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オフィサー&スパイ(ドレフュス事件の映画)【なんでや!映画感想とワイが関西人であることは関係あらへんやろ!(それはユーテルダケヤ人や、20年前のお値段です)なんでやねん(なにいっとんねん)】

平たく言うとドレフュス事件の映画。
説明しよう。
ドレフュス事件とは、19世紀のフランス軍で、
ユダヤ人というだけでスパイの冤罪をかけられた将校ドレフュス。
しかしその後、本当のスパイらしき人物が発見され、
しかもそのことが新聞で全国に報道された。
一転して無罪判決を最終的に受けたという事件だ。

・・・皆さんご存じですね。

彼の元教官だったピカール中佐が主人公。
最初のうちは「君の教え子がスパイだ」と言われても
「そうですか」としか答えようがなかったのだが。

ちなみにドレフュス大尉の役者は本物そっくりです。
め、めがねがー!
そして公正に扱われることに異常にこだわるめんどくさい人。
強い差別を受けて生きてきたが故なのですが、
この四角頭ぶりが実に良く演出されています。
少し前の黒人の人とかはこんな感じでしたよね。
今は余裕ある人が多くなったけど。

その後、主人公ピカール中佐は、
なぜか防諜部の部長となって赴任するのですが。

どうやら別の人物が怪しい。
出るわ出るわ、怪しげな証拠が。
しかも怪しい人物の筆跡を入手すると、
なんとドレフュス事件で使われたドレフュスの手紙とやらにそっくりではないか。
さらによくよく調べてみると、
ドレフュス事件で使われた証拠はすべて胡散臭いものばかりときた。

さもあらん、と上官に報告すると「黙っていろ」との命令。
しかしピカール中佐は黙らなかった。
厄介に思った上層部はピカール中佐を左遷させるだけでなく、
ピカールまで逮捕しようとする。
もはやこれまでかと思ったピカールは、
知り合いの弁護士を通じて新聞社に出向く。
そこにそろっていたのは、オーロール社長。下院と上院の議員。
クレマンソー氏。文豪エミールゾラ氏と役者がそろったところで。

まあ、歴史的事実については、詳しく述べるのは止めましょう。
ウィキに書いてある。

歴史映画ということで、消化試合の感覚で観たのですが、
(歴史映画はなるだけ観たいという訳のわからない使命感があります)

思っていたより骨太の刑事映画といった風情。
ピカール中佐は刑事ではないですが。
真実をどこまでも追及し正義を実現することにかけては一歩も引かないという執念は、古武士を感じさせました。
男の中の男ですね。さすがはフランス男。
フランス男のイメージって、私の中ではなよっとした感じではなくて、こういう遊びもできる武士的な感じなんですよね。

そういえばシティーハンターもフランス映画になっていたけど、
ああいうのがフランス男には似合うのかもしれない。

途中から、流れが刑事ものから社会サスペンスものに変化。
新聞社や野党系の代議士などが後援する裁判ものの展開になります。
これは史実が前提にあるため当然の展開なのですが。
知らずに観たら斜め上の展開と感じるかもしれない。
この展開は良い。

最後はなんだかはっきりしない終わり方でしたが、これも史実準拠。
しかし冤罪事件というのは、このくらいの明確にさせない感じの方がいいのかもしれない。
映画で「実は真犯人はあいつだ」とかいうのは、
冤罪を扱う映画ではなんか違う気もする。

結局、真犯人というか本当のスパイだったらしい人物についても、
有罪の判決は出なかったらしく、その後はうやむやになっています。
ドレフュス大尉もまずは恩赦ということで、
結局のところ冤罪の責任について、政府は認めませんでした。
その後にほとぼりが冷めた辺りで、無罪という形でさりげなく終わらせています。
史実はこのようにモヤる感じで終わっているのです。

ただ演出はあちらこちらでこだわっており、雰囲気を出すためにできるだけのことをしています。
防諜部の他の将校たちの「右にならえ」「長いものに巻かれろ」的な空気感を良く演出で出してきていると感じました。
視聴者の反発を誘導する演出が丁寧ですよね。

白黒はっきりつけず、演出だけを徹底する感じは、なんとなく格調高い文化の香りを感じます。

ラスト。将軍に昇進したピカールと少佐に進級したドレフュスの会話。
ドレフュスはここでも四角頭ぶりを発揮して昇進が公平じゃないと不満を述べるのですが、
なんとなく「士は己を知る者のために」感が、やはり雰囲気が出てる。

セリフの外側で心情を語るような場面が多くて、実にいい雰囲気です。
ストレートにセリフで説明させてはやはりダメですね。

背筋が伸びる映画です。

ドレフュス事件の歴史的評価としては、フランスに民主主義が定着したのがこの辺りということで、何かの分水嶺になったとも言われています。
この後、フランスの成熟した民主主義は、ドイツや日本のそれとは違う道を歩むようになったのだとか。(まあドゴール時代に軍部がクーデター未遂とかやらかしてましたが)

また今日のイスラエルにつながるシオニズム運動が始まったのは、
このドレフュス事件の直接的影響によるとされます。

今日はこんな感じで。

追記:最後にフランス軍装について。
ピカール中佐が途中で着替えていた水色の服はアフリカ植民地勤務用です。
しかし第1次大戦で紺と赤の服は目立ちすぎるので、全兵科が水色になります。
塹壕戦でフランス軍は水色軍服を着てたんですね。
アフリカ勤務用に生産されていたので、それを配布するだけで済みます。
しかし1918年ごろになるとイギリス軍と同じようなカーキ色が入ってきます。

また当時のフランス軍は肋骨服が多く、横に伸びる紐が服の前にたくさんついています。
元はナポレオン時代の軽騎兵用の服なのですが、なぜか全兵科で採用。
さらには明治日本までこれを模倣して採用したので、203高地みたいなとこでも、乃木将軍などは肋骨服を着ています。
作中において、将軍たちやドレフュスのような砲兵将校はタイプが違うとはいえ、肋骨服の系列を着ていますね。
ラストでピカールが将軍になったのも将軍用の肋骨服を着ているから分かります。

またフランス軍は、礼装用を別にして肩に階級章をつけません。
袖章のみです。
軍事裁判の判事たちだけが、巨大な肩章のエポレットをつけています。
あれは礼装なんでしょう。
巨大な肩のエポレットはフランス発の装いですが、
この時代になると通常勤務服では廃されてしまっています。
肩には小さな縦の階級章みたいなのがついてますが、あれは階級章ではありません。
ただこれを模倣したらしい日本軍の昭五式軍装、アメリカ北軍のブルードレス(現在も復活して使用)では、同じ位置に縦の階級章がついています。

以上、雑学でした。

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