依存症シリーズ(真千代シリーズともいう)第三弾目。 このシリーズのテーマは、基本的に性犯罪と思われます。櫛木理宇は他作品でも度々こういった問題を扱っているのですが、どれもデリケートな題材に対して非常に丁寧で真摯な姿勢がうかがえる。 今回、性犯罪加害者の弁護につく事の多い小諸という弁護士がターゲットと思われる。 いかなる犯罪者にも、弁護士を付ける権利は守られるべきです。この作品は、その説を批判するものではないと思いました。 指摘しているのは、制度の不備。 ヒロインである架乃
最近出版されたノワール小説としては、初めて面白いものに出会った気がした。 近年、ノワールが低迷期ですからね…かつて栄華を誇った馳星周や新堂冬樹といった面々も、今ではノワール書いてた事が無かった事になってるかの様ですし。 そして現代的。正に、現代の黒社会を描いたノワール。 最近は暴力団に入らず、半グレのままでいたがる者が多い、半グレは上下関係が曖昧、カタギと裏社会の境界は曖昧、といったルポでも読んだ事のある知識が、説明口調ではなく物語として上手く落とし込まれている。 主人公
元関東連合幹部、工藤明男(柴田大輔)によるエッセイみたいなもの。 自分の出生から、関東連合にいた青春時代、そして少年院に入って青春の終りを迎えるまで。 タイトル上部にはTOKYO UMBRELLAと書かれ、頁の最初にumbrellaについての説明が短く載っている。 umbrella(アンブレラ種)—ある地域の生態系において、食物連鎖の頂点に立つ捕食者 工藤の人生は正に、アンブレラを目指したものだった。そして一時、成し遂げられたのだろう。 2021年、工藤は自分の体を切り
民俗学的な話の中でも、遠野物語の舞台でもある寒村、人身御供、村八分、間引きといったとくに私の好きな部類がピンポイントで出ていた映画。 加えて幻想的な映像や音楽が不気味な諸設定に合っている。 しかし、不気味な設定のわりに見ていて暗い気持ちにならない。というのも、主人公の凛が山女となるまでがけっこう早く、テンポが良い。 これがダラダラと、凛一家が虐げられる映像が無駄に垂れ流しという作りであったら「感動ポルノかよ」とうんざりしたと思うが。 結末も痛快で解放感がある。 主人公
※ネタばれありなので注意! カルト宗教ホラー「異端の祝祭」続編。今回は都市伝説サイコホラーですね。 読みやすいし読ませる文章で、ミステリーも面白く、あっという間に読み終えてしまいました。 考えてみれば「異端の祝祭」の時もそうだったのですが、異常というか共依存カップルしかいない、というのが今回は非常に目立つ気がしました。 毎回事件を解決する佐々木事務所のバディのヤバい関係が、今回は明らかになったからかもしれません。 ヒロインであるるみが、実はかなりヤバい人だったというの
最近、ホストクラブに依存するあまり、売掛金を払うために搾取される女性という問題が取り沙汰されるようになりました。 著者はホストクラブが多く経営する歌舞伎町に住み込み、密着取材をしたそう。 ホストクラブのエグい話と言えば「星屑の王子様」を読んだ事があるのですが、それとは少し印象が違って驚いたものの、「そりゃまあ、そうなるよな。人間だもの。」と妙に納得するところもありました。 「星屑の王子様」を読んでいて、ホストってこういう図太い、強かな人が多いんだなーと思ってたんですけど
サイケデリックな映像と音楽…しかしテンポの良い大久保健也の作品と違い、かなりダウナー。 そして、そのダウナーさが逆にジャンキーっぽい。失礼ながら、ジャンキーが作った映画じゃないでしょうね?と思ってしまった。 いや、別にそうだとしても良いんだけど。 サイケデリックな謎の映像が、度々挿入されるのだけど、それ以外でも役者のメイクや服装などが非常に鮮やかで奇抜。 そしてこの挿入されるサイケデリック映像が、エイリアンの視点であろう事が後から明かされる。 ヒロインのマーガレットは何
戦時中、関東大震災の時「朝鮮人が井戸に毒を…」といったデマが流れ、自警団による朝鮮人大虐殺が行われた事は有名だと思います。 その頃、福田村に訪れた四国の行商人がその方言故に「朝鮮人ではないか」と疑われ自警団により虐殺された、それが福田村事件。 その自警団は逮捕されたものの、恩赦により釈放されたそう。 戦争を描いたものであっても加害の歴史を描いたものが無い邦画としては、けっこう挑戦したものだと思いました。ただでさえ、邦画は政治的要素を避ける傾向がありますからね。そしてこの映画
田舎の貧乏農場の娘、パールの夢はダンサーとして芸能人になる事。 農場での仕事や厳格な母親に閉塞感や鬱屈を感じており、それがやがて彼女を狂気へと走らせる… オープニングで、とくに理由も無くピッチフォーク(後に彼女のお気に入りアイテムとなる)でアヒルを刺し殺し、ワニの餌にするパールの笑顔は屈託が無く無邪気。 この頃から彼女の狂気は始まっていたという事でしょうか。 パールは別にダンスが好きだから、それを極めて舞台に立ちたいとかそういう事ではなく、芸能界でチヤホヤされて自分の価値
閉鎖的な村に伝わる何某~とか、カルト宗教、そういったワードに反応する人はきっと気に入るであろうホラー小説。 ミステリー要素も強く、読み易い読ませる文章です。 あとこの作品で印象的だった事の一つが、フィクション作品において定番と思われる男女の役割、ジェンダーの逆転現象でした。 この話は島本笑美という就活中の若い女性が、何社も落ちた末にカルト宗教みたいな事やってる変な企業に拾われるとこから始まるのですが そんな笑美を心配して彼女の兄である陽太が相談した霊能探偵事務所の所長で
澤村伊智は異形コレクションでちょくちょくみかけていて、面白いなーと思っていたのですが、「超怖い物件」収録の「笛を吹く家」でより気になる作家になりました。 因みにこの「超怖い物件」は良作揃いでおススメです。 「笛を吹く家」はミステリー要素も強く、どんでん返しで驚かされるのですが同時に彷彿とさせられたのがアリ・アスター「へレディタリー」 正に、家族は選べない。 しかしよくよく考えてみると、澤村伊智は「家族は選べない」ではなく「親は子を選べない」なのかもしれない。子は親を選べ
赤い女が刃物持って追いかけてくる!そんなスリリングな宣伝につられ、観に行きました。 YouTubeか何かの配信をするのか、スマホで撮影しつつ3人の男女がハイテンションで廃墟に入り込みます。 そこに在ったのは異様な祭壇。祭壇を壊し「幽霊出てこいやー!」と言ってたら、妙な鳴き声、そして金属のようなもので床を叩く物音が… 怖くなって外に出ようとしていたら、向こう側に全身真っ赤な女が刃物を片手に立っている。 目が合った途端、赤い女はクルリと向きを変え3人に向かって走り出した!
コロニア・ディグニダという、実際にあったカルト組織の宣伝映画という体で作られた作品。 コロニアから逃げ出した女性、マリアが色々あって悔い改め、再び神(パウル・シェーファー/コロニアの教祖)の元に立ち返るまでを描いた映画です。 ある精神科医はこの映画について、支配と従属の関係に囚われた人の見る夢と言いましたが、確かに豚が人間の姿に変わったり、姿が溶けて木になったり戻ったりと、しかもそれが何の脈略も無く表れる現象なので、ファンタジーというより夢の中の世界の様でした。 コロニア
――ねえママ、ママ、この本買って! だめ!頭悪くなるから!! (帯の煽り↑) 上記は平山夢明著「あむんぜん」の煽り文。下品な下ネタだらけな短編集ですが、平山夢明は一定の節度を守っているような、そんな気がします。感覚がわりと普通というか、根が真面目なんだなと思う。 あと井上正彦が異形コレクションでコメントしていましたが、彼はロマンチストですよね。 この短編集も、始終ふざけているようで所々、著者の生真面目さが表れている気がしました。 そして最終話「ヲタポリス」、これは笑
カナダ・ドイツ合作映画「手紙は覚えている」のリメイクを語っており、予告編だけでも分かるようにモチーフとした全くのオリジナル作品。 そして個人的に、リメイク元を遥かに超えた作品でした。 バディアクションとしての完成度が高くて、アクションシーンや逃亡劇に迫力があり、始終ハラハラしながら楽しんで見る事ができました。 主人公のピルジュはアルツハイマーを発症しているのですが、非常に頭がキレ、勘も鋭く、暗殺の手際の良さには思わず見とれてしまいます。 何か特殊な訓練でも受けてたの?昔
イギリスの女性作家によるノワール小説で、女性主人公のハードボイルド作品。 結論から言うと、かなり中途半端で残念な感じでした。 そもそもヒロインのセヴンて人が、始終ウジウジした性質であるのがあまり受け付けなかった。 キャバクラの様な店で働くセヴンは、強盗業に加担する事になり何件か殺人も犯すんですけど、殺しておきながら罪悪感に苛まれ、それでいて自首したりってわけでもなくダラダラと流されて罪を犯し続けるんですよね。 はっきりしない、優柔不断な性格の様で、そこにわりとイライラしま