”ことがわかった」といったような他者との距離感(の変化)を適切に理解できることが重要と考える。

同じ単語でも受け手次第でイメージするものに誤差があるように、価値観や基準の違いを炙りだすことや、コンテクスト(背景、文脈)が異なる他者でも訊き方で次第で他者の価値観の尺度を理解できるようになることを体験することは、異なる他者といかにして一つのものを創り出していく前段のコミュニケーションの作法を教えてくれる。

この類のワークショップは、ファシリテーターのスキル育成、対人領域(ビジネス、医療、福祉、コーチングなど)、グループワーク基礎が求められる時に手がける。

代表例)「質問の時間」
テーマは「質問の力」。
多様な人が関わるプロジェクトやクライアントとの対話が求められる人のためのHOWTO入門編。私たちは「明らかに違う」と認識している他者に対しては寛容性を発揮するが「同じようにできる」と認識している他者には驚くほど不寛容である。本プログラムでは「同じとだと思っていたけど違う」という僅かな誤差に敏感になる。コツは数あれど、まずは「質問」を通して衝突を避けることや、他者理解を促進する。質問は他者と自分との誤差を気づかせてくれ、誤差にカタチを与え、他者軸で誤差を考えさせ、他者に“歩み寄る態度”となり、相手にも気づきを与えてくれる。「他者は同じようで意外と違う」ことをまずは楽しみ、その後、違う他者の価値観にシンクロできるところを目指す。そのプロセスにおいて、オープンクエスチョン、クローズドクエスチョン、予測と誤差、言い換え、など様々な術をメタ認知していく。

質問の時間01

多色の紙セットを一人一人手渡し、ある単語から想起する色のイメージを「せ〜のっ」で挙げて全員一致を目指すアイスブレイク「イロイロイロ」。

質問02

相手が食べる僅かな差異のある食べ物(例、異なるメーカーのチョコレート)を言い当てる。味覚という主観的であり、言語化しにくい感覚を質問によって際立たせ、他者の味覚と自分の味覚を近づける

質問3

「1日だけ生まれ変わるなら誰?」といった質問に応えた相手にオープンクエスチョンやクローズドクエスチョンを重ね「〜ということは(誰々)もいいんじゃない?」と提案し、相手から「あ〜それもあり!」とリアクションをもらうことを目指す。表面的な言葉の情報ではなく、なぜそれを応えたか、という相手のコンテクストを理解し、自分の中で咀嚼し提案する。


④視点と思考の転換・疑い系(例:とんち部屋)

「人と関わる」ことの前に“そもそも”を疑うWS。グループワークよりも、思考の出発点に対し、揺さぶりをかける。あたりまえを疑う。

「他者理解、自己理解は「同じだと思っていたが違う。違うと思っていたが同じだった」という誤差への眼差しに敏感になる」と述べたが、もっと言うと「自明のもの(当たり前)を疑う」ことでもある。その疑いの先に「視点や思考の転換」が生まれ、(他者および自己の)気づきに至り、相互作用がおこると(双方が思いもよらなかった)「共創」へいける。

①目標達成系、②共有体験重視系がグループワーク中におこる相互作用にフォーカスしたものだとすれば、③自分と他者系、④視点と思考の転換・疑い系はグループワーク以前のマインドに働きかけを行うものである。

特にこの類のワークショップは発想、創造、イノベーションが求められるソーシャルデザイン、商品開発、アート思考、創造教育で手がけることが多い。

代表例)とんち部屋
テーマは「とんち」と「評価」。
「とんち」は、問題に対し、直線的な解決はしないし、ライフハックのように「その手があったか」という解決もない。しかし、問題はなぜかやりすごせていたり、状況は沈静化される。「とんち」は、問題に働きかけない。問題を出してきた人の「思考」に働きかけるところが大きな特徴だ。そこでは「常識」や「普通」や「価値」や「ルール」の軸をズラす思考が問われる。

また学生個々からそれぞれ評価する機会にもする。「とんち」という個々のズラしたものごとの優劣もまた、個々によって評価が違うだろう。得票での1位や2位がではなく「私にとっての1位はこれ」というバリエーションもまた「とんち」の前では豊かなものになるはずだ。
重ねて、グループワークでは仕切り上手やハッキリものごとが言える人、テキパキ動ける人、周囲を見れる人、器用な人。しかし、創造するには、どうしても「個」で潜り込まなければいけない。通常のワークショップでは見つけにくい「クセのある個人」が表出できる機会にもしたい。

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40人クラスを二つにわけ、「あの手この手部屋」「なんぞや部屋」に分かれそれぞれのとんちに挑戦。「あの手この手部屋」は多様なクリエイターから映像でお題を出され、とんちで回答する。(画像は建築デザイナー、加藤正基氏)

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なんだかよくわからないお題を短い時間でグループで考え、パフォーマンスを発表。(画像は美術家、冬木遼太郎氏)

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「なんぞや部屋」は個人ワーク。デッサンのコツ(例:よくみる、陰影をつけるなど)を生徒から吸い上げた上で「それを踏まえた上で、絶対に似せてはいけません」と伝え、デッサンをしてもらう。
原案)淀川テクニック柴田英昭「逆デッサン」

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⑤体験学習系(例:いつも何度でも(ワークショップデザインver))

学んでほしいことを体験とともに言語化する時間も含めて手がけるWS。頭と身体双方から学びの定着を図る。アクティブラーニングとほぼ同意義。

自分が手がけるワークショップは先述の4系統であり、いずれも学習要素も入っているため、体験学習系は統合的な位置付けにしているが、後者の要素が強い場合もあるため、あえて独立して合わせて5系統という表現にした。

体験学習要素は強くするとややもすれば、結論を誘導めいたものになるかもしれないため、参加者の声を拾いながらプログラム進行を回していくことや、問いかけから気づきや言葉を引き出すこと、細かな違いのあるアクティビティを連続してやることで自らの変化を自覚してもらうことが求められる。

時としてロールプレイやシミュレーションに近いことにもなるが、自らの実感を自覚してくメタ認知の有無が大きな要素となる。

主に教育、ワークショップデザイン入門の現場で扱う。

代表例)いつも何度でも(ワークショップデザインver)
テーマは「反復」と「一時停止」。
わかりやすい二項対立のロジックが蔓延するように、わかりあえない他者とは対話をしない方が楽に生きていけるのではないかと頭をよぎるが、私たちはなぜか対話を求める。「わかりあう」(いやむしろ「わかりにくさ」の)魅力を知ってしまったかもしれないが、むしろ「考え続ける」態度、そして「変わり続ける」態度に、「“一旦”外れ(て考え)る」術を見出したからであろう。世界を一時停止して見つめなおす重要性を”身体と頭と心”が求めているのではないだろうか。

では、「考え続ける」態度、「変わり続ける」態度を促すワークショップをデザインするに大事なのはなんだろうか。私は「メタ認知力」であると言いたい。もっと言えば、自分自身がワークショップを受けている最中、その時の自分の心の機微や関係性の変化、またはそれに作用したプログラム構成までも分解して考えられる「ライブなメタ認知力」を求めたい。それこそ、ファシリテーターに求められる動的判断のアンテナ磨きであるし、ワークショッププログラムを考えるデザイン力の鍛錬になる。「ワークショップデザインを学びなおす」本プログラムは、その場の反応を伺いながら動的判断100%で構成され、そのプログラム自体もワークショップとして相互に関わりあいながら、学びを深めていくことを目的とする。そして所々で「“一旦”外れ(る)」て俯瞰的に語り合い、一時停止した後、プログラムは互いの動的判断をつむぎながら進んでいく。

「共に過ごす」体験を通して、「私はなぜそう選んだのか。そう行動したのか」「他者はどう選択したのか、他者はどう感じたのか」という気づきから、社会と私のメタ認知は加速する。「やってみせ、教えてみせて、させてみせ、誉めてやらねば、人は動かず」。この大前提を参加者自身が実感できるプログラムである。

テーブルの様子

体験学習系の場合は、冒頭、参加者から今回のテーマに関する現状理解やモヤモヤを引き出すことから始まる。そこから即興的に参加者の声に合わせ、プログラムを構成していくことで、ファシリテーター兼講師役の言葉がより響くことになる。(このプログラムではワークショップデザイナー育成プログラムを修了した人を対象に学び直しの機会として構成した→詳細レポートはこちら)


まとめ

先述もしたが、私が位置付けるワークショップの5系統は

①目標達成系、②共有体験重視系
グループワーク中におこる相互作用にフォーカスしたもの

③自分と他者系、④視点と思考の転換・疑い系
グループワーク以前のマインドに働きかけを行うもの

⑤体験学習系
動的時間の中で一時停止とメタ認知を行い、気づきを学びとして自覚化するもの

と分かれる。

広義、狭義ともあれワークショップが「共振、共鳴する場。わかちあう場」とするならば、上記5つの系統が絡み合うのがワークショップ的な場であり、ファシリテーションが活きている状態だと思う。一日で完結する狭義のワークショッププログラム事例を通し、何を目指しているか、どういった状態を作り上げたいのか、という部分に触れてみた。それでは次回は、ではより細部にこれらのワークショップをデザインする場合、どういった構成要素に気を気張っているのか、といったことに触れていきたい。

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