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10-コミュニケーションのデザイン(環境編-会場ver)
ワークショップをデザインするには、いつもと(ちょっと)違うコミュニケーションをいかに誘発するか、という工夫が欠かせない。この”いつもと(ちょっと)違う”へ到達するにあたり、私は「関係・環境・構造・方法」という4つのデザインを心がけている。今回は当日のワークショップのコミュニケーションを促進させる「環境のデザイン」について言及していこうと思う。
・そもそもコミュニケーションの環境のデザインって?
頭を最初によぎったのは机や椅子の配置のことだ。同じ人数でも机や椅子によって感じ方は異なる。どの本でも程度の差こそあれ、必ずどういう配置がいいか、と行ったことに言及が必ずなされている。
例えば、中野民生『ワークショップ』(岩波新書)であれば、第4部「ワークショップの応用」の「創造的な会議への応用」(P179)や「講演会・シンポジウムへの応用」(P197)で色々なバリエーションが紹介されているし、ちょんせいこ『人やまちが元気になるファシリテーター入門講座』では「会議を工夫しよう」での「会場デザインの工夫」(P100)に少人数会議や大人数会議へのレイアウトにイラスト付きで言及している。
どれだけファシリテーターに技術があったとしても会場のデザインがふさわしくなければパフォーマンスは半減されてしまう。下記の図は8人というグループ間で話し合うことを想定した机と椅子の配置である(一部ホワイトボードあり)。自分が講座で会場の環境デザインのコツを伝えるために、下記の図を見せながら解説したり、実際に会場の椅子とテーブルを用い、いろいろと配置を変えて、座り比べてどんな印象を持ったかと語り合ったりしているのだが、以下にその時喋っている内容を記したい。(本来、適正なグループサイズは4、5名であることは追記しておく)
・島タイプ
”島”タイプはグループワークをするなら一番適したサイズ感。みんなで一つのものを見ながら手がけるワーク(模造紙に付箋を使用したもの)や平場での話し合いに向いている。ただし、密集はしているため、見知った間柄でないと心理的にしんどい(初対面であればこの配置ならば4、5人が適正)。
・”ロの字”型
”ロの字”型は机の並ばせ方として一番手間がかからないのでやりがちだが、グループワークやワークショップ、共創にはもっとも適していない。中央が空いていることで、対角線上にいる人と心理的に対立しているように感じてしまうし、重い雰囲気ができ、発言がしにくい。また自然と知らない人や仲良くない相手は対角線に座ってしまうので、必然的に対立的な議論になってしまう。ディベートや進捗報告だけの会議であれば適しているが、ワークショップで言えば、絶対にやらない。
・”大きな島”タイプ
”大きな島”タイプも広すぎるので滅多にやらないが、ロの字型を体験した後に中央の空間を埋めるだけでどう変わるか、と比較してもらう時に試す。真ん中の空間が埋まるだけで一体感は出るし、お菓子やお茶も広げると途端にリラックスモードに変わる。特にこの広さはお菓子などをバラバラバラと広げられるのがとても良い(環境デザインにおいてはお茶やお菓子というのはかなり重要アイテム)。
・”円座”タイプ
”円座”タイプ。これは座る人の性格によって感じ方が大きく異なる中々の個性派パターン。机がないため、どことなく落ち着かないと感じる人から、オープンなためリラックスして座れると感じる人もいる。そのため、これはファシリテーターがどう感じるか、という主観的な感覚で使う場面を想定していけばいいと思っている。個人的に円座での語り合いは個人的に重いので、最後のふりかえりの時に一言ずつもらう時などに活用し、ゆったりと深まることが大切な時に用いてる。
・”ミーティングの半円”タイプ
”ミーティングの半円”タイプ。ホワイトボードに向かって座り、板書役がたつだけで、大層なミーティング風になるので、このカタチをつくって会議をする人は少ないのが現状だろう。しかし「論議の空中戦を地上戦に」という言葉があるほど、全員で一つの方向を向きながら見える化された中で話し合うのは、生産性がとても高くなる。机をおかない半円タイプは、車座同様、手持ちぶたさだったり、落ち着かない気分の人もあるが、個人的にはこの半円タイプは、慣れてきたらかなりリラックスかつのびのびできると思っているので、思いっきり発散するミーティングに用いると、ギアの加速度が著しいと感じている。
・”ミーティングの島型半円”タイプ
”ミーティングの島型半円”タイプ。先ほどのものに加えて、机をおいたもの。多分、これが一番馴染みやすいものと思われる。机がある分、どっしりと落ち着いて議論もできるため、バランスの良いミーティングになる。ただ、板書役がいる中でのミーティング、というのは体験していない人が多いため、中々このスタイルまでたどり着かない。たどり着いていたとしても、板書役=進行役と見なされることも多いため、参加者が受け身の姿勢になりがちである。少しずつこの形を導入していって、全員がファシリテーター役をしながら板書役はそれに徹する、というところまで持っていきたいところだ。
・空間の使い方でも変わる
机や椅子の配置によって、どれだけコミュニケーションが左右されるか、という部分に触れてきたが、実はそれだけでは見落としてしまう盲点がある。それは教室の広さ(長さ)である。
よくある会場は上図の左側のように長方形になっていることが多い。いわゆる教室型である。黒板やプロジェクトターも前に備え付けられている場合もあるため、大体の人が、それに合わせて講師役(黄色丸)も前にたつ形で、始めるだろう。ワークショップであっても、前位置は変えずに前後の机を合わせるパターンが多い。
しかし、それでは前の島と後ろの島との距離が出すぎて、参加者も座るテーブルによって、ファシリテーターへの受け止め方も異なるようになるし、ファシリテーターも参加者全員の様子を把握するのも難しくなり、一体感であったり、場をホールドをすることはとても難しい。
そこでちょっとした工夫なのだが、長方形型の会場の場合は、上図の右側のように横長として扱った方が距離の誤差も少なくなり、場のホールド感がグッとます。
ホワイトボードであれば、移動させることはたやすいだろうし、もし備え付けの場合であれば、ホワイトボードの代わりに模造紙を貼ってでも、横長長方形として空間は扱った方が断然パフォーマンスは発揮できる。
・「環境のデザイン」は会場だけか?
さて、当日のワークショップのコミュニケーションを促進させる「環境のデザイン」について述べてきたが、もちろん、音楽や装飾といった細かなことはあるが、果たして会場のレイアウトやデザインだけが「環境のデザイン」だろうか?
目的の”ワークショップ当日のコミュニケーションを促進させる環境づくり”といったところを誠実に考えると、環境のデザインというのは当日の作り込みだけに限らず、依頼がきて、打ち合わせやプログラムの決定、直前準備、本番、クライアントとのふりかえりまで含めて考えるべきではないだろうか。
ワークショップデザインという範疇は、そういったプログラム構築から人が集う場への配慮まで含めるし、実際コーディネーターという領域でワークショップデザイナーとして活動している人もいるため、「環境のデザイン」という言葉においてはかなり拡大解釈をして述べたいと思う。
次回のコラムでは「環境のデザイン-プロセスver」として、依頼から始まる環境デザイン面での視点を書いていこうと思う。