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冬じたく (月曜日の図書館148)
寒い季節がやってきた。これからの数ヶ月は、春から夏の間にためこんでおいたあたたかさを少しずつ食いつぶしながら、生きていかなければならない。
仕事でいうと、自分がこれまでやってきたわずかな業績が糧になる。イベント、展示、広報誌の発行。とりあえず、少なくとも、曲がりなりにも、かするくらいには、人様の役に立ってきたであろうもろもろを思い浮かべて、心をあたためるのだ。
絵本作家の五味太郎は名著『大人問題』の中で「心は乱れるためにある」と言った。書き留めておきたいすてきな言葉だとは思うが、それは今ではない。こんな寒空の下で乱れなどしたら、「心」という漢字は空中分解してしまうだろう。一画一画、両手で包みこみ、バラバラにならぬよう、ぎゅっと握りしめる。
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図書館はだいたい秋の読書週間がハイライトだから、そこを過ぎると後はもう年度末に向けての予算の執行とかいろんな書類作成とか、大切だけどモチベーションを保ちにくい仕事ばかり、ただただ目の前に広がる。
季節もそれに呼応するかのように、いっきにやさしくなくなる。気温が下がれば体温も下がる。毛穴も心も閉じてしまう。思考もぼんやりしてくる。まるで変温動物だ。わたしはカエルだったのか。
カエルモードのときは下手に元気を出そうとしない方がよい。本来なら冬眠すべきところ、かろうじて起きて労働しているのだから、それだけでも上出来である。
自分で自分をほめる、許す思想っていつ頃からはじまったのだろう?
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小さくても成果の見えやすい仕事をちまちまやることも大事だ。たとえば、日に焼けたラベルを新しく貼り替える。掲示物をきれいにする。古くて利用されなくなった本を書庫に移す。棚にすき間ができると気のせいか、本も呼吸がしやすそうに見える。
本の後ろに隠れていた蚊がプワアっと出てくる。あわよくば刺す。蚊も変温動物じゃなかったっけ。生命力のたくましさにあきれてしまう。うらやましくもある。
否、うらやんではいけない。他人をうらやむと、その分エネルギーが削られてしまう。おはなし会デビューをするというのでみんなから応援されているM木くんに、わたしも励ましの言葉をかける。ラジオに出演したLちゃんがほめられているのを、横でにこにこしながら見守る。
誰かが誰かより優れているとか大切にされているとかではない、ただそういう順番が回ってきたというだけだ。
本も、いつもより一層たくさん読む。幸い読書週間のときに通常より多く借りられたので、ストックは十分にある。こんなときは、地味で、静かで、けれど芯の強い物語がいい。リンドグレーンならピッピではなくやかまし村。池波正太郎なら小説より随筆。
読んでいる時間は、心の冬眠と呼べるかもしれない。本の内容が深いところまで染みこんでいく。だんだん〈自分〉が薄まっていく感じを、じっくり味わう。
人生に〈自分〉と〈他者〉だけでなく、物語という余白があってよかった。
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物理的に防寒することも忘れてはならない。外気に触れる肌面積を極力少なくする。重ね着に次ぐ重ね着。太陽に照らされたって、絶対にコートは脱がないという構え。
たまに着膨れしすぎて頭がもうろうとすることもある。
考えたって、どうせ悲しいことしか思い浮かばないのだから、もうろうとしているくらいがちょうどいいのだ。毎日の仕事は体が勝手にやってくれる。頭の出番は、次に春がくるまでおあずけだ。
出番が少なすぎやしないか。もうちょっと良い役を、セリフを、と頭が騒ぎはじめるまでは、万全の体制で冬を迎え撃たなければならない。