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【ショートショート】最後の晩餐(さいごのばんさん)


「えー・・・・・・、地球は一年後の本日、大爆発を起こし滅亡する見込みです・・・・・・」

総理大臣からの衝撃的な発言に、世間は一気に大混乱となった。

ニュースは連日この話題で持ちきりになり、いろんな専門家がそれぞれの立場から意見を言うものの、人々を救うような革新的なものは何一つ出てこなかった。

ついに地球もここまできてしまった。人間は人間のために生き過ぎた。

環境汚染は手がつけられないほど深刻化し、その影響で一年後には大爆発をするところまできてしまった。「堪忍袋(かんにんぶくろ)の緒が切れる」とは、まさにこのこと。

環境汚染と引き換えに手に入れたテクノロジーの進歩は、宇宙で暮らすことも可能にしたが、全人類となると話は別である。せいぜい各国の要人を助けられるレベルだ。

残された大半の人類は一年後に控える地球大爆発の瞬間を、ただ指を加えて待つことしかできないという、なんとも残酷なシナリオが用意されていた。

人々は大いに荒れた。仕事を放棄する者も現れ、盗みを働く者も現れた。街はみるみるうちに秩序を失い、荒廃していく。農作物を作る者も、店を営業する者も少なくなり、途端に生活をすることすら難しくなっていった。


「このままでは地球が大爆発をする前に、我が国は破滅してしまう・・・・・・何か手を打たなければ・・・・・・」

総理大臣からの指示の元、関係各位が慌ただしく動き出し、ラジオやテレビ、ネットからは常に心理カウンセラーなどによる、前向きな気持ちになるための方法や知恵が指南されるようになった。

それだけではなく、多くの有名人たちを起用し、最後の晩餐を何にするかを真剣に議論する様子の中継も盛んに行われるようになった。

その甲斐あり、社会の情勢は少しずつ良い方向へと変化していった。二ヶ月ほどした頃には、世間は最後の晩餐のことで大いに盛り上がっていた。

そして、人々は再び労働にいそしむようになった。おのおのが考えた最後の晩餐を実現するためだ。枯れた農地を再びたがやし農作物を植え、野生化していた家畜を連れ戻し再び世話をする。そのうち、飲食店も少しずつ賑わいを取り戻していった。

人間とは実にたくましい生き物だ。一度は荒廃した街が再び蘇っていくことになる。


日にちはものすごいスピードで駆け抜け、あっという間に滅亡まであと一日となった。

しかし、人々の中に流れていたのは、どんよりとした負の感情ではない。最後の晩餐に向けて、街は食料集めに奔走する人々であふれ、なんともいえない異様な活気に満ちていた。


・・・・・・と、その時、突如、地球は大爆発を起こし、こっぱみじんとなった。


予定よりも一日早い滅亡。

いかにテクノロジーが進化しようと全てが分かるわけではない。だが、もはやそんな議論も無用である。

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