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本屋大賞『赤と青とエスキース』の感想

2022年の本屋大賞で2位に輝いた青山美智子著『赤と青とエスキース』の感想です📝


お湯と水で作る湯船

何事も始めるのは簡単で、続けるのが難しい。
熱すぎても冷たすぎても持っていられなくなるから、持ち続けるためには適温を保つことが必要。

物語の第一章は印象的なフレーズから始まります。

世界観への誘導がスムーズで、個性豊かな登場人物たちがそれぞれに“適温”を見つけていく過程に惹き込まれました。

さりげなく出てきた『幸福に退屈している』という皮肉な表現もピリッと心に響き、満たされることの喜びや不安について考えました。

不幸は惨めだけど、幸福でも退屈する。

始めるのは難しくて、続けるのはもっと難しくて、終わるのはあっけない。

生きていたら、不意に熱すぎる時も冷たすぎる時もありますよね。

この作品を読んで、それでいい、それがいいと感じました。

最初から適温が出てくる毎日はきっとつまらないし、ありがたみにも気づけないと思います。

いつか、それまでに注いできたお湯と水が混ざり合って、心地よい温度の湯船になる時は必ずやってくる。

そうやって適温を見つける過程そのものが人生の正体であることを教えてもらったような気がします。


額縁と絵

額縁は絵を引き立て、守り、支え、応援し続けている。

“額縁と絵”が大きなテーマとなっているこの作品の中では、異なるもの同士が結びつくことで生まれる美しさが表現豊かに描かれています。

この関係性は、額縁と絵のほかに器と料理、花瓶と花など日常なものや、人間関係や赤と青など抽象的なものにも当てはまるのだと気づかされました。

(北大路魯山人リスペクト🙏🏻)

個々のアイデンティティにおいても同様に、“その人らしさ”とは、対照的なものや異質なものの存在によって縁取られるものだと思います。

今、自分を取り囲む世界がよりシンプルに、より愛おしく感じられる、そういう作品でした。


作品を尊重すること

この作品には、“小説だからこそできるカラクリ”がたくさん施されています。

頭の中で登場人物たちを想像しながら読んでいましたが、もし映像化されていたら成立しないような巧妙な伏線が隠されていて、読み進めながら心が弾むのを感じました。

普段、本や漫画を読んでは、「実写化されるならこの監督で、この役はこの俳優さんがいいな〜」と空想することがよくあるのですが、“小説ならではのカラクリ”に気づいた時、その行いを省みました。

本には本として生み出された、生まれてきた意味があるのだと。

コンテンツの実写化が物議を醸すことの多い昨今。

『赤と青とエスキース』は、作品をそのままの形で尊重することの大切さについて改めて考えるきっかけを与えてくれました。


ふわふわの白猫をエスキースって呼んでみたい💭

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