
6回目:拳譜をやはり忘れて
前回「拳譜を忘れて」の理由を説明した。それは、そもそも古代人が書いた専門分野の文書は、現代人にとって解読が難しいから。それでも、たまたま現代でも古文や古代のあらゆることが詳しい人がいるかもしれない。だったら、その人は、拳譜を入手したら、すぐ解読できて、優れた武術を習得できるのではないか。
ちょっと待って!それでも「拳譜」だけでは、習得できないよ。なぜかというと、「拳譜」はあくまでも「パズルのかけらの一枚」だから。
書面での伝承は、世代間で長く優れた武術を伝承できる原因の一つと推測した。しかし、課題も残した。「技術は習うのもではなく、盗むもの」古代でも、著作権保護に苦心しなければならない。これは、殺すか殺されるかの死活問題である。
幸い、私みたいな文武両道の「賢い」人材が古代にもいたに間違いない。ここで「文武人」と呼んでみよう。賢い「文武人」はこう考えた。拳法の譜面が盗まれても困らないようにすればいいでしょう。その要領は、現代の「理系人」が考えたパソコンで重要な文書を他人に盗まれないようにした「暗号化」と似たような方法だった。
現代の「暗号化」の詳細をここで紹介するつもりがない。日本の会社で働いていることがある方、会社でメールの添付ファイルを守るためには、パスワードで暗号化したZIPファイルを作って、別途パスワードを相手に送ることがあるでしょう。それと似たような手法は、古代の武人が何百年前にも採用した。
拳譜はZIPファイルのようなもので、同時に「秘伝」というパスワードは、別途伝承しているのだ。具体的には、伝承された「武術」の中で、見た目でわかりやすいもの、例えば手を上に上げる動きとか、覚える量が多いもの、例えば長い套路とか、を書類に落として「拳譜」にする。これは、書類によって、ゆっくり勉強できるし、公で練習しているときも、いずれも人に見られるから、特にそこまで守る必要がない。もちろん基本門外不出なので、「拳譜」自体もできるだけ他人には見せない。そして、肝心なところをわざと「拳譜」に書かず、「秘伝」として口頭でしか伝授しない。これで、かりに「拳譜」が盗まれても「秘伝」がバレなければ、挽回できる。ここの「秘伝」は、例えば、見た目で分かりづらい呼吸法とか、目線や意識の使い方とか。コカ・コーラのレシピみたいなものを想像すればわかりやすい。
だから、現代の私達はもしその「秘伝」を手に入れることができなければ、「拳譜」を持っていても、特に時間をかけて研究しなくてもよい。8割真似できても、最高峰の内容は習得できないから。だって「パスワード」なければ、「暗号化」されたZIPファイルを解読きないから。
まあ、まれに、暗号を当てて解読できるケースもあると同じように、「私は天才だから、欠けている部分を当てられる」というような「武術ハッカー」であれば、どうぞ、どんどん「拳譜」を研究してください。
しかし、世の中大半は凡人である。それは古代でも現代でも割合はたぶん変わらない。
Photo credit: Visual Content on Visualhunt.com / CC BY