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わたしの放浪記(6) 〜鉢合わせ〜
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翌朝、カフェラウンジで朝食をとろうと下に降りると、昨晩私が座っていたカウンター席に40〜50代くらいの女性が腰掛けている。
長い髪が綺麗で、ふわっとした白い肌が印象的な人だった。
カウンター越しのスタッフと話しながらも女性の手先は一定のリズムで動かしながら毛糸を器用に編み進めている。
空き時間に編み物をしている人が自然に馴染んでいる光景は、ものづくりが好きな私にとっては嬉しいものだった。
私は窓際の2人がけのテーブルに座って料理を待っている間、編み物の女性との間にお互いを認識しあっているような空気が流れた。
私は気まずい間を埋めるように、さっきから気になっていた編み物について話をしてみた。
「あの、それ、何編んでるんですか?」
「あーこれね、ストールみたいなの、とりあえず気ままに編んでるだけだから何になるかはわかんないけどね」
ふふっと笑った。
わたしもものづくりが好きなことを伝えたり、二言三言会話をしたところで
「あっ、そうそう私こういうのやってるの」
そう言いながらこちらに近づいて一枚の栞のようなものを手渡してくれた。
“子供の頃、読み忘れた本あります。”
そんな一文が書いてあった。
「これって…」
不意に渡されて、文字を辿るだけで頭が回転しない私。
「絵本ばかりを置いてるの、今日はお休みなんだけど明日は空いてるから時間が合えば来てみてね。絵本って面白いよ〜、奥が深いから大人にこそ読んで欲しいの。」
そう言ってカウンター席へ戻って行った。
もう一度栞のようなショップカードに目を戻す、この女性は図書館のようなものを運営しているらしかった。
絵本ばかりの図書館かぁ…。
全然イメージがわかないけど行かない訳にはいかない。
明日この町を出る前に図書館に寄ることに決めた。
そのまま朝食を食べていると、ガラガラガラと宿の方に繋がる戸が開いた。
(……!!!?! また、あの人!!!)
男性ふたり組が揃ってカフェラウンジに入ってきた、例の髭の男性と坊主に丸メガネの男性だ。
また会ってしまった…。
まぁ、そりゃ同じ宿に泊まっていたら会うこともあるだろう、そう思いながら様子を伺っていると、戸の近くのカウンター席に座っていた先ほどの図書館の女性と3人で何やら話をしている。
丸メガネの方がお腹の調子が悪いみたいで、図書館の女性が症状を聞いている。
図書館の女性は体を診る先生か何かなのだろうか?
髭の男性が丸メガネの男性の症状をより詳しく説明してあげている。
でも、いわゆる体の症状ではなくて、抽象的な表現で丸メガネの男性に起こっている心の状態や感覚を一緒に説明してあげている感じだった。
なんだ?この人たち…。
不思議に思っているうちに話題が変わり、男性ふたりは図書館を見てみたかったらしい。
それじゃあ今日お休みなんだけど少し開けてあげるから一緒にこの後車に乗っていきなよ〜!と図書館の女性の提案で3人はこの後、図書館に向かうことになったみたいだった。
なんだこの男性たち、このゲストハウスに関連する人全員と知り合いなのか?
誰とでも自然と話を弾ませながら、柔らかい雰囲気で事をふわんふわんと運んでいる感じがあった。
すごいなぁ、私もついでに図書館に連れて行ってもらいたいと思ったけど、それを言い出す勇気なんて無いし、一緒に行ったとしても気まずいだけだろう…そんなことを思いながら朝食を終えた。
カフェラウンジを静かに出て、昨日教えてもらったスーパーで行なわれているマルシェに向かうことにした。
スーパーは歩くには少し遠い距離だったのでバスで向かうことにした。
バス停から降りて、少し歩くと田舎町にしては大きめの商業施設の中にあった。
一階のフリースペースにお目当てのカレースタンドがあった。
そこに昨日のオーナーの男性がいて、挨拶をかるくした。
他にもいくつかブースで食事が販売されていて、タロット占いなんかもあった。
なんとなくタロット占いをしてもらって、反物屋さんで売れ残っていた反物を2000円で購入した。
カレーを食べようかと思ったけど、囲いの無い商業施設内のフリースペースに会議テーブルとパイプ椅子がちょっと並んでいるだけで落ち着かなさそう…せっかくのひとり旅だしもう少しゆっくり食事をとりたいと、昨日教えて貰ったとなり町のカレー屋さんに行くことにした。
帰りはバスが無かったのでスーパーから20〜30分歩かねばならない、炎天下でヘトヘトになりながらも無事駅に着いた。
ひと駅隣といっても、都会とは違い駅の区間が長い、6〜7分ほど電車に揺られて隣町に到着した。
ここはちょっとした観光地のようで、綺麗に整理された街並みにカフェやお土産屋さんが並んでいた。
フルーツジューススタンドで冷たいキウイジュースを飲み、お土産屋さんをぶらぶら見ながら歩いていると、お目当てのカレー屋さんを見つけた。
お店を入った小さなスペースにセンスの良い雑貨や洋服がディスプレイされている、CDもいくつか並んでいたけど、どれも見たことのないものばかり…民族音楽のようだった。
店内でもその民族音楽が流れていて、初めて聞くけれど不思議と心が落ち着いた。
実はあのお店でCDを買っておけばよかったと後で後悔するほどにお店で流れていた曲が私にはしっくり来たのだった。
インドカレーのお店で、あいがけカレーを頼んだ。インドを感じさせる可愛い小さな店内、雑貨もセンスが良くて音楽もマッチしている、しかも、カレーはこれまで食べたどのカレーよりも美味しかった。
お腹も気持ちも満たされて、店内を出た瞬間、
「あぁっ!!〇〇(ゲストハウスの名前)の!」
店内から呼び止める声がした。
振り向くとそこには、
あっ!と口を開けて驚いた顔の、あの髭の男性がいた。
(!?!?!?)
坊主の丸メガネの男性と、初日に浴衣だった女性と3人でカレーを食べていたようだった。