見出し画像

【短歌】朝起きるのが苦手だから『起きられない朝のための短歌入門』を読んだよ + 毎日短歌1月1-10日分

 飽きずに短歌入門を読み漁っているのだが、今回はタイトルからして詩的な本を手にとった。その名も『起きられない朝のための短歌入門』である。

 入門書と銘打っていながら、全編、平岡直子さんと我妻俊樹さんの対談を基本に収録しているところが面白い。

 通常、入門書と言えば、書き手の哲学だったり、思想だったりを体系的に記していくスタイルが選ばれるというか、その形式以外あり得ないと思われていたところにコロンブスの卵。異なる価値観を持った歌人があれこれ話し合っていく。そのやりとりの一致点と対立点を眺めていくと客観的に短歌のあり様が浮かび上がってくるから不思議だ。

 もともとは平岡直子さんに入門執筆の依頼があったらしい。ただ、自分自身が初心者の頃に入門書を頼った記憶がなかったとのことで、どうしたものかと考えらしい。そのとき、「門前の小僧習わぬ経を読む」という言葉を思い出し、歌人と歌人の会話こそ、入門者にとっては一番の刺激になるんじゃないかと考え、この特殊な形式の入門書ができあがったという。

歌人と歌人が交わしている「短歌についての会話」を読んだり聞いたりすることがとにかくおもしろく、そこからたくさんのことを学んできた。入門書をうたったハウツー本よりは対談書がわたしの教科書だったし、生で聞いた忘れがたい会話もいくつもある。短歌の門前で、無数の会話を盗み聞きすることによって、わたしは習わぬ短歌を詠みつづけてきたのだと思う。

我妻俊樹・平岡直子『起きられない朝のための短歌入門』2頁

 その狙いはまさに正解で、たしかに、二人の会話がやたら面白い。一応、こうやって対談ができるぐらいだから、大きくは価値観が合っているんだろうけど、感覚的な平岡さんと理論的な我妻さんの認識している範囲が微妙に異なっていて、そのズレたところを互いに理解しようと言葉を尽くす瞬間が最高に尊い。

 例えば、こんな風に我妻さんの理論を平岡さんがわかりやすい喩えでフォローしている。

我妻 <省略> 取り出した内容が古びてきたら、また新しく現在にふさわしい内容を取り出してみせることで読みが更新され、歌が新鮮さを取りもどして生き延びる、ということもあるんだと思う。
平岡 桜が出てくる和歌ってたくさんあるけど、和歌に出てくる「桜」は山桜なんですよね。ソメイヨシノは新しい品種だから。でも、現代の人はソメイヨシノをイメージして読んで、その光景に共感したり感動したりする。というようなことだよね。

我妻俊樹・平岡直子『起きられない朝のための短歌入門』87頁

 また、その逆バージョンもあって、本当に素晴らしいコンビネーション。

平岡 <省略> とにかく偶然目に入ったものを描写する。初心者の人は言いたいことを言おうとしすぎて定型のなかでぎゅっと身を縮めてしまいがちだから、ある程度偶然に身を任せた方が、どういう感じで力を抜けばいいのかが体感的になんとなくわかると思う。かならずしも「自分が本当に言いたいことを表現するのは諦めろ」ということではなくて、人間の無意識って自分で思うよりもつながっているので、一種ができてみたら、心情には関係なかったはずの描写の部分も含めてむしろ「自分がほんとうに言いたいことはこれだった」ってなる確率も高いはず。
我妻 「明日から夏休みでうれしいな!」といういまの自分の気持ちと、「部屋の蛍光灯が切れかけてて、やたらとチラつく」という目の前の実景を理由もなく組み合わせて歌にしてみたら、「高二の夏休みは二度とないんだという感傷的な気持ちと、受験や将来へのうっすらした不安」が歌から滲み出る出てるようにみえる、みたいなことですね。それこそが自分の言いたかったことで、歌がかわりに言ってくれたように思えてくると。

我妻俊樹・平岡直子『起きられない朝のための短歌入門』13-14頁

 普通の入門書と対談形式はなにが違うのか。おそらく、誰に向けて語るかが変わってくるんじゃないかと思われる。

 短歌を始めようという人が入門書なんて読まないという実態は置いておいて、入門書を書く以上、一応はまだ短歌を知らない人を想定して書かないといけない。そのため必要以上に基礎の基礎からスタートするというか、用語の意味から丁寧に説明しなきゃいけない。

 これはこれで当たり前と思っていたことの意外な側面に触れられる点で興味深くはあるけれど、何周かまわって、ある程度学んだ人たちが知るべき内容になるという矛盾を常に抱えがち。端的に言えば、本当の初心者が読んでもつまらないものになってしまう。

 逆に、初心者こそ、短歌を極めている人たちが短歌をどう楽しんでいるのか、そのリアルなやりとりに触れる方がワクワクする。この人たちみたいに世界を見ることができたらいいなぁと素直に憧れるところから、自分も短歌を詠んでみたい! と思えるようになるのだ。

 少なくとも、わたしが聞き手だったら、絶対にしてくれないだろう会話で平岡さんと我妻さんは盛り上がっていた。IQが20違うと会話が成り立たないという俗説があるけれど、専門性の高い技術に関して言えば、そういうこともあるのだろう。たぶん、相手が初心者だったら、ここまでは言わない方がいいとセーブする部分は絶対あるはず。信頼できる相手でなくては本当に言いたいことって言えないものだから。

 私にとって数少ない<短歌の友達>である平岡さんとの一年近くに渡った対話は、他の人が相手ならずっと手前で「あ、通じないな」とあきらめてしまうような話をさらに奥まで掘り進めたり、そこから思いがけない方向へ逸脱して、まるで別だと思っていた話とつながったりする刺激的なものだった。

我妻俊樹・平岡直子『起きられない朝のための短歌入門』217頁

 そういう意味では短歌を好きなはずだけど、迷い始めてしまっている人、行き詰まりを感じてしまっている人こそ、この『起きられない朝のための短歌入門』という本が向いているかも。


◇毎日短歌1月1-10日分


1/1 お題「白」

真っ白になってと女将ささやいた
船場吉兆十八年前

 年末年始、今年も爆笑問題が活躍していた。太田さんだけが未だ現役で船場吉兆の謝罪会見で女将が囁いたことをネタにしていて嬉しくなってしまう。

 あれって何年前なんだろうと調べたら、十八年も前だったので驚いた。ここまで語り継がれたら、逆に、いい宣伝となっているかもしれない。……そんなことはないか笑


1/1 テーマ「2025年の抱負短歌」

やらなくちゃいけないことをちゃんとやる
三十二歳それだけでいい

 抱負っていうと、大きな夢を掲げなきゃいけないような気がしてしまう。でも、本当はそんな大袈裟なことではなくて、もっと現実的な目標を着実にこなすべきなんだろうと最近は思う。

 やらなくちゃいけないことをちゃんとやる。当たり前なようで、意外とそれが難しいんだと年齢とともに実感してくる。だから、こういう地に足をつけることを目指したい。


1/1 「神奈川県」

「出身地どこ?」と聞かれて「横浜」と
答える我は相模原っ子

 たぶん、相模原出身者のあるある。なんなら、横浜以外の神奈川県民がみんなやるやつかもしれない。

 やっぱ横浜ぶりたいよねぇ。一応、横浜にはけっこう行ってたし。まあ、本当によく遊んだ場所は町田なんだけどさ。


1/2 お題「キス」

キスってさ天ぷら以外食べ方が
ないよねだから一緒に探そ

 同音異義語のギャップが大きいと面白い。いろいろあるけど、「キス」はその中でもひときわロマンティックだと思う。


1/2 テーマ「おせちにまつわる短歌」

作るのは大変なのに誰一人
うまいと言わずくたびれ儲け

 おせちってそうなんだよねぇ。作るのが大変な割にみんな喜んでくれない。あって当然というテンションでパクパク食べる。

 今年、わたしは煮物とかひたし豆とか定番のやつしか作らなかったけど、それでもけっこう疲れたよ。フルで準備している人たちは本当にすごい!


1/2 お題「家族」

「家族割使いたいよね?」「たしかにね」
結婚なんてそんなもんかも

 プロポーズに限らず、劇的なことって個人的にあまり好きじゃない。だったら、経済合理性を高まるみたいな理屈で大事なことを決めていきたい。


1/3 お題「糸」

歯医者にて薦められたし糸ようじ
使って合点虫歯バイバイ

 虫歯の治療をしたとき、もう二度と虫歯になりたくないと歯医者さんに伝えたら、糸ようじを使いなさいと指導された。

 正直、歯と歯の間にものを入れるのって抵抗があった。でも、やってみると意外に食べカスが詰まっていて、逆に、やらなきゃダメだと思うようになった。ただの歯磨きだけでは全然綺麗になっていなかったんだと思い知らされて、もっと早くやっておけばよかったと後悔しかなかった。


1/3 お題「外出」

引きこもり生活続け久々に
外出て思う人って多い

 年末年始、引きこもっているとあまりに淡白な毎日で、世界に自分たち以外の人はいないじゃないかと思われてくる。ただ、初詣に出かけてみると、そんな考えがいかに間違っているのか脳みそを叩かれるが如く、大量の人手に衝撃を受ける。


1/3 テーマ「夢」

人生は起きたまま見る夢だから
やりたいようにさせてもらうわ

 人生は起きたまま見る夢。そんなことをずっと思っている。胡蝶の夢ではないけれど、眠ったときにこそ本来の自分に戻っているような気がしてしまう。

 だから、我慢なんてしなくていいはず。失敗を恐れる必要はどこにもない。そう言い聞かせて頑張っている。


1/4 お題「コーヒー」

眠れなくなることぐらい知っている
だから一緒にコーヒー飲もう

 ディナーの後のコーヒーは眠るつもりがないということ。ゆっくり語り合おうじゃないか。


1/4 お題「電車」

オール明け「山手ホテルで休もうか」
片寄せ眠る緑の電車

 永島慎二の『フーテン』を読んだとき、「ホテル山手に泊まろうぜ!」と言って、山手線で眠るシーンがあって印象に残っている。

 いまも山手線に乗るたび、ここをホテルと見立てて休んだ人たちがかつてはいたんだよなぁと思い出しては知らないはずのノスタルジーに浸っている。


1/4 お題「踊り字を使った短歌」

踊り字を使いたいとき久々と
打って久だけ削除しコピペ

 人名とかを入力する際、踊り字が必要になることがある。というか、あれ、踊り字って呼ぶんだね。このお題で初めて知ったよ。


1/5 お題「ギター」

こんなときギター弾けたら名曲に
思い出ジャックされてたかもね

 音楽ができたら、きっと歌でロマンティックにこの瞬間を演出できるんだろうなぁと憧れてしまうのは間違いない。ただ、同時に、音楽ができないから、わたしは言葉を使おうと頑張っているわけで、これはこれで悪くないのかもしれない。


1/5 お題「雪」

鼻先にそっと降り立つ雪の音
固く冷たい厳しさじわり

 寒さって、どこから感じ始めるのだろう。わたしは鼻先からだと思っている。だって、身体で一番守られていないところだし、前に出っ張っているんだもの。身体はそこで冬の訪れを知るのだ。


1/5 テーマ「鏡」

家中の鏡は捨ててしまったし
老いとか美とかどうでもいいわ

 真面目に自分で自分の姿を見なくなれば、ありとあらゆる美容に関する問題はなくなると信じている。結局のところ、見えているから気になるのである。そうじゃなければ、それなりの自信で頑張れるはず。


1/6 お題「スピード」

出せるだけスピード出して追いかける
月の真下に辿り着くため

 夜、月を見てあると真下はどこになるんだろうと疑問が湧いてくる。一応、地球との関係を考えれば、月からまっすぐ下ろした位置が一箇所はあるはず。それはどこなのだろう。案外、ここだったりして。


1/6 お題「目覚め」

キスをしてくれれば目覚められるので
明日の6時にお願いします

 王子様のキスをモーニングコール代わりに使うお姫様。なかなか図太くていい感じ。


1/6 テーマ「ふとん」

道をゆく人が足止め空を見る
マジで布団が吹っ飛んでるよ

 ダジャレを実際に再現した展示とかやったら面白そう。アルミ缶の上にある蜜柑とかなら、なんとかなるよね。布団が吹っ飛んだはリアルで起きたら大変そう!


1/7 お題「頭」

魂はどこにあるかと尋ねられ
頭を指した僕が嫌いだ

 自分の中で答えと信じていることがあるけれど、本当はもっと違う答えを持っていたかった。魂の所在地なんかはそのひとつ。脳みそで考えてしまう自分が嫌い。


1/7 お題「台所」

家族には秘密のアレを隠してる
台所から愛を叫ぼう

 うちで料理をするのはわたしだけ。だから、秘密を隠すとしたら、台所がベストだと思う。

 さて、なにを隠そうか?


1/7 テーマ「恋」

初恋の思い出語る君の目に
僕の知らない光がキラリ

 好きな人の初恋話を楽しく聞けたら大人になれるのかもしれない。だとしたら、わたしは一生、大人になれない。


1/8 お題「合図」

北西の夜空に星が流れたら
僕は無事だよ心配するな

 SFっぽい世界観を短く匂わせてみたかった。なんだか切ない物語が周辺に存在していそう。


1/8 お題「浴衣」

旅先の夜ぐらいしか着ないから
いまや浴衣は戦闘服さ

 マジで浴衣なんて、旅先でしか着ない気がする。そのため元々は日常の格好だったのだろうけど、いまや特別な非日常を彩る服装と化している。


1/8 テーマ「歩く」

二人して寝坊した罰バスはない
でもまあいいか一緒に歩こ

 通学を誰かと一緒に過ごせなら、そんなこともあるのかなぁって。まあ、わたしは小中高、さらに大学を卒業するまで一人で通い続けたんだけどね。


1/9 お題「タバコ」

もし君と出会わなければと考える
……タバコ吸わずに生きられたかな?

 タバコとかお酒とか、始めるきっかけは他人だったり。カッコいいと思ってしまったせいだから、もし、出会わなければ、不健康な習慣を身につけなくて済んだのかも。


1/9 お題「嘘」

あまりにも多くの嘘をつき過ぎて
なにがほんとかもうわからない

 反省しています。これは嘘じゃありません。


1/9 テーマ「罪」

いまはもう罪人でしかない君の
素敵な過去を忘れないから

 忌野清志郎が歌ってきた『君が僕を知ってる』に対するオマージュ。

 この歌、すっごく好き。友だちってそういうことだよねって内容。


1/10 お題「散歩」

この駅を心臓として動脈のような
アベニュー楽しく行こう

 街って人間の身体に似ている気がする。駅が心臓で道は血管。出勤や通学のため人々が移動する感じとか、動脈と静脈の動きを彷彿とさせる。

 散歩中、そんなことを考えながら、街の健康チェックをするつもりであちこち見て回っている。


1/10 お題「珈琲」

ガリゴリと珈琲の豆けずる音
聞いてはいるが二度寝したいの

 朝、おいしいコーヒーで目覚めるのは理想的。でも、眠たいときにそんなことはどうでもいい。二度寝の方が魅力的。ってことでおやすみなさーい!


1/10 テーマ「泣」

泣くなとか泣いていいとかうるさいな
悲しみぐらい好きにさせてよ

 涙に関して、他人からとやかく言われたくはない。嘘とか本当とか、どっちでもいいでしょ。それを判断するのはわたしだから黙ってて。




マシュマロやっています。
匿名のメッセージを大募集!
質問、感想、お悩み、
読んでほしい本、
見てほしい映画、
社会に対する憤り、エトセトラ。
ぜひぜひ気楽にお寄せください!! 


ブルースカイ始めました。
いまはひたすら孤独で退屈なので、やっている方いたら、ぜひぜひこちらでもつながりましょう! 

いいなと思ったら応援しよう!