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すずめの戸締りと事業承継の話|M&Aアドバイザーのつぶやき

こんにちは。かきもとみさです。
本日は大晦日!朝から掃除し、ひと段落して心もスッキリです。

今年手掛けたM&Aはいくつかあるのですが、11月末にクローズした案件は、思うところがありました。

言語化できるかわからないのですが、この大晦日に綴ってみたいと思います。

東日本大震災から11年

今回の案件は、東日本大震災の被害を直に受け、売主である社長は精神的にも相当なダメージを受けていました。

また、10年くらい経つと東京に住んでいる私たちにとっては「3.11」の話題も少し遠い記憶となり、若い世代に至っては記憶すらない状況に変化してきました。

それでも、当該地域で事業を営む経営者にとっては、当時の記憶も、その後の11年間も、ものすごく重く苦しいものだったことは容易に想像できます。

「被災地ハンデ」が無くなるタイミング

震災から約10年が経過すると、当該地域企業への補助金の交付が終了し、いよいよ「被災地復興支援」も手薄になってきます。

補助する側からすれば、「補助期間中に体力を回復せよ」ということなんでしょうけれども、そんなに簡単にはうまくいかないし、世界から見ればいまだに「被災地で生産された食品」というのは敬遠されるような差別も決して消えません。

このタイミングで、売主社長は経営の限界を感じ、「バトンパスしよう」という決断をします。

本当に真面目で実直、一人ですべての責任を背中に背負って経営をしてきた方だったので、ただでさえ難しい事業運営に、この災害という大事件は悲観的にならざるを得ませんでした。

買手の姿

そんな売主社長を継ぐことになったのは、同地域で「復興」というテーマを掲げる会社でした。

いままで売主がやらなかったこと、やりたかったけどできなかったことを、業界の新参者という立場をあえて活用して無邪気に「なんでやらないの?」とポロっと言ってしまうことができてしまいそうな若い社長です。

売主にとってはおそらくエイリアンか何かに見えるくらいの大きなギャップだったでしょう。

でも、傍からみている私にとっては「この会社には、この要素が必要だったんだな」と腑に落ちることろがありました。

出来事を真面目にとらえすぎたり、悲観的になりすぎたりして、ずっと時が経過するのを待っていてはならない。失敗してもいいから何か新しいこと、「これは面白いかも!」と思える施策に取り組まないといけない。

経営面については売主よりもときに厳格な面もありながら、仕事に対する姿勢において「楽しむ心」「失敗してもいい」「自分の持ち味を出そうよ」と、「エンターテインメント性をエッセンスとして振りかけてもいいじゃん?」とそんな風に思わせてくれる方でした。

私はクロージングまでしか両者の姿を近くで見ることはできない立場だけれど、きっとあの買手社長だったら、苦しいことにも逃げず、ときに笑いながらきちんと向き合って前向きに取り組んでくれると信じています。

「すずめの戸締り」新海誠監督の言葉

さて、クロージング後に少し落ち着いて、一人でふと「すずめの戸締り」が観にいくことにしました。

この物語は、東日本大震災のメタファーを中心に描かれています。当該地域の方々にとっては見ていて辛くなるほどかもしれません。

ただ、本編が素晴らしかったことは置いといて、鑑賞の前後で新海誠監督のコメントをいくつか読むと、なんだか考えさせられるというか心に響くものがありました。

「今つくるのなら扉を開くのではなく、閉じる物語。きちんと閉じ、次に進むべき場所を見つけるものにしたいと思った」

日本経済新聞(2022年11月14日)

背景には「震災の記憶が遠のくことへの恐れ」がある。「僕の娘は12歳で、『君の名は。』の彗星が震災のメタファーとは分からない。でも震災はそれほど昔の出来事ではない。今も多くの人たちの気持ちの中に生々しく残っており、作品に描けば10代の彼らとも記憶を共有できるし、今ならまだ間に合う」

日本経済新聞(2022年11月14日)

「辛い思い出を忘れることはできないけれど、きちんとケリをつけて前を向いて生きていこう」。そして、次の世代ともこの災害が起きたことを共有しながら、それでも力強く生きている大人の姿を胸を張って見せていこうよ、という気持ちをエンターテインメントを通じて多くの人と共有できる作品になったのだと思います。

たしかパンフレットだったかどこかにも記載されていたのですが、「こういうことって、エンターテインメントでしかできないですよね」とも語られていました。

たしかに災害自体は本当に悲惨なものだし、どう考えても明るい結末を添えてメディアが扱えるものではありません。そんな日は絶対に来ないでしょう

でも、この出来事を物語にすることで、その主人公の気持ちの変化を通じて、それを観ている側が前向きになれることに大きな価値があると感じました。

私にとっての「東日本大震災」の変化

たまたまタイミングが重なって、M&A案件のクロージング直後にこの「すずめの戸締り」を観ることになったわけですが、自分の中ではこのクロージングも、売主社長にとっては「扉を閉める」ということに近いと感じました。

そして、大きな覚悟しつつも少しワクワクしている買手の社長には、11年「この災害とともに生きてきた」上で見出している将来への希望を感じています。

なんだか今回の案件と映画の物語が少し重なるところがあるように感じました。

私にとっての「東日本大震災」の思い出は、正直、自分が東京で電車に乗れなくて吞気にカラオケで朝まで時間をつぶしていた記憶とか、その後の仕事がめちゃくちゃ大変だった思い出くらいしかありませんでした。

あれから11年。今年この案件に出会ったことにより、私にとって「東日本大震災」という言葉に触れたときに想起される思い出は大きく書き換えられました。

当事者にとってはいまも「災害とともに」生きていること。中にはあの悲劇から抜け出せないでいること。それらも、すこしだけ理解することができたと思います。

1つだけ前向きにとらえても良いのだとしたら、この災害があって「この地域を復興させたい」という価値観が生まれたからこそ、今回の案件は成り立っていたということが挙げられるかもしれません。

この価値観が生まれたから、全く出会う機会のない2者が出会うきっかけが生まれ、いま、会社が大きく生まれ変わろうとしているわけで。

うまく表現できませんが、今回手掛けた案件は単なる「M&A」=「会社の第三者へ譲渡」が成立したというだけでなく、少なくとも近くで当事者たちの言葉を直に見聞きしていた私にとっては、大きな意義のある案件となりました。

今年この案件に関わらせていただいたことへの感謝を表現し、これからもずっと忘れたくないと感じていたので、この大晦日に言語化してみました。

2023年も、たくさんの良い出会いを生み出せるように尽力したいと思います。

皆様、良いお年をお迎えください!

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