見出し画像

はさみとホチキスどちらが普通?



僕の彼女はサイコパスらしい。
周りの人が全員そう言う。
そしてメンヘラらしい。よく分からないが。

確かに、彼女の言動には理解できないことが多い。
立ち寄ったデパートのアクセサリーを見ても可愛いと言わないのに、ヘンテコな血にまみれたドクロをモチーフにしたブローチを可愛いと言う。
さらに、僕が女友達とLINEしていただけで数時間機嫌が悪くなり、大概物を投げてくる。
あとはそうだな。
この前、家の出刃包丁を見て急に
「この包丁は軽く刺してもかなり血が出るね」と言い始めた。
その行動たちは、全くもって理解できない。

これは世間で言うところのサイコパスやメンヘラなのだろうか。
友達曰く、僕が普通過ぎるが故に、より際立っているらしい。

今日はそんな友達カップルとのご飯の日。
近くの居酒屋での食事ではあるが、彼女はとても嬉しそう。
お気に入りのスカートを履き、ピンクのふわふわのシャツを着て、ウキウキしてるその姿はとても可愛い。
居酒屋に行くまで彼女は僕の腕にしっかりと絡みついている。
さながら抱っこちゃん。
やはり僕は周りから変と言われようが、そんな彼女がとても好きだ。

友達カップルが待っている席に着く。
「相変わらず、格好の差がすごいねぇ」
友達の彼女がそう言う。
「そうかな。でも似合ってるしいいんじゃない」
僕がそう言うと彼女は嬉しそうに笑った。
可愛い。

暫く、なんてことない世間話が続く。
酒も入る。僕が飲むのはハイボール。
彼女が飲むのはカルアミルク。

「でもさ、僕くんは彼女が変だとは思わないんだ?」
酒が回ってきた頃、彼女がトイレに行き、友達の彼女が唐突に僕に聞いてきた。
「別に、全く思わないよ。みんなが言うメンヘラ、ともサイコパス、とも思わないしね」
「そうなんだ」
そう言うと、友達の彼女は1冊の本を出した。

「おまえ、こんなとこにそれ持ってきたの?」
「いいじゃん、僕くんの彼女が本物のメンヘラなら、その通りの答え出すって!見てみたいんだもん」
僕の友達が少し呆れ笑いをして「まぁな」と言った。

「いいけど、多分普通の答えは言わないかもね」
僕はそう答えた。

彼女が帰ってきて「その本何ー?」と聞いた。
友達の彼女は「メンヘラ診断だよん」と言う。
「面白そー、やろやろ」とテンションが上がる彼女。その笑顔がまた可愛い。

友達の彼女が本を開いて、5P目を読み出した。
「あなたが1つしか文房具を持てないとしたら、どちらの文房具を持って旅に出ますか。
1.ホチキス 2.はさみ」

彼女は少し悩んで答える。

「ホチキス!」
「何で?」
すかさず彼女の友達が聞いた。
「だって、大事なものは常に傍に置いておきたいでしょ?ホチキスがあれば、私にくっつけておけるから♡僕くんだって、留めておけるから」
「……なんてメンヘラ満点の答え」
友達と、その彼女は拍手をした。

「えー、そんなことないよぉ。普通だよぉ。ね、僕くん」
「そうだね、いい答えだと思うよ」
「いや、普通の人の答えの平均ははさみだから。しかも用途も生きていく上で物を切るということは必要不可欠だからとか、そんなんだから!」
友達の彼女はそう言って笑った。
「いやー、典型的なメンヘラだね。なんか嬉しいよ」
友達もそう言って笑った。
「そうかなぁー。そんな事ないけどなぁー」
彼女もそう言って笑っている。
少し嬉しそうに見える。

「僕くんは?ホチキス?はさみ?」
友達の彼女が僕に聞いた。
僕は迷わず、
「はさみだな。切る事って大事な事だからね」
と答えた。
「やっぱり、僕くんは普通だー!良かったー!」
友達とその彼女がさらに笑う。
僕も「当然だよ」と笑う。

そう、僕は普通。
だから彼女の言動は理解できない。

僕だったらヘンテコなドクロのブローチよりも小さな赤のルビーのネックレスの方が首輪みたいで可愛いと思うし、
彼女が男友達とLINEしてたら物を投げるとかじゃなくて、彼女とそいつが連絡とれる方法を無くせばいい。
それに、出刃包丁を見て「軽く刺す」なんて発想はしない。
ちゃんと一発で深く刺さないと、痛みを感じてしまうでしょ。

僕は自分が普通過ぎてつまらない。
だから普通じゃない彼女が愛おしいんだ。

僕がはさみを持ったなら、彼女を引き裂いてバッグの中に詰めて歩く。
そうしたら彼女とは永遠にそばにいられるし、誰に奪われることもない。

だって僕は彼女を愛してるから。
きっと、愛するってこういう事だよね。

あぁ、思えば思うほど僕は普通だな。
彼女みたいにホチキスで留めておける、なんて可愛い答えを言える発想が欲しい。

居酒屋での夜は更けていく。

僕は笑っている、彼女も笑っている。

今日も楽しい普通の夜だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?