基本の4冊

01-ファシリテーションは教えられない?

「ファシリテーションは教えられないから」

ワークショップデザイナーを育成する機関に関わる中で、受講生の方々からボヤキのように度々聞いた。ワークショップを取り入れた講座、研修をしている企業のご担当者や演劇関係者が”フィードバックをもらいたいが、スタッフの中で自分が一番詳しいから「本当にこれでいいのか?」と心配になる時でも、アドバイスはもらえないし、後進の育成もなかなか…”というジレンマの次に出てくる言葉だ。

「そうですよねえ。自分のやり方を自分で作っていくしかないですもんねえ」と、うなづきながら、その中でワークショップデザインを教えている自分の立場の矛盾感や「自分のキャラクターに応じたファシリテーションの型を作るのは間違いなくそうだし(それは場数でしか得られない)、それを教えることは困難だが、しかしながら、どんな領域でも、どんな性格やキャラクターだとしても、ファシリテーターとして求められる最低条件的な必須スキルはあるのではないだろうか。それは教えられる(学べる)のではないか?」という疑問がこれから書く数々のコラムの出発点である。

ワークショップとは何か?ファシリテーションとは何か?そしてそれを習得するためにはどうしたらいいか?

今更ながら私が書かなくても、多くの先人かつ専門家が様々な本を出版していることは重々承知しているが、上記の疑問において、いわゆるワークショップやファシリテーションの実践者でもある自分が、自分の経験と知識をつなげ、言語化を通して、自分の中に腹落ちさせたいという欲求とともに、その「いろは」を伝えていくことで、各々が自身のワークショップデザインやファシリテーションの型を形成していく一助になるのではないか、という期待を持って書くものである。

逆にいえば今まで「いろいろ教わり、頭では理解できましたが、実際、自分がプログラムを提供する側になるとした時、どうやったら中脇さんみたいに動的判断も混ぜながら、進行できるようになれますか?」と言われたとき「うーん、正味の話、場数です」と答えてきた自分の、ちょっとしっくりこなさ感への回答でもある。場数は場数だとしても、自分はその場数から何を学んできたのか、というところに言及することが、もう一つの目的でもある。

そのため、本コラムではファシリテーションとワークショップデザインに関して、大きく参考としている本が3つある(正確には4つ。)それほどワークショップやファシリテーションの本を読んではいないが、自分の学習観として、特にHOWTO本の類は、「これだ」と決めた本を何度も読み込み、経験を重ねてまた読み返し、新たな気づきを見つけていく、自分の体験と言葉に言い換えていく、という方が向いているからでもある。

今から紹介する本は「もうワークショップやファシリテーションのことなら、これに全部書いてある」と思えるものである。(実際、大学での授業における教科書にしている)

基本の4冊


『ワークショップ―新しい学びと創造の場』
(岩波新書) 中野 民夫(2001/1/19)

言わずもしれた名著。ワークショップとは何か、その歴史とは、活用される領域、そして具体的なプログラム事例など、体系的にも網羅的にも分類的にもバランスよく書かれている。中野民夫さん自身、ワークショップに深く入るキッカケとなった領域が「精神世界と社会変革の統合」と述べている通り、事例や言葉づかいはスピリチュアルな箇所がやや見受けられるが、それを差し引いたとしても多様なワークショップを一旦は把握するにはとても貴重な本である。

『ファシリテーション入門』
堀公俊 (著)/日本経済新聞出版社 (2004/7/16)

日本ファシリテーション協会を設立した人物であり、初代会長。ビジネスや企業、組織コンサルタントが専門領域である通り、フレームや構造的にファシリテーションを捉え、人との関わり合い、そのスキルとプロセスという記述については、非常にわかりやすく書かれている。ビジネスマンらしく、記述が組織やビジネス活用を前提としているため、事例的には会議がベースにあり、印象的には”お固い”感じを受けるが、それを市民活動や地域コミュニティとして読み替えれば、かなり普遍的な人との関わり、集団コミュニケーションへの言及がなされている。

『人やまちが元気になるファシリテーター入門講座―17日で学ぶスキルとマインド』
ちょん せいこ (著)解放出版社 (2007/02)

堀さんの『ファシリテーション入門』での会議の方法を異常にわかりやすく、かつファシリテーターの心構えやあり方を踏まえ、誰でも活用できるように平易に書かれた本として、この本の右に出るものはない。それは今でも言い切れる。今はホワイトボード・ミーティング(R)の手法の普及と活用のために株式会社ひとまち代表をつとめるちょんさんであるが、そもそもの活動フィールドが障がいを持つ人と共に生きる多様性に関わることであったため、自己選択自己決定の尊重や正しさだけでは人には響かないことも経験してきたことから、これからの時代におけるファシリテーター像としても最もピントが合っている。市民活動向けに書かれているため、やや遊び風なアイスブレイクやあだ名での呼び合い、その割にはベースが話し合いに特化した書き振りではあるが、ワークショップ的観点からもファシリテーター的観点からも、両方のバランスが取れている良著である。

『かかわり方のまなび方』
西村 佳哲(著)筑摩書房 (2011/2/12)

この本はHOW TO的な本は先述の3冊であるが、この本は様々なファシリテーターのインタビュー集である。本のリード文に「力を引き出すのがうまいとか、あの人といると伸びると言わせる人たちは何が違うんだろう。働き方研究家の著者がワークショップやファシリテーションの世界を訪ね歩いた、<関わり方>の探検報告書」とあるように、単なるインタビュー集にとどまらず、西村さんの思考や所感なども併せて記述されている点が、ともに思考を深めさせてくれるようで読後感は非常に高い。それだけにとどまらず、人の数だけファシリテーター像や価値観はある、ということをわかりやすく、それでもなお、大切にしていることは、だいたい通底してそうだ、という行間的なことも炙り出しており、思わず「私だからできるファシリテーションは誰と似ているだろう」と鏡のような存在を気付かさせてくれることとしても優れている。

この4冊(特に最初の3冊)が、これから書くコラムの理論的な部分を大きく補完してくれるものである。では次回からはワークショップとは何か、ファシリテーションとは何か、ということを少しずつ我田引水しながら、自分の体験的な言葉も交えながら語っていきたいと思う。

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