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理系人の太極拳

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プログラマーが暇つぶしで太極拳について理系人なりに探求してみました。 本業は武道家でもなんでもないので、武術で飯を食っているわけでもないから、笑いながらご一読いただければ幸いです。
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15回目:「気」を一旦忘れて

15回目:「気」を一旦忘れて

「気」よりもっと都合のいい言葉は、恐らくない。日本人も漢字の文化圏なので、多少この「気」の曖昧さがわかるだろう。呼吸するのは、「気」管。心理作用は「気分」。内蔵の感覚も「吐き気」。さらに「文系人」の漫画家は手のひらからビームを出すカメハメハまで「気」と呼んでいる。中国でも、古来から「気功」と呼ばれる超自然なものが信じられている。これらの存在は、すべて太極拳の「気」への理解の邪魔になっているのは、間

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14 回目:「八卦」を一旦忘れて

14 回目:「八卦」を一旦忘れて

「五行」よりは「八卦」のほうが、実はもっと格が上の仮説である。なぜかというと、「四書五経」と言われる「儒家」のバイブルの一つである「易経」に記載された説だ。これは、歴史を考えると、老子の「道徳経」より遥か前の時代にすでに信仰された仮説で、世界を解釈し、さらに予測しようとする。現代人がわかりやすい言葉に訳すと、「占い」。

人間は知らないものから、不安を感じる。現代人のように、科学技術が発達している

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12回目:「拳論」を一旦忘れて

12回目:「拳論」を一旦忘れて

ここまでの回で、「太極拳」の形成、伝承、応用、および「推手」という特別な演習法について、理系人としての見解と推理を紹介した。特に楊式ベースの「推手」というのは、優雅で風流な「囲碁の武術版」である結論まで結びつけた。もちろん、この結論に異議がある方もたくさんいらっしゃると思うが、少なくとも、理系人の私は、誰かの言い伝えや、噂ベースの文書より、自分の現実ベースでの推理を信じている。

この結論をサポー

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11回目:「政権」を忘れないで

11回目:「政権」を忘れないで

優雅で囲碁のような余裕のある「楊露禅系」「太極拳推手」、これはこの理系人が研究したい課題である。これ以外の「推手」や「太極拳」は議論や探求の範疇ではない。つまり、「論外」だ。ここはやはり、理系の論文っぽく、はっきりさせなければいけない。だって、理論が適用する範囲を明確にするのが、理系人の考え方である。自分の理論が、なんでも、万物万人にも適用できるという考えは、まあ、悪質な商法や、新興宗教のやり方で

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10回目:「相手を傷つけること」を一旦忘れて

10回目:「相手を傷つけること」を一旦忘れて

戦場から帰ってきた人間は、心に傷が残る者がいる。これはPTSDという心的外傷後ストレス障害である。特に人を殺めたことや、殺戮の現場を見たことなど、ストレスの原因になる。だから、米兵が帰国後、ベトナム戦争症候群や湾岸戦争症候群などがある。

平和な現代社会に暮らしている人間は、そう簡単には人を傷つけることができない。それは法律、道徳、教育などなど自制心、すなわち理性による制御があるから。だから刑事の

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9回目:「戦える?」を一旦忘れて

9回目:「戦える?」を一旦忘れて

現代人はよく「太極拳って実戦に使えるの?」と聞く。しかし、理系人としては、まず「実戦って何?」と聞き返したい。なぜかというと、前述のように、サバイバルのための「死活問題」の実戦もあるし、内部の切磋琢磨のための「勝負」の実戦もある。さらに、巷の「ストリートファイト」もある。いったい現代人は、どこまでの実戦を意識してこの質問をしているのか、まずそれを確かめたい。

次にそもそも「〇〇拳って実戦に使える

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8回目:「神技」を一旦忘れて

8回目:「神技」を一旦忘れて

3回目でも触れてみたが、古代の民間の武装集団は、武器の改良にはあまり資金面や政治面の投資ができないから、逆に良い武器に頼らない技を磨くしかいないのではないかと推測してみた。その技の磨きには、伝承の手段(拳譜、秘伝)と絶えない実践(山賊などからの自衛)以外、もう一つ不可欠なのは、優秀な選抜制度だと思う。

「科挙」という文化人の制度があるこそ、中国は二千年あまりの皇帝制度を維持できた。それは、皇帝本

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7回目:本場を一旦忘れて

7回目:本場を一旦忘れて

緊急事態宣言がやっと終わって、次いつ来るか誰も分からない。幸いに理系人は元気で、無事2回ワクチンも受けた。ワクチンを信用するかどうか、人それぞれの観点があるが、理系人としては、メリットがデメリットよりずっと大きく、接種するのが今のところ一番合理的な判断だと思う。まあ、その話はさておいて、過去の一年半の間、外食はだいぶ減った。「理系人の太極拳」の次を書く前に、ちょっと外食の話をする。

日本の中華料

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6回目:拳譜をやはり忘れて

6回目:拳譜をやはり忘れて

前回「拳譜を忘れて」の理由を説明した。それは、そもそも古代人が書いた専門分野の文書は、現代人にとって解読が難しいから。それでも、たまたま現代でも古文や古代のあらゆることが詳しい人がいるかもしれない。だったら、その人は、拳譜を入手したら、すぐ解読できて、優れた武術を習得できるのではないか。

ちょっと待って!それでも「拳譜」だけでは、習得できないよ。なぜかというと、「拳譜」はあくまでも「パズルのかけ

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5回目:拳譜を一旦忘れて

5回目:拳譜を一旦忘れて

前回の最後触れた言葉は「白黒写真」だ。しかし、残念ながら古代、少なくとも太極拳が「発明」された時代には、写真がなかった。

武当山の道士たちは、延命のために、「太極拳」を研究したのか、それとも、陳家溝の農民たちは、保身のために、「太極拳」を研究したのか、伝承していく手段がないと、結局その研究は、一代で終わってしまうのだろう。写真がない時代、一体どうやって「忠実」に伝承が起きていたのだろう。

答え

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4回目:分科を一旦忘れて

4回目:分科を一旦忘れて

本日東京では2度目緊急事態宣言が発動された。東京の1日の感染者人数が2000人をも超えたが、理系人にとっては、特に意外ではなかった。だって、去年のグーグル社が出したAIの予測通りになっているだけ。AIがプロの囲碁棋士に勝てる21世紀では、こういう限定されたケースの予測(例えば天気予報)は、古代の占い師の予測ではなく、相当正確になるはずだが、政治家に真剣に参考されてないのは、残念だ。理系人の政治家が

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3回目:スマホを一旦忘れて

3回目:スマホを一旦忘れて

現代人はスマホをポケットから出せば、遠いところの人と会話できるし、調べることもできる。さらに写真撮ったりビデオを撮ったりすることもできる。それは古代人から見ると、魔法みたいな信じられない世界だろう。では、現代の理系人(ロマンチックな文系人を置いといて)は古代人のことをどう思う?遠いところの人とは手紙で連絡し、何ヶ月もかかる。本というものは貴重で、なかなか調べることができない。記録するためには、文字

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2回目:治世を一旦忘れて

2回目:治世を一旦忘れて

「治世」といえば、あの三国志で有名な曹操(そうそう)への評価に使われる「治世の能臣、乱世の奸雄(かんゆう)」以外は、あんまり現代日本人が使わない言葉だろう。でも現代日本人は、誰もが今の時代、特に今の日本は「治世」、すなわちよーく治まった平和な時代であることは、否認できないだろう。だって、夜の街でも女の子一人で安心に歩けるし、小学生が一人で電車に乗って登校している。何よりも、あっちこっち溢れている自

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1回目:漫画や映画を一旦忘れて

1回目:漫画や映画を一旦忘れて

現代社会で古代の武術を習うことは、いかにロマンチックなことだろう。

だって、どう考えても、文明の進んでいる現代人より上回るものが古代人が持っているのは、理系男子にとっては、ありえないことである。しかし、そうとは言い切れないんじゃないと思っている文系人も少なくないから、「実はアトランティスは超先進文明だ」とか、「ピラミッドはほかの銀河へジャンプできるゲート」とか、小説家や漫画家が倍出する文系人が自

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