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09-コミュニケーションのデザイン(関係編)

ワークショップをデザインするには、いつもと(ちょっと)違うコミュニケーションをいかに誘発するか、という工夫が欠かせない。この”いつもと(ちょっと)違う”へ到達するにあたり、私は「関係・環境・構造・方法」という4つのデザインを心がけている。今回はまず起点になる「関係」に言及していきたい。

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・関係のデザインって?

ワークショップの依頼がきた時、まずはその場がどのような状況に置かれているのか、という部分に着目する。プロジェクトをこれから立ち上げる初対面同士なのか、一日だけの講座参加者なのか、それとも既存の組織・コミュニティの方々なのか。加えて、それぞれの目的は何か。学習や研修のような一時的なものなのか、ビジョンづくりやプロジェクトを立ち上げるような継続性のある状態なのか。参加者の属性と目的の2軸から、以下のような捉え方をしている。

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この捉え方はあくまでも「傾向と対策」的な予測の範疇のものである。むしろ、こういった見解から、どれくらい個々の現場はずれているか、という誤差に敏感になるための座標であることは言っておきたい。

・「初対面×その場限り」な関係

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「初対面で、その場限り」な関係は、いわゆる講座やイベントが多い。テーマ性に興味を惹かれて参加しているため、スタート当初はよそよそしくても、心のうちはワクワクしていたり、「他の人はどう言った理由で参加したんだろう」と興味があることが多い。そのため、なるべく初動で、どんな人がどんな理由でいるのか、といった自己紹介のアイスブレイクを仕掛ける方がいい。机の配置も島のようにそれぞれ固まりになってグループワークを行うにしても、他に参加者がいるのに「結局、グループの人としか喋らなかった」とならない工夫はしておきたい。

また、こういった場に参加している人たちは、非日常な状態やいつもと違う人とのコミュニケーションに期待を寄せていることが多いため、ワークショッププログラムもいかにもなワークショップをしている方がちょうどいい。あだ名で呼び合うこともいいだろうし、身体も大胆に使う方がいいかもしれない(ただしボディタッチは、連続講座の2、3回目くらいが良い)。日常の知覚を大胆に揺さぶることに適しているのは、この場合が多い。

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「須磨しごとジャーニー」での一コマ。水を入れたゴミ袋を三人でもつことによって、バランスが否応なく崩れる様を楽しむ「水とダンス」(原案:美術家 安藤 隆一郎)

ただし、こういったワークショップは「楽しい」の感想のみで終わりがちになるので、「今日、何が印象的だったか」「新しい気づきや発見はあったか」といったふりかえりの時間をしっかりもうけることによって、深い学びをわかちあう集団に最後はなっているよう持っていくことが望ましい。

・「初対面×継続」な関係

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「初対面ながら、これから継続的に会う」関係。プロジェクトのスタートアップや学級運営などがこれに当たる。チームビルディングが主な目的になるが、全員が自然に喋りあえるようなものや、個々の得手不得手(行動、計画、発想、協調、ムードメイクなど)が見えてくるようなワークショップのバリエーションが適している。

ワークショップの系統で言えば「目標達成系」や「共有体験重視系」を重点的に提供することによって、チームのふるまいの共有や、目標達成に向かってどのようなトライアンドエラーをしてくか、といったプロセスの経験共有がなされていくことがベストである。

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連続講座で最後に成果発表などを設けるようなプログラムが、もっともわかりやすい例だろう。大学コンソーシアムひょうご神戸さんで開催した「ファシリテーション・プロジェクト演習」は、ゴールを「みんなで宴会をつくる」と設定し、それに至るプロセスの前段にワークショップを幾度となく実施し、徐々に会議のやり方へと移行し、宴会を全員で話し合いながら作った。

ただ「初対面ながら、これから継続的に会う」関係の場合、ワークショップらしいワークショップの時間が取れるかどうかは、状況次第である。特にプロジェクトベースの場合は、話し合いの時間しか設けられないことが多いため、その場合は話し合いのプロセスに小さな試行を実施しふりかえりを繰り返すことで「目標達成系」「共有体験重視系」の性格を帯びるように裏ファシリテーションをした方がいい。互いが馴れ親しみ始めたら「鍋パーティ」のように、準備のふるまいでそれぞれのキャラクターが互いに理解し始める、みたいなことでもいい。

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H30-H31に担当した兵庫県加西市「北条旧市街地プロモーション事業」では、年2回のマルシェイベント「イチガタツ」実施のプロセスにミーティング&試作として「北条を「食べる」会」を実施し、プロジェクトメンバー同士の相互理解、イメージの共有、プレイヤーの発掘などを兼ねた。
↓こういったプロセスデザインのHOWTOは以下で詳しく記述している。
「プロジェクトHOW TO AtoZ」の「05-ナナメの存在とプロセスデザインの話

・「毎日会う」×「その場限り」な関係

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「毎日会うのに、その場限り」な関係の時が何に当たるかと言えば、企業研修や、自治体主催による住民参加型のビジョン形成のワークショップなどだ。いつもの関係を引きづりながら「今日は普段考えないことを改めて考える機会にしましょう」という状況が多い。もしくは「(今まで)会う機会はなかったけど、今後も会う可能性がある」ような間柄もこれに当たる。

「明日も会う(かもしれない)」という関係性の中、ワークショップを手がける時はかなりデリケートになる。日常の関係性が強固であればあるほど、普段と違うコミュニケーションは生まれにくいし、無理に促せばさらけ出した人が後日責められたり浮いたりする可能性もある。一方、慎重過ぎるワークショップで終われば「結局、いつもと何も変わらない」アリバイづくりのような内容に終始してしまうこともある。

ではどのようにしているか、と問われれば「それなりに無難な平均値に限りなく近いワークショップ」と言わざる得ないだろう。参加者も”遊びに見える”ワークショップよりも”なんか学習感がある”見た目や”なんか賢そう”な見た目の方がすんなり受け入れてくれる。”見た目”という単語にしているのは、私たちは初見なものほど、概知的なイメージとの比較から認識が始めるので「学校で見た風景」をこういう時は作り出す方がスムーズに受け入れてもらえる。そのため、思考の転換を促すフレームワークやツールを用い、手順を追えばそれなりに答えが出てくるようなものが入り口として適しているのはないだろうか。

もちろん、フレームワークやツールが無難と言っているのではなく、アイスブレイクやファシリテーターの所作や雰囲気、問いの設定でいくらでもアウトプットはハネる。そのため、この関係性の中で手がけるワークショップはワークショップデザインの準備や設計よりも、始まってから雰囲気を読み、それに応じてドライブをかけていくファシリテーターの動的判断にほとんどが委ねられるといっても過言ではない。

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ツールデザインを工夫することによって、アウトプットの質を変えることもできる。写真は自治体の総合計画づくりの住民ワークショップの一コマ。ツール開発をアトリエ・カプリスさんと共に手がけた。

・「毎日会う×継続」な関係

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「毎日会う間柄で、継続して場が設けられる」ような関係は、いつもの日常と何が違うのだ、という状況だ。社内や地域内でのプロジェクトがそれにあたるが、依頼としては立ち上げから安定運営できるまでの伴走支援といった案件が多い。ここではほとんど「ワークショップ」という単語は用いない。地域でのプロジェクトでは会議という体裁もなし得ないこともある(むしろ、地域の場合、「会議」としてしまうことによって硬直化する方が多いため、あえて崩していくこともある)。フリートークのような座回しをファシリテーターが手がけ、時が満ちた時を逃さず、次のアイデアの実行段階へ行く。

個人的な経験値から述べるが、この関係では、ファシリテーター然として場にいるより、場合によってはアイデアマンにも、プレイヤーにもなるし、プランナーにもなることをこころがけ、状況に応じた対応を心がけている。プロジェクトを促進させる人(「コミュニティデザイナー」「プロセスデザイナー」「プロジェクトファシリテーター」など呼ばれ方も様々だ)として、広義なワークショップとファシリテーションと読み替えながら、プロセスのデザインを手がけている。

あかし

画像は明石市のH29〜現在も関わっている「あかし市民図書館」における「市民による夢の図書館プロジェクト」。市民と図書館との関係を従来のボランティアではなく協働関係として再編成する。市民のやりたいこと支援に限らず、協働での会議、職員とボランティア共同による読み聞かせ研修などを実施するだけでなく、担当職員チームが会議も自立運営できるよう組織内ファシリテーションも手がける。

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画像は甲良町のH29〜H31に関わった「戦国大名藤堂高虎ふるさと館・和の家」の支援業務より。町に寄付された古民家を集落主体で観光とコミュニティビジネスの拠点として運営していくにあたって、コンセプト設計、飲食メニュー開発、体験プログラムなど自走するまでの期間、時に先行して提案したり、アクションを仕掛けたりなど長期に及んだが、これもまたワークショップやファシリテーションの枠組みで捉えることができる。

・まとめ

学習や研修のような一時的なもの、ビジョンづくりやプロジェクトを立ち上げるような継続性のあるもの、という幅のあるワークショップの依頼がある中で、参加者の属性と目的の2軸で関係性をいったん位置付けることで、考案するワークショップの着眼ポイントや当日のファシリテーターとしての心がまえの持ち方などを説明してみた。分類される関係性の中で、いかにいつもと(ちょっと)違うコミュニケーションを誘発するか、といった留意点を述べてきたつもりである。

さて、次回は当日のワークショップのコミュニケーションを促進させる「環境のデザイン」について言及していこうと思う。


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