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夢の案内人

悩んでいる時に目を閉じると、必ず見える君。
小さい頃からずっとずっと、悩みながら眠ると見えてきた。
ぼんやり、ぼんやり。はっきり見えない。
小さい頃よりは微妙にはっきりなのかもしれないが、それでも、見えない。

でも決して近づいて来ようとはしないし、
僕も近づけない。

なんなんだい?君は誰なんだい?
目を閉じている僕にはそれも聞けなくて。

どんな些細な悩みだっていい。
君に会う条件は悩むだけ。
君も喋らないから、2択式じゃないといけないみたいだけど、いつも僕にアドバイスをくれる。

クリスマスのおもちゃ、どっちを頼めばいいかな。
明日の学校は休んじゃおうかな。
明日、みくるちゃんに告白しようかな。

君は必ず、頷くか首を振るかで答えてくれる。

みくるちゃんに告白しようかなって思った時、君が首を振ったから告白するのをやめた。
そしたらその日の放課後、みくるちゃんに彼氏がいることが発覚した。
他校の男子と一緒に帰っているのを見たのだ。
すごい悲しかったけど、告白する前で良かったって思った。

君には、未来が見えているの?

そう尋ねた時、君は何も答えなかった。
というより、首を傾げた。
どっちでも無い、ということだったのだろうか。

お母さんとお父さんが離婚するんだって。
お母さんについていけばいいかな。

君は首を振った。

でも親権関係で僕はお母さんについて行くことになった。
中学2年の、冬。

お母さんは段々家に帰ってこなくなった。
最初はご飯用のお金を置いておいてくれたが、
段々、机に置かれる金額は減っていき
中学3年の秋、ついに無くなった。

お腹が空いたら米を食べた。
お陰で米とぎだけは今でも上手い。

1人でいた時、お父さんから電話がかかってきた。
「やっぱり父さんのとこ、おいでよ」

悩んでいたら、君が深く頷いたから、そうすることにした。

お父さんのとこにいて暫くした時、お母さんが僕を連れ戻したがっていることを聞いた。

悩んでいたら、君が大きく首を振ったから、行かないことにした。

お母さんは酷く暴れ、荒れたが、お父さんが弁護士を雇って何とかしてくれた。

後から聞いたら、僕を売ろうとしてたみたいだ。

ねぇお母さん、あなたにとって僕は。
最後に会った時、聞きたかったけど、止めた。

最近段々、君の姿が見えてきた。

それはゆっくり、でもしっかりと。

そして、高校3年の、12月22日。

目を閉じて、そこにいたのは
よく見慣れた、でも傷だらけの僕だった。

「君は幸せだったかい」

君はゆっくりと首を振った。

「でも今は、幸せかい」

君はゆっくりと頷いて、微笑んだ。

その日を境に、君は現れなくなったんだ。

君は僕のために
自分の生きた道を示してくれていたんだね。

だからこれからは僕が君のために
この幸せを壊さないように生きていくよ。

もう二度と後悔しないように
また僕が、同じことを繰り返さないように

君が生きるはずだった僕を、ずっとこのまま。

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