太陽みたいな女の子

君と出会ったのは君がまだ高校生の時で、最初から君はかわいくて、誰もが恋に落ちた。僕はというと、君が幼すぎて、自分がロリータコンプレックスとは無縁の人間なんだと、その時思った。良かった、と心底。
高校生の友達…と口にするのもはばかれて。
君はたくさんの絵を描いたし、いまでも描いていることだろう。
そして君の恋も、何回かははなしに聞いていた。

君の当時の恋人と三人で遊んだ夜、君と二人で少しだけ歩いた。その時、不意に君のくちびるからこぼれおちたメロディ、口笛に、僕は虚をつかれた。君は何もいわなかったけれど、それだけ、君が彼といることに緊張していたのだ、と。

君が突然、そういつだって君は突然、何かをいいだすんだ…君が突然に東京藝大を受験する、と僕に告げた時には、僕は受験期間までの数ヶ月、サポートをすると決めた。それはやはりあっという間になかったことになったのだけれど。

そう、僕は僕なりに、君に対して、本気でぶつかってしまう。いつだって。そこに、年齢の差は、ない。それくらいに、君の情熱は、他人を巻き込む力がある。

君はおかあさんからたくさんの映画を教わっていた。僕が君のおかあさんと会った時、三人で、拙い記憶で、川島雄三や鈴木清順や岡本喜八や加藤泰のはなしをしたのは、素敵な時間だった。身振りを交えて、台詞をはなす君のおかあさんは、その映画を身体ごと体現し、観ていたのだな、それはいちばん素敵な映画の見方だな、などと微笑ましく見ていた。

だからというわけでもないけれど、君に、それなりにDVDコレクションをいくつもあげた。今となっては、どんなDVDだったかは忘れたけれど。そこに、マチネー、土曜の午後はキッスではじまるという愛すべき作品があれば良いのだけれど。ミツバチのささやきや、ぼくの小さな恋人たちなどと一緒に。

小さな街の大きな通りで、夜道に君に伝えた、君はかわいいのだから、それに映画も好きなんだから、女優になれば?。直ぐに君はその道に歩き出した。

むかし少しだけ付き合った僕の恋人が、君と僕を師弟関係だといった。だけど、たぶん僕は君に対してはムキになり過ぎるんだと思う。

君に誘われて行った、君の友達の舞台。舞台それ自体は面白かったものの、その舞台の真ん前の席で舞台を見ていた、君のたくさんの学友が、舞台後に君と感想を話しているのを聞いて、むかっ腹が立った。つい、あとで君に、でもあのひとたちは、何十年経っても、いまと同じように、小さな仲間内で舞台を作って、それを見ては感想を言い合ってるよ、それから飲みに出かけるんだ。君はそこにいたいの?。当然、怒られた。そう、君と僕はどうやら師弟としては相性が悪いらしい。

君が、役者としてやっていくにあたって、一瞬、僕の珍しい苗字を名乗る許可を何度か尋ねてきた。ただ、困った。断った。照れではなく、僕自身の憎む苗字だから。

君がやっぱりおかあさんの影響でブルース、それも関西のコテコテのブルースを聴きはじめ、木村充揮さんや近藤房之助さんが好きだといった時にも、彼らは僕がDJとして出会い、ブルースはいちばん力を入れているところだから、少し面食らった。それに僕の長くなった付き合いのブルースマンを君のイベントに呼んだと聞いた時にも、まだイベントを企画すら出来ない状態でいた僕は、嫉妬した。悔しかった。

もしかしたら、君に対して、無意識に年上のマウンティングを取っていたのかもしれないな、といまは反省する。

それでも、たまに呑んでは夜道を途中まで送って行く時、君に呼び出されて君のお家で余っていたDJ機材を貸して繋げた時や、君が渋谷で個展をした時には、直ぐに駆けつけていた。たぶん、君は二番目には僕が写真を撮った女の子だ。

君がこの街から離れたと風の噂で聞いていたけれど、君が何本かのPVに出たのは観た。それに君が出演する映画の公開が決まった時には心底、嬉しかった。同時にやはり、嫉妬している自分を告白しよう。

君がいろいろなところを旅して、Gさんにだけ買って来たんですよ、といいながら渡してくれたプレゼントが溜まって、それでも最近は増えていない。

まだ君が高校生の時、文化祭のTシャツのデザインを任されて、僕のうちでデザインのアイデアを相談してきたことがいまはもう懐かしい歴史になったんだな、と思う。

久しく、一緒にレストランも行ってない。

だけれど、いつか僕に映画を撮るチャンスが巡り巡ってきたら、主演は君だと決めている。そして、またたくさんの喧嘩をするんだろう。いまから楽しみで仕方ない。

そうそう、君も、世界を捕まえてくるような、世界を振り向かせるような太陽だとしたら、僕もそうなんだってこと、知ってるのかな?。

二人で、それぞれに、世界を捕まえて、また会おう。いまはそんな風にいえるくらいには、僕も大人になった。そう、君の情熱は、他人を巻き込む力がある。僕の情熱もいまだ燻りながらも、強くこの胸と目と耳のなか。

#映画
#エッセイ
#夢

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