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おばあちゃんの姿で会いに行きます

「たられば」の話をするのが私は嫌いです。起きてしまったこと、自分がやらかしてしまった過去はどうやったて変えられないから。
あの日に戻れたら、あの時こうしていれば、何かが変わっていたのだろうか・・・。
どんなに悔やんだって時間は戻りません。
けれどあの日、私のせいで彼女にさせてしまった、困った顔、泣いている顔が今も目に焼き付いて離れないのです。

※シリアス成分多めです。多めどころかほぼそれしかないです。
※若くして癌と戦い旅立っていった大切な友人へ、伝えられなかった思いをここに記します。

大好きなお姉さん

彼女は同じ職場の元同僚で、10歳ほど年上のお姉さん。背が高くてスレンダーな美人さんでモデルをしていたこともあると言っていたのも頷ける美貌の持ち主。

女性ばかりの職場で、年上の人たちに囲まれながら私は楽しく和気あいあいと過ごしていました。
彼女が旅行に出かけるときには、飼っているインコを預かったことがありました。そのときにガウン姿で現れた父と対面し「今時ガウン着てる人久々に見た!石原裕次郎かと思ったわ!」と爆笑したのが彼女です。
その時のエピソードはちょこっとだけこちらの記事でも触れています。


ほわんとした柔らかい雰囲気で、女性らしい印象からは想像できないアクティブな人で、ウインドーサーフィンやクライミングが趣味のギャップ女子。10歳も歳が離れているけど、優しくて話しやすくて大好きなお姉さんです。

そんな彼女が転職して職場を去ったあともメールで連絡をとり合い、食事に出かけたりしていました。
あるとき職場のみんなで食事に行くことになり、私が彼女へお誘いのメールを送りました。

「みんなで会えるのを楽しみしてます。また色々お喋りしましょ〜!」という一文を添えて送信。
彼女から届いた「行くよ〜!」という返信には追伸でこう記されていました。

「私もmonacaちゃんに話したいことがあります。題して人生最大の危機!」

告白

食事会のお店はおしゃれな炭火焼き。
新鮮な魚介を七輪で焼いて、お酒を飲んで、久しぶりの再会だったので喋り倒して、みんなで笑って、彼女も炭火焼きを美味しい!といって喜んでくれました。

酔いが回って自分のテンションが上がってきた頃、私は彼女に例のメールのことを尋ねました。

「そういえば、メールで言ってた人生最大の危機って、いったいなんだったんですかぁ?」

完全に酔っ払いの軽いノリでした。
そういえば、昨日のドラマ観ましたかぁ?ぐらいの感覚で。
すると彼女の表情が曇り困った顔になって、それから少しの間をあけてから話し始めました。

「じつは検査で癌が見つかったの。舌の癌、舌癌だって。」

えっ。

背中に冷たいものが走り、一瞬で酔いは覚めました。

馬鹿か私は!
こんな重大な話をあんな軽いノリで彼女に振るだなんて!
本当に人生最大の危機じゃないか。
馬鹿すぎる。
なんでもうちょっと考えられなかったのか。
知らなかった、わからなかったじゃないだろう!

自分の最低さを思い知る

それから彼女は病気が見つかった経緯や現在の状況を話してくれました。
発見が早くてまだ薬で治療ができる段階であること。
体が怠いようなこともないので、仕事も普通にできているから心配しないでほしいということ。
でも薬の副作用で味がわからないこと・・・。
さっきはみんなに合わせて美味しいと言ったけど、じつは味がまったくわからないのだと、俯きながら話してくれました。

「何も考えずに話を振ってしまって、本当にごめんなさい。軽率でした。まさかこんなに重大な内容だなんて思っていなくて・・・」

最低だ。最低の最悪だ。
言葉を放った本人に悪気のないところが一番タチが悪い。
こういう人間のことを無神経と呼ぶ。
そう、まさしく自分のことでした。
こうして書いているだけでも、自分自身に嫌気がさします。

みんな心の中で思っただろう「なんで彼女が」と。
まだ30代の若い彼女が。

「今日みんなにあったら話さなきゃと思っていたけど、楽しかったから切り出せなくて・・・。だからmonacaちゃんが話をするきっかけをくれたから、ちょうどよかったの」

それからみんなで色々話していたら、みんな泣いていました。
私が泣いたってどうにもならないってわかってるけど、色んな感情がない交ぜになっていました。

最後は
「monacaちゃんのせいでみんな泣いちゃったじゃん。なんて爆弾投下してくれんのよ!もう全部monacaちゃんが悪い!」
彼女は涙を拭きながら、きっと精一杯頑張ってつくった笑顔で冗談めかして場を収めてくれました。みんなも笑いながら「そうだ、そうだ」とブーイング。
私は彼女の優しさに救われました。

一年後

その後、彼女が入院していることを人づてに聞きました。
しかも一般病棟ではなく、緩和ケア病棟に入院していると。
すぐに会いに行きたかったけれど、彼女が家族以外の面会を望んでいないと聞き、私は彼女の苦痛が少しでも和らぎますようにと祈ることしかできませんでした。


告白を聞いてからわずか一年後、彼女は旅立っていきました。


いつの頃からかメールを送っても返事が来なくなっていたので、もしかして入院しているのかも知れないとは思っていました。でも、まさかこんな早くにお別れが来てしまうなんて・・・。
退院して元気になったらきっと彼女から連絡してくれる、そう信じていたのに。

お通夜のあと、お母様とお話しさせていただときに、ひと目会いたい想いに駆られ「お顔をみてお別れをさせていだけませんか?」とお願いしました。
ですが闘病で変わってしまった姿を見せることは彼女自身が望んでいなかったことと、娘の元気だった頃の顔をずっと憶えていてほしい、とお母様のお気持ちをお話ししてくださいました。
ひと目会うことは叶いませんでしたが、私は何度も棺へ手を合わせてお別れをさせていただきました。

届いてますか?

Mさんがハナミズキの花を好きだと言っていたから、どんな花なのかすぐに調べました。おかげで一青窈が「ハナミズキ」を歌ったときには、ああ、あの花ね。知ってる知ってる、となぜか得意げでした。
今でも街路樹のハナミズキが咲き始めると、Mさんを真っ先に思い出します。

私の父も最期は同じ病院の緩和ケア病棟で過ごしたんですよ。
父の病室を訪ねるたびにMさんが過ごしていた時間と、父が過ごしている時間を重ねていました。
Mさんも父も残された時間を心穏やかに過ごせますように、苦痛が少しでも和らぎますようにと祈っていました。

二人で食事に行ったときに打ち明けあった、お互いの秘密を憶えていますか?
私が打ち明けたからMさんも打ち明けてくれたんですよね。
「誰にも話してないんだから、秘密だよ」と言って私にだけ話してくれたこと、じつはめっちゃ嬉しかったです。
なのにちょこっとだけ、その秘密をお母様にお話ししてしまったことは謝ります。
ごめんなさい!
他の人からみたら、それが秘密?と思うようなことかも知れないけれど、赤面しながら話してくれたあの時の顔はとっても可愛かったです。

あ、いまmonacaのくせに生意気な、って思いましたね?
私もすっかり歳を重ねて、いつの間にかMさんの歳を追い越しちゃったんですよ!だから、もう私の方が年上なんですよーだ。
今度会うときは、きっと私はおばあちゃんになってます。
おばあちゃんになった姿で会いに行くので、驚かないでくださいね。
そのときは今度こそ、色々お喋りしましょ〜!



※トップ画像はみんなのフォトギャラリーより、K.zakiさんの画像を使わせていただきました。
ありがとうございます!


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!













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