주키

映画、小説、エッセイが好きです。仕事でも文章を書いている活字オタク。

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最近の記事

坂元裕二脚本「Woman」を今さら見た

文学系学部生なら、一度は坂元裕二作品を脚本のお手本として見てみなさいと言われたことがあると思う。私の場合は、授業では「東京ラブストーリー」を見た。そして3回生の時に「花束みたいな恋をした」が公開されて、その後に「怪物」が公開されて、そのどちらも驚愕しながら見たのを覚えている。 皆さんは坂元裕二作品の中にお気に入りはありますか? 私はなんといっても「最高の離婚」。小学生の時に見て、今思うと大人のジョークなんかは理解できないところも多かったんだろうけれど、もう本当に面白くて、録

    • 文学賞の下読みで得た知見

      読書オタクとして名乗りをあげて、とある文学賞の下読み委員になったのは数年前のこと。今年はもう勝手知ったるものだった。 下読みとは、選考委員が読む前に、膨大な数の応募作を選別するために読む人のこと。菊池風磨くんのtimelesz projectだって、一万何千人の応募者が書類審査で数百人まで絞られている。文学賞での下読みは、風磨くんに会える一次審査通過者を決めるための審査を行う人だ。実際の文学賞で、風磨くん、つまりプロの作家に謁見できる作品はわずか数点なので、下読みによる選考

      • 読書オタク、本が読めなくなる

        私は毎月数万円分の本を購入する、自他ともに認める(?)読書オタクだった。 給料は本を買うためにあると言ってもいいくらい、他の娯楽には脇目を振らず足繁く本屋に通っていた。 それがここ一ヶ月間、一冊も文芸書を読みきれなくなっていた。唯一読み始めたのは仕事のための経営学の本。それも自分が必要だと思うところだけつまみ読みして、後半のページは手付かずだ。 そのときに少し前にバズった、あるタイトルを思い出す。『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』。 話題になった時の私は三度の飯より

        • 宇多田ヒカル|ライブレポート

          9月1日、Kアリーナで宇多田ヒカルのツアー「HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024」の最終公演を見に行った。 あの空間に居合わせた自分は、これから最高の9月、いや、最高の2024年を駆け抜けられるんじゃないかという気がする。 大きな、大きな大きなお守りをもらったような気分のまま、この文章を書いている。 今回のライブは、前回のツアー「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」とは、まったく雰

          アンメット 雑感想|無条件に良いドラマ

          記憶喪失系の物語はお好きですか? 私は苦手です。というのも、悲しい展開が続きやすく、きりきり胸が痛くなるからです。 『博士の愛した数式』は記憶が持たない博士が登場する、大好きだけど二度と読めない切ないお話。 ドラマ「美丘」は若年性アルツハイマーによって記憶が徐々に失われていくお話、などなど、印象的で素敵だけど、もう辛すぎて二度と振り返れない…っていうお話はだいたい「記憶喪失系」なんですよね。 「アンメット」は記憶を失った脳外科医が主人公のドラマ。そこまで聞いて「うん、私に

          アンメット 雑感想|無条件に良いドラマ

          「夜明けのすべて」と「0.5の男」から考えるケア

          今年の邦画ナンバーワンを挙げようと思ったら、「夜明けのすべて」は最有力候補だと思う。 そして国内ドラマでは、「アンメット」で決まりだろう、と確信していた時、「0.5の男」を見てしまった。 本当に軽い気持ちで見始めたことを後悔したのは、2話目にして泣いてしまっていた時だ。何かすごいものを見ているのではないか?という気配がした。このドラマのいいところは、その気配のまま、幕引きされて行くところだろう。もっと見ていたいのに、と後ろ髪引かれながら、この文章を書いている。 「夜明け

          「夜明けのすべて」と「0.5の男」から考えるケア

          夫婦別姓について考えてみたところ

          次期総裁選の立候補者の名前が報じられはじめ、なんとなく安倍首相が暗殺されたのも夏だったなあと思い出す。最近少しずつ陽の光が弱まって生きているように感じられ、もう日中は外に出られへんDUNEの世界や、と思っていたのも、ちょっとなつかしい。喉元過ぎればうんぬんとはよく言ったもので、冷房の温度を少し上げながら、呑気にもう秋が来るんだなあ、なんて窓を開けてみる。 Twitter(今はX)では、選択的夫婦別姓がトレンド入りしていた。どうやら「虎に翼」という現在放送中のNHK朝ドラのエ

          夫婦別姓について考えてみたところ

          話し方が9割、さればこそ怪談ライブへ

          話し方を気にしたことはありますか。友人が仲違いした時のエピソードなどを聞きながら、「それは話し方が良くなかったんだなあ、言っていることの印象は悪くないのに」と思う時は、多々ある。 そういう時は、「もう少し別の言い方をしていれば問題にならなかったのに」「こっちの言葉を強調しておけば角が立たないのに」なんて、つい仕事柄か言葉の使い方や話し方を検討してしまうことも。 同じ内容でも言葉選びや言い方が、相手をイラつかせる「まきびし」になってしまう。そう考えると、いつも自分の振る舞い

          話し方が9割、さればこそ怪談ライブへ

          『君のクイズ』が面白すぎる

          *小川哲『君のクイズ』、面白すぎると思いませんか。 移動時間の2時間強で一気読みしました。2024年に読んだ小説の中でもぶっちぎりに好き。話のテンポが良く、丁寧に主人公の人生が切り取られていく感じが、コラージュ作品を見ているようで心地よいのです。 特に好きだったところといえば、やはりクイズ番組のシーン。「クイズプレーヤー」の主人公が、地上波生放送のクイズ番組に出場するシーンから物語が始まります。 クイズ自体に馴染みがなくても、クイズ番組なら見たことがあるというひとが大半だと

          『君のクイズ』が面白すぎる

          不眠同盟

          街は夏休暇の人々で賑わっている。連日の夏祭りが始まった。出店で客を呼び込むひとと、小銭を持って列に並ぶひと、わたし。熱帯夜の空気にぼうっとしていると、眠れぬ夜を過ごしたことも忘れそうになる。 なんだか夢を見ているような心地でいる。宮崎県で大きな地震が起きた後、現地のひとたちがどうしているのかもわからないまま、南海トラフ地震が起きるのだと言われはじめた。 ニュースを見て、南海トラフを示す黄色と赤の二重線の位置を把握しても、頭の悪い私はいまいち想像できない。でも想像できないな

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          執筆の「基礎練」を考えてみた

          突然ですが、私は文章を書く仕事をしています。フリーランスではなく、クリエイター事務所に所属しているので、上司もいれば後輩もいる状況。 そこで最近困っているのが、後輩にどうやったら上手くアドバイスできるだろう?ということです。 執筆についての特別な訓練を積んでいないひとが、対価を払ってもらえるくらい文章が書けるようになるまで、どういう道を歩んだら良いのか。 そこで最初に考えたのが「執筆の基礎練習」です。これからライターになりたいひとも、本業とは別に文章が上手くなりたいひと

          執筆の「基礎練」を考えてみた

          「フェラーリ」の木曜日

          「フェラーリ」(マイケル・マン監督)を見た。 想像していた感じとは違っていたけれど、いい映画だった。 細かいところまで1950年代が丁寧に再現されているだけで、映画を見て良かったと思える。どうやって撮ったの?としか思えない。 そしてカーレースのシーンは、いうまでもなく最高。またしても、どうやって撮ったの?と思わざるを得ないカットの数々。イタリアの雄大な自然を、フェラーリの赤が駆け巡る景色は、それだけでもうずっと見ていられる。 1950年のイタリアの、もう見られない景色が

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          「母親になって後悔してる」のは不穏か?

          『母親になって後悔してる』(オルナ・ドーナト)を読んでから、ずっと胸がざわざわしている。 太宰を読めばその先一週間がくっと落ち込み、漱石を読めば旧仮名遣いになってしまうほど読書に影響される私だが、今回はそうではなかった。ただただ、ひたすらに困惑していたんである。 『母親になって後悔してる』は、さまざまなバックグラウンドを持つ女性たちを調査対象としたレポートのような一冊だ。 「母親になったことを後悔していますか?」という質問を核にして、母親になった自身を振り返るような聞き取り

          「母親になって後悔してる」のは不穏か?

          「マッドマックス」を見ずに死ねるか!

          ネットでは、良い意味で「バカ映画」と呼ばれているものがある。「ジョン・ウィック」シリーズや、「ブレット・トレイン」などがそれだろう。 細かい設定は抜きにして楽しめる、ド派手なアクション映画が愛すべき「バカ映画」と呼ばれているんではないだろうか。 私は「マッドマックス 怒りのデスロード」(以下、「マッドマックス」)もいわゆる「バカ映画」だと思っていた。たしかに理屈をすっ飛ばした戦闘シーンや、派手な爆発、これでもかという量の火炎放射は、すごさを通り越して笑ってしまう。 けれど

          「マッドマックス」を見ずに死ねるか!

          摂食障害、ままならない私たち

          「ていうかお前、アンパンマンみたいだね」 私の顔のことだ。丸顔な上にちょっとふっくらしているんだ、私の顔は。 20歳になったばかりの時、サークルの先輩の一言がきっかけで、私は摂食障害になった。このあとの半年間で、162cm 35kg、小学5年女子くらいの体重まで、痩せることになる。 美しくなるために痩せたんではなかった。スタイルが良くなりたいとか、韓国アイドルみたいになりたいとか、決して人並み以上を目指そうとしたのではない。 とにかくもう二度と「アンパンマン」と言われた

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          カネコアヤノ、感受性の筋トレ

          「ひとは30代から新しい音楽を聴かなくなり、それまでに好きになった音楽のみを繰り返し聞くようになる」。ネットで聞いたことがある言葉だ。 私は今25歳なので、音楽がインプットできる時間が終わるまで、あと5年。もしあの通説が本当なのだとしたら、その前にカネコアヤノの曲を知れて本当に良かった。 先週、いよいよカネコアヤノのライブに行った。初めてのライブハウスだ、zeppだ。学生の時はお金的にも勇気的にもチャンスを掴めなかったけど、有給をとって新幹線に乗って、もちろんチケットもゲ

          カネコアヤノ、感受性の筋トレ