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交渉力を付ける指導

明日の天気を見ると、かなり天気が良い様子。
北国の人間は少しでも温まるとバーベキューがしたくなります。
(私だけかもしれません・・・)
いそいでバルコニーの残った雪を掻きだしました。
残った雪は、明日の陽気にまかせることにします。
こんにちは。特別支援学級教員12年目のMr.チキンです。
今日は、”交渉力を付ける指導”についてお話をします。

校長室に呼ばれる

勤務して2年目のことでした。私は校長室に呼ばれました。

何かやらかしただろうか?

じんわりと汗をかいたのを覚えています。
しかし、呼び出されたのは、叱られるためではありませんでした。
私が校長室に着いたころには、同期の仲間がすでに入室していました。
ちょっと会わせたい人がいたので、来てもらいました。
初めて会う他校の教員がいました。Kさんという方だったと思います。
「Kくんは、これからT大学附属特別支援学校に異動されるんだ。その前に、Kくんから学ばせてもらいなさい。」と言われました。
急遽始まった研修でした。Kさんは、私たちにスライドを見せてくれました。

五重苦の子ども

そのスライドには、Kさんが行った指導が収められていました。
KさんはAくんの指導をしたのですが、そのAくんの状態というと、

「この子は、目が見えず、耳が聞こえない。正確には測れないが、おそらく知的障害自閉傾向がある。それらの障害がもとで、言葉の習得もできていなかった。」

というものでした。
当時、経験の少ない若手教員だった私ですが、その指導の大変さはすぐに分かりました。ヘレンケラーが三重苦と言われています。この子はその定義に基づくと、五重苦の子どもと言えるでしょう。Kさんはどのような指導を行ったのでしょうか。

見通しをもたせる工夫

まず、外界からの情報を受け取ることが難しいAくんは、見通しをもてないことでパニックを起こすことが高頻度であったようです。そのことから、Kさんは、なんとか見通しをもたせる工夫を考えました。試行錯誤ののち、

すべての教室のドアノブを異なるドアノブに変え、スペアのドアノブをKさんが持つ

という形にしたとのことでした。

ドアノブ(イメージ)

Kさんは、Aくんが触覚により外界の情報を得ていることに気付いたのです。そこで、教室とドアノブをリンクさせて教室移動をさせるように指導したのです。

音楽室に行きたくないというAくん

見通しをもてることになったことで、落ち着くようになったAくんでしたが、少しすると

○○には行きたくない。

と拒否の姿勢を示すようになったそうです。そして、またパニックになるのです。Kさんのすごいところは、そこで次の手を考えたのです。

どうすればできるようになる?

まずどの教室に行きたい?そのあとにだったら音楽室に行ける?

という指導を行ったということでした。
「何が何でも○○に行かなくてはいけない。」という姿勢ではなく、

どうすれば行くことができるのか。

ということを、話し合いの上で決めるようにしたということでした。
もちろん、それは言語ではなく、ドアノブの触覚話法で話し合います。
最初は泣きわめいていたAくんでしたが、指導の後半には自らドアノブを触り、やりたいことを示すようになったようです。

KさんとAくんから学ぶこと(交渉力を高める指導)

Kさんは、無理やりAくんを嫌がる教室に連れていきませんでした。
その安心感の中で、

いやなことは分かった。どうすればできるか考えよう。

という姿勢を貫いたのです。その結果、Aくんは自らできる方法を考え、示すことができるようになりました。Kさんはその指導を「交渉力を高める指導」と呼んでいました。
では、この指導は、Aくんにのみ有効だったのでしょうか。

特別支援学級での”交渉力を高める指導”

このKさんからの研修は、私の指導に大きな影響を与えました。
特別支援学級には、自立活動という、通常学級にはない領域指導があります。
具体的には

  1. 健康の保持

  2. 心理的な安定

  3. 人間関係の形成

  4. 環境の把握

  5. 身体の動き

  6. コミュニケーション

という6区分と、その下にある27項目から組み合わせて、その子の自立を促す指導をしていきます。
私は、この6区分を組み合わせた先に”交渉力”というものがあると位置づけています。保護者の方と、指導の方針を考える際に、交渉力という言葉を使ってお話をします。
子どもの状態を見ていくと、トラブルの多くが、交渉力の欠如によって起きていることが分かります。
「”A”か”B”かの二択」しか選択肢が無く、どうすれば良いのか子ども自身が分からないということが多いのです。
交渉によって、AとBの間の選択肢に気付かせるという指導をしていきます。

交渉力を高めるために

特別支援学級の担任をしていると、朝、電話がよく来ます。
保護者の方から、「子どもが学校に行きたくないと言っている。」という電話です。そういう時、子どもに電話を替わってもらい、交渉力を高める指導をします。

Bくん(以下B)「学校行きたくないんだ。」
チキン(以下チ)「そうか。学校行きたくないんだね。何かあったの?」
B「・・・・・・」
チ「言いたくないのかな。お母さんから、工作してたって聞いたけど、そうだった?もしよかったら、何を作ってたか教えてほしいのだけど。
B「今、折り紙で工作していたんだ。マイクラのやつ。」
チ「そっか。それでそれで?」
B「作ってる途中で、お母さんから学校行けって言われて、どうすれば良いか分からなくなった。
チ「そうか。作ってる途中で止められたんだね。それは辛いね。それで学校に行きたくないっていう気持ちになったんだね。」
B「うん。」
チ「でも、Bくんと先生は1年近くいっしょにいるから、少しわかってきたんだけれどね。Bくんはまじめな性格だから、ひょっとして学校には行かなきゃとも思ってる?
B「そう。だからわけわかんなくなった。
チ「じゃぁ、どうすれば来られるかな。一緒に考えようか。」

これは、実際の電話の指導を少し内容を変えて示したものです。
かなり回りくどいですが、子どもの主訴がどこにあるのかということを分析します。この場合は、Bくんは「工作を途中で止められたのがイヤだ。でも、学校へは行かなくちゃいけないのも分かっている。」という主訴があることがわかりました。だとすると、「どうすれば学校に行くことができるか」を一緒に考える作業をすることができます。
Bくんは、結果的に「学校に工作の続きを持ってきて、休み時間にやる。」という選択をして学校に来ることができました
結果として来られましたが、来られなくてもかまいません。「どのようにすれば状態を改善できるか。」ということを考えるということに価値があるからです。「学校に行かないで工作を続けるか、工作をあきらめて学校へ行くか」という二択ではなく、その間を取るということができるようになりました。
Bくんは最初からこのやりとりができたわけではありません。
一年間をかけて、ゆっくりと指導をしてきた結果です。
みなさんの周りに、「AかBか」でこだわってしまう子はいませんか?そういった子には、交渉力を高める指導が有効かもしれませんよ。
では、またね~!

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