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エッセイ

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2020年4月の記事一覧

DJ!

例えば僕がDJで気にすることといえば、ミキサーのイコライジング。ハイ、ミドル、ロウとだいたいのミキサーでは3つに分かれているうちの、ミドルとロウのつまみは大抵が時計でいう、1時辺りをさしていて、それからハイだけは10時から11時のあいだ。つまり、高音だけは少し削っている。信頼できるミュージシャンがそれを聞いて、ギタリストのアンプ使いだね、といった。ハイ、高音を削れば、ある程度ミドルとロウが響いても

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DJが知る音楽の持つ魔法

DJを生業にはしていないけれど、いちばん長くつづいていることが誰にあてるでもなく書き連ねる文章だとしたら、その次にはDJをつづけてきた。
いまから書こうとしているのはそのはなしではない。

コロナ渦の前、我が街の毎晩のように過ごしてきた、メキシカンバーで、もはや契約の切れた、wifiがないと繋がらないこのiPhoneを、アンプに繋げてスピーカーから流すDJのことを書こうと思う。

時にはY

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太陽みたいな女の子

君と出会ったのは君がまだ高校生の時で、最初から君はかわいくて、誰もが恋に落ちた。僕はというと、君が幼すぎて、自分がロリータコンプレックスとは無縁の人間なんだと、その時思った。良かった、と心底。
高校生の友達…と口にするのもはばかれて。
君はたくさんの絵を描いたし、いまでも描いていることだろう。
そして君の恋も、何回かははなしに聞いていた。

君の当時の恋人と三人で遊んだ夜、君と二人で少しだけ歩

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行こう!あの夜、彼女がそう言うものだから。

初めての恋人ができたのは25歳の冬が始まろうとしていた季節で、それは人生で最も美しい時期だった。

アルバイトで入ったCDショップに彼女はいた。
入社して2日目、初めて彼女と会った日、僕は彼女と付き合うんだと、直感で思った。とはいえ、慣れない仕事…初めての接客業で、僕は入社してからずっと混乱のなかにいた。そして彼女は彼女で、退社が決まっていた。

店長に命じられて、CDショップが入っていたデパート

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映画はひとを狂わせる

10数年ぶりにカラックスのポンヌフの恋人を観た。よく思い返すと、ポーラX公開時に、女の子とのデートでカラックスのリバイバル上映を観に、渋谷に通っていたのだった。そしてずっと、上映途中から彼女が泣き崩れて、デートが台無しにされた気がしたのは、ポンヌフの恋人ではなく、汚れた血だったのだと、いまはたと気付く。その夜、チェーンの居酒屋さんで、ふたりで語ったことはちょっとだけ覚えている。カラックスと、ベネッ

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柔らかい朝

初めて女の子とお泊りしたときのことでも書こうと思う。
学生時代の後輩で、初めて彼女を見たときに、こんなにかわいい子がいるんだ、と感動した。
蛍光色のパンツやプロレスでいうブッチャーの靴を履いてるようなセンスのサブカルまみれの学校のなかで…青山にいるようなファッション by友達 をしていたその子と一回だけ、何がきっかけか記憶にないけれど、下北沢でデートした。
下北沢って当時の僕には凄くお洒落な街だっ

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あなたが僕の始まりでした。

思えばあなたと過ごした時間にはいつだって、たくさんのことばが流れていた気がします。もちろん、あなたがミュージシャンだったから、という理由もあるでしょう。友達に誘われていったライブハウスで、あなたのバンドに出会い、そしてそこから一気に、僕はパンクってやつに心を、月並みな表現ですが、心を奪われたのです。下北沢の小さなライブハウスに出向いたときに渡した、僕のバンドのデモテープ。西荻窪のさらに小さなスタジ

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好きだよ、は別れのことばにもなる

20代のはじめの数年間、通いつめた家がある。
週に一度はそこで、始発が走る時間まで過ごしていた。
僕はそこで、フリージャズを知り、プログレッシブロックを知り、マルクス兄弟を知り、マニエリスム藝術を知った。
誕生日に貰った平岡正明の黒い神は、いまでもカバーはなくしたけれど、本棚にあるし、教えてもらった間章の非時と廃墟そして鏡もその近くに並んでいる。
いつもは4人で、ときには3人や2人ででも、そこで音

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僕を見つけてくれたのは。

あれがいつの頃かも、もう忘れてしまった。
朝帰り、家へと向かう路上で、マッチを擦って煙草に火をつけた瞬間に、凛の匂いを冷気とともに吸い込んだことを覚えてるから、冬のある日だったのかもしれない。
天気雨に降られて、電車の通り過ぎるゴーっという音だけが鳴り響く高架下で、時間をやり過ごすために、返信したのを覚えているから、6月の夕方だったのかもしれない。
その子は、パリに住んでいた。
別れが裏切りにも似

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