内面を上げるのに必要なのは、少しの負荷とテンションかもしれない。
その日の僕は、バック エクステンションなる器具の前にいた。
「ほう。バック エクステンション」
思わず口に出さずにいられないそのエクステンションに僕はまんまと乗せられた。
とりあえず、器具に座り僕にふさわしい負荷を探しながら僕はさりげなく背中にエクステンションをしてみた。それは僕にとって、味わった事のない未知なるエクステンションだった。
村上筋肉倶楽部
~エクステンションからの景色編~
その器具からは、背中に在りし日の青春を思い出させる弾力があるわけでもなく、存在したのは圧倒的なある一箇所に対する執拗な苦痛だった。10×2セットをこなす僕は後半を迎える頃には、好きな女性を思い描く事すら出来なくなり、エクステンションにエクステンションされた。
器具を降り、敗北感に襲われていると少しタイプの女性が近付いてきた。僕は人に焦っている所は見せたくないタイプだ。精一杯の笑顔と余裕を作り彼女に話しかけた。
「やぁ、君に一つ問い掛けたい事があるんだ。それは今君に聞くことが一番ふさわしいと思うし、そうなるべきだと思うんだ。だから僕が君に尋ねる意味を見出だすのも自然なことなのかも知れないね」
僕は半ば強引に彼女に話し掛けたことを後悔したが、少しタイプの彼女は、僕に目を合わせもせずに喋り始めた。
「あなたのそのお喋りは、余裕から来るものかしらそれともその反対かしら。私はあなたがそのどちらでもいいと思っているわ。物事の本質は実態とは別のところにあるものなのよ。それは、最初から決まっているの。私は私の思うとおりにあなたに接するわ。質問は何かしら」
少しタイプの彼女は、無機質にそこにある事象に話し掛けるようなテンションだった。
僕はエクステンションしたからか、それとも無機質に扱われたからかはわからないが、少しタイプの彼女にテンション高く喋りかけてしまった。
「なぁ。この僕に執拗な攻撃を仕掛けてくるこの器具。そしてある一箇所を集中的に攻めてくるんだ。僕はエクステンションを認めざるを得ない。この脊柱起立筋ていうのはいったいどんな筋肉なんだい」
少しタイプの彼女は、専門的な事を聞いた僕に少しの戸惑いと目の奥に優しさを見せた。
「あなたからそんな言葉が聞けるなんてね。前にも言ったことあるかしら。私はあなたに寄り添うのが仕事なの。あなたがあなたのカラダについて疑問を感じるのならその疑問を解いてあなたに道を示すのが仕事なのよ」
僕は少しタイプの彼女に話の続きを促した。
「脊柱起立筋。それはね。背中の真ん中の縦のすじみたいになってる筋肉のことよ。ここを刺激すると姿勢が良くなって、内臓が上がるの。そして、そうね。あなたに対する望まれる答えを言うとしたら痩せやすい体になる事かしらね」
少しタイプの彼女は、いつもより少し早口で僕からの質問に答えてくれた。
「オーケーわかったよ。君の言う通りだとしたら、僕にはこの器具が必要だ。そしてそれを教えてくれた君も同じくらい僕にとって必要だってことになるね」
少しタイプの彼女は、僕の話をまるで聞いていない素振りで答えた。
「最初に言ったわよね。物事の本質は実態とは別のところにあるものなのよって。あなたにとって必要なものが必ずしも私にとって必要かはまた別の話なの。残念だけど、私はあなたが描いている理想のカラダが好みではないと言うことよ」
僕は初めて少しタイプの彼女からタイプの男性を聞いたことを逃さなかった。
「それは単純に、今の僕が好みのタイプのカラダだということを言っているのかい?」
彼女はそれには答えずに去っていった。
僕は痩せて失うものを考えていたが、変化を恐れて変化しない自分が失うものの方が大きいと理解している。お腹の脂肪はしつこく当分別れてくれそうにないので少しタイプの彼女はもう少しだけ相手をしてくれるはずだ。
なんのはなしですか
目標まであと、6.5kg。
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自分に何が書けるか、何を求めているか、探している途中ですが、サポートいただいたお気持ちは、忘れずに活かしたいと思っています。