紀伊みたこ/ショートショート

子育てしながらショートショートを書いています! 著書「インスタント・ストーリーズ〜2…

紀伊みたこ/ショートショート

子育てしながらショートショートを書いています! 著書「インスタント・ストーリーズ〜22話のすき間時間小説〜」を電子書籍にて販売中✨ YouTube「紀伊みたこの朗読書房」では、新作のショートショートの朗読もしています(^^)

最近の記事

【ショートショート】本音と建前

「ねぇ、見て! 昨日、うちの子の保育園の発表会だったのー!」 そう言った同僚は、悪気なんてこれっぽっちもない様子で、私にスマホを見せてきた。 私は口角を上げ、「かわいいねー」と返事をする。すると、同僚は子どもが直前に風邪をひいて参加できるかヒヤヒヤしただの、無事に参加できて嬉しかっただの、止めどなく話し続けてくる。 私は上げた口角をしっかり保ちながら「大変だったねー」やら「よかったねー」やらと相づちを打つのだ。 独身アラフォーの私にとって、彼女の話はマウントをとられて

    • 【ショートショート】声が聞こえる

      また聞こえる・・・ この家に引っ越してきてからというもの、いつも同じ時間帯に、同じような声が聞こえる。何日かそんなことが続き、気になったボクは隣に面した壁に耳を当ててみた。すると、女性の金切り声がボクの耳にダイレクトに入ってくる。 やはり、お隣さんは感情的な女性のようだ。カップルのやりとりなのか、「私と彼女とどっちが大切なの?」と騒ぎ立てている。 迷惑な話だ・・・と思いつつ、引っ越してきたばかりでご近所トラブルになるのもごめんである。ボクは不本意ながらも、しばらく様子を

      • 【ショートショート】治安

        「父さん、母さん、ごめんよ。僕が出かけたいと言ったばかりに・・・・・・」 少年は申し訳なさそうに声を震わせた。 「いいんだ、気にするな。お前は悪くない」 側にいる父親は息子を励まし、隣にいる母親も大きくうなずく。 少年家族は悪い奴らに捕まってしまった。 治安が良くない地域に生まれた少年は、今まで出かけることもなく、ひっそりと身を潜めて過ごしてきた。付き合いも最小限、小さな世界で生きてきた。 しかし、誕生日を控えた少年はどうしても家族で出かけてみたいと思

        • 【ショートショート】ロボット社会

          「ご夕食の準備ができました」 「あぁ・・・・・・」 男は無愛想な返事をしながら、無表情のまま自室からダイニングへと移動した。 テーブルの上には具だくさんの味噌汁に焼き魚、キュウリとわかめの酢の物、炊き込みご飯が整然と並べられている。 表情一つ変えずに席に着いた男は、静かに手だけを合わせた後、そそくさと食事を始めた。 「本日は和食を準備致しました。ここのところ、脂っこいお食事が続いておりましたので、時には胃に優しいお食事をお召し上がりください」 「あぁ・・・・・・」

        【ショートショート】本音と建前

          【ショートショート】ユウウツさん

          いつの頃からだろう。気づくと一日が終わっている。毎日仕事に追われ、疲れきって帰宅をすると、あとは眠るだけ。だから家も荒れ放題だ。 一人暮らしのボクにとって、大きな問題はない。だけど、時々ため息が出るのも事実である。 仕事も中堅的な立場になってきて、数年前に比べたら、仕事の量も質も格段に上がってきた。良い言い方をすれば、やりがいがある。しかし本音を言えば、疲れるなぁ・・・・・・もある。仕事が嫌いというわけではない。ただ、時々行き詰まって、ため息が出る。それがボクの日常だ。

          【ショートショート】ユウウツさん

          【ショートショート】最後の晩餐(さいごのばんさん)

          「えー・・・・・・、地球は一年後の本日、大爆発を起こし滅亡する見込みです・・・・・・」 総理大臣からの衝撃的な発言に、世間は一気に大混乱となった。 ニュースは連日この話題で持ちきりになり、いろんな専門家がそれぞれの立場から意見を言うものの、人々を救うような革新的なものは何一つ出てこなかった。 ついに地球もここまできてしまった。人間は人間のために生き過ぎた。 環境汚染は手がつけられないほど深刻化し、その影響で一年後には大爆発をするところまできてしまった。「堪忍袋(かんに

          【ショートショート】最後の晩餐(さいごのばんさん)

          【ショートショート】トイレの神様

          「くさい・・・・・・」 一月一日の朝、一人暮らしのアパートのトイレの扉を開けた俺は、思わず言った。まさか新年最初がこんな言葉からスタートするとは考えてもいなかった。少なくとも数時間前までは、くさくなかったはずだ・・・・・・ まぁ、もちろんトイレなのだから、ある程度はくさかったのだが、こんな臭いではなかったのは間違いない。俺は鼻につく下水のような臭いに耐えかねて、トイレには入らず、一旦扉を閉めた。 物書きになることを夢見て、上京して早五年。このアパートで迎える正月も五回目だ

          【ショートショート】トイレの神様