大人の🎞️📚自由感想メモ

大人の読書鑑賞記録として読んだ後に追情報も調査したりするシリーズ（？）を第一弾の『大人の嗜好品』に続き、書いてみた。
今回は映画起点のものも含めてみた。

🌻クレイジーサマー

児童文学だけど、大人に読んで欲しい本。
黒人の人権について歴史を知ると同時に、自分の意思を持つ必要性は現在も人種に関わらず誰しもに関係があると感じた。

本の冒頭では相手の姿や口調のみで互いを判断するシーンが多かった。しかしストーリーが進むにつれ、主人公の少女たち目線ではあるが相手の態度のその理由も背景も分かった。その結果、相手の態度自体が変わってくる箇所があり、みんなを応援したくなった。
ひと夏の成長物語としても感動する物語。

3人姉妹の末っ子が集会で詩を詠むシーンはバイデン大統領の就任式でアマンダゴーマンが"The Hill We Climb"を朗読した際のことを彷彿させた。

アメリカを創ったジェファーソンが、勉強機会の無い「黒人は詩を作れない」と断定していたそうだが、時代は変われるし、誰しもが芸術家あるいは政治家になれると思わせられた。

🎭シェイクスピアの香り

シェイクスピアは作品のポイントとなるシーンにて香りを用いていたという。
例えば、香りが多く用いられている、作品の１つにRomeo&Julietがある。

香りの効果はシーンの雰囲気を表し、象徴や暗示に用いられていた。
悪臭や良い香りでその歴史が反映していたか暗黒時代なのかが分かる。

世界の香り史を見ると、時代の権力者と香りに関係があることがわかった。「神事」→「医療」→「女性」の順になっていた。

まず「神事」が重要なメソポタミア時代に香りは捧げ物として、エジプトでも神の御代に行くミイラにも香油が使われていた。
次は「医療」でギリシアで体臭防止に、またローまでは魚の生臭さを消すなど、謂わばスパイスのような日常用途でも使われた。他には中国だと薬として。メソポタミアでは清潔さを保つためにも用いられていたようだ。
このように権力者以外にも使われる様になると、香りを持つアイテムは貿易の道具としての価値が生まれ、権力を持つ者の側にいる「女性」によって重宝されるようになっていた。
例えばエジプトでは化粧として活用（ミイラでも使用していたらしく、その際に調合香料が発展したとか）され始めた。一方、古代ローマでは「女々しい」ものと見なされるようになった傾向もあった。

英国の香り史に特化して見ると、11cにノルマン朝の大陸文化と共に十字軍遠征で香りの技術が持ち帰られたのがきっかけで、14cにベネチアやジェノバから貿易船で輸入されていたのが大きいムーブメントだった。
なお、その際の利益をイタリアは15cルネサンスで使用し、文化が発展していたよう。

英国といえば王室が注目される存在だが、香りに関する言葉と王室の豆知識がある。それはエリザベス女王（16〜17c）は「棘のないバラ」と呼ばれていたこと。
棘のないバラは実際にはないかと思うが、棘のない（少ない）バラは最も香りが強いことから、エリザベス女王の時代は"香りの時代"と呼ばれていたことにも繋がる。彼女の稀有な存在にぴったりの表現だと感じた。

他に英国といえば、イングリッシュガーデンも有名だが、その特徴はハーブが植っていることが多いことだと思う。これも香りの歴史と関係があるという。
実際、英国庭園の発展（グレイトガーデン）は元々実用性のあるもので、段々と観賞用へ発展していった。ハリーポッターを彷彿させるが、イギリスにおいて特にハーブは野菜、薬用、造園用によく使われるなくてはならない存在だ。

今回は香りとシェイクスピアに特化した本だったが、スパイス、ハーブがかなり関わっていて、私の興味を惹くものばかりだった。引き続きいろんな文献と出会いたくなった。

🎨美と殺戮のすべて

タイトルからとても怖い映画なのでは？と事前調べなく恐る恐る観に行った。実際、処方された薬物で大勢が中毒を起こした「オピオイド危機」を追うドキュメンタリーで、確かに、その事実は恐ろしいものだった。

オピオイド危機とは、オピオイド系処方鎮痛剤オキシコンチンを"常習性が低く安全"と謳って販売していた製薬会社の創業家であるサックラー家がオピオイドの蔓延を煽ったとして非難されている事件だ。

しかし怖さだけを伝えている映画ではない。事件に対し、写真家のナン・ゴールディンが主宰する活動団体PAINが声を上げ、長期に渡って戦う姿を追っているところがポイントだった。

まさにこの抗議活動がこの映画のメインで、PAINがサックラー家に対し、謝罪と一家の多額の寄付で作られた「サックラー・ウィング」(メトロポリタン美術館)から名前を消したシーンでは、歴史を動かしたところにともに達成感を感じた。

また映画を通してゴールディン自身の過去を辿ることができる。幼少期の姉の自殺・自身の性的依存や薬物中毒の経験などを経て、活動していると考えると一言一言の重みがある。
彼女の写真集を見ると、被写体の多くがAIDSで亡くなっていたり、写真家と言うよりジャーナリストに近いような気もした。

話は変わるが、私は留学期、アートフェミニズムについて論文を書いていた。その時にジュディ・シカゴについて様々な文献を辿り、彼女の「ディナー・パーティ」が所蔵されているブルックリン美術館のエリザベス・A・サックラー フェミニストアートセンターについても知った。
名前から分かるように、エリザベス・A・サックラー氏もサックラー氏の血を引いている。だからゴールディンは彼女も事件について責任がゼロではないと言う。
でも当事者ではない血縁者のどこまでが責任を負うべきなのだろうか。もしかすると寧ろ、彼らも被害者といえる可能性もある気がして、難しいと思った。
起こした事件の影響は後世まで絶えることがない。

現在、コロナ禍やその後にオーバードーズなどで薬物中毒が流行している。オピオイド危機再燃とも実は言われているらしい。
過去の事件ではなく未だ続いていることは覚えておきたい。

🎙️プリシラ

エルヴィスって光源氏みたいだな、と冒頭で思った。幼い女の子を自分好みの女性に育てていく感じが似ていたからだ。しかも母親が早いうちに亡くなったことで母親を投影できる女性を探しているところも似ている。
またエルヴィスがプリシラ以外に多くの女性と不倫関係？遊び？を繰り返しているところも光源氏と共通していた。
あくまでプリシラを1番愛していたかもしれないが、限りなくグレーな関係が幾つもあったはずだ。それは平安時代にグレーな妾の関係を幾つも持っていた物語の主人公の光源氏を含み、平安貴族と被るところがあったと思った。
このことは山崎ナオコーラさんの『ミライの源氏物語』を読んで、各時代で社会規範は異なると気が付いた。
今の時代も今後の世の中と比べると差別だらけの時代だったと思う日がくるとわかったが、プリシラも源氏物語の浮舟のように、選択肢のない恋愛や人生を選択していったように思った。最終的には我が道を見極めることができた点で感心した。

他には鑑賞時に注目すべき3ポイントを衣装、音楽、プリシラのアイデンティティとしたい。

①衣装
創業者が女性のシャネルをプリシラの衣装に、創業者が男性のヴァレンティノをエルヴィスの衣装にしたところにこだわりを感じた。
またプリシラのウェディングドレスに関してはとりわけこだわったようで、シャネルの過去のデザインを集結させて90時間もの制作時間を要したというので驚き。

②音楽
エルヴィスの曲が1回も取り上げられず、大事なエンドロールの曲はDolly Partonの『I will always love you』だった。
この曲はWhitney Hustonが歌う、『Body Guard』のイメージが強いが、これは劇中歌としてカバーされたもの。元々はDollyがビジネスパートナーに対して書いた曲だという。彼との仕事が終わりを迎え、その別離の気持ちを恋の別れに置き換えて歌った。
エルヴィスとプリシラの関係とピッタリで、互いの間に愛はあったが、気持ちが離れて別れを決意したシーンが描かれている。
プリシラには別れて尚、歌手としてのエルヴィスを応援する気持ちはあるが、プライベートでは一緒にいられないといった微妙な距離感で、矛盾のある気持ちだった。それが歌とリンクしているように思った。
Dollyのこの曲をエルヴィスもプリシラも好んでいたという。しかし、Dollyは時代の寵児であるエルヴィスが望んだ曲のカバーを認めなかった。
それはエルヴィスが男性で影響力もあるから曲を必ず提供せねばならないという圧力への抵抗でもあったと考えられる。

③プリシラのアイデンティティ
上記2ポイントとも繋がるが、出産を機にプリシラには自我が明確に生まれている点を注目すべきだと思う。
それは子どもを守らねばならないという母としての強さの現れに見えた。
わかりやすいのは車の運転だ。家の中に閉じこもっていたのが、外での活動が増えていくようになっていった。空手を習ったりと精神的にも体力的にも自立しようという気持ちが伝わってくる。
ファッションやメイクもエルヴィスを喜ばせるためのものではなく、自分でプロデュースした自己表現のスタイルになっている。

プリシラによる自伝も読んでみた。『私のエルヴィス』という本。
映画を観た直後は、幼いプリシラを自分好みに作り上げていったエルヴィスは光源氏みたいだなと思っていたが、エルヴィス自身も若い頃からスターとして育て上げられてきていたと知った。
つまりエルヴィスは、自分がされてきたことをプリシラにしていたということになるが、彼自身孤独を感じていたことがその理由なのではないかと思った。