みんな思い込みの中で生きている
働いてる入居型高齢者福祉施設で、男性利用者さんをトイレ誘導した際、利用者さんが突然こんなことを言った。
「先生…。私は明日の15時までの命。夕方には命が尽きます。死刑が執行されます…。でも私は日本の為に働いた! 悔いはありません!」
シャツの袖で涙を拭いながら、そう語っていた。ちなみに便器に座って排便しながら。
一瞬吹き出しそうになったけど、その人は本気なので「何故、死刑にされないといけないのですか?」と聞いてみた。「それは…。それは言えません!」と言って言葉に詰まって泣いていた。この方はたまに自分は捕虜として収容されていると思っている節があったが、完全に現実とは違う思い込みの世界に居るんだと思った。
だけどこれは決して認知症だからではなく、私たちみんなが自分の思い込みで生きているということが極端に現れてるだけなんだと思った。認知症だろうがなかろうが、きっとみんな思い込みという認知の中で生きている。良くも悪くも自分が思った世界を無意識に選んでる。
私自身も最近こんなことがあった。7月15日に行われた投げ銭マルシェに参加した際、翔太朗さんという方のお試し整体を受けた。最近少し腰が痛かったことを伝え、どうも左半身の骨盤から下に支障が出やすいこと、去年段差を踏み外して左足靭帯を損傷したことを伝えた。その日も左足にサポーターをつけていた。
整体をして身体を診てもらうと、何と左足小指が動いてないことが腰痛につながっていると教えてくれて、左足をいろいろ動かしてくれるだけで身体がスッキリした。まさか足の小指が原因とは! とにかく翔太朗さんの言葉が素敵だったので忘れない内に書きたい。
「左足の小指がまったく動いてないし、左足の小指の存在を無視されて、この子(小指)が寂しがっている。この小指を愛でて意識を送ってあげるだけで変わってくる。そして歩き方は、人と出会うように踏み込み、人と別れるように別れ際を潔く美しく。足の裏を見せつけるように」
小指を愛でることと、歩き方の別れ際を潔く美しくという部分にグッときた。自分にとって大きな存在になった人に対して私は執着心が強い。別れ際を潔く美しくできずにいたことが多かったのでドキっとした。歩き方に自分の性分も出てしまうのか。
左足の靭帯損傷の前に骨折もあったみたいだし、左足首らへんが弱くなっている気がする。介護の仕事をする際に転びやすいと利用者さんの安全も守れない。介護の仕事は左足に重心をかけることも多いし、重心かけたり重いものを持つと患部がヒワヒワして違和感がある。「また転んだら?」そんな不安でサポーターを手放せなくなっていた。
「サポーターしてるとずっと小指が動かないままだし、外していいと思いますよ。小指って、あんまり役に立ってないように思うかも知れないけど違うんです。ヤクザが小指詰めたりするでしょう? アレはね、小指詰めると力が入らないんです。ヤクザはそれを知ってるんです。」
私はまた転びたくないという不安からサポーターを外せなくなっていたし、この足にはずっとサポーターしないと周りにも迷惑がかかると思い込んでいた。そして足を言い訳に、本当は目を向けないといけない何かから逃げてた気がする。「足がコレだからできない」という盾を使って、本心を濁すようなことしてたよね? って自分に思った。足がどうだとか関係なく、やりたくないことはやらない! でいいのに、いい人ぶってたな。私は。
他にも、最近たまたま見た動画で目から鱗が出るような言葉を聞いた。
たたみかけるように「罪悪感とは、自分をいい人間だと思い込みたい【やましさ】【都合の良さ】。誰かに対する気持ちのようで、結局は自分のことしか考えてない状態」と解説されていて「ギャーッ!!!」ってなった。
若い頃の私は罪悪感まみれだった。罪悪感と「私は悪くない!」という感情の振り子で揺れまくっていて、結局はいつも自分のことしか考えてなかったのか! という現実を突きつけられた気がした。
「私が悪いんだ…」と自分を責めて落ち込んでドロドロに暗かった私の時間は一体何だったんだ…。それだけ自分が可愛かったってことなんだろうけど、恥ずかしいしもったいない!
サポーターを手放せないと思っていた私、罪悪感を感じることで周りに申し訳無さを伝えようとしてた私(どっかで自分は悪くないとも思ってる)、そんな私が明日死刑執行されると信じて泣いている利用者さんを笑えるだろうか。
トイレで排便を済ませてからリビングに誘導し、コーヒーとおやつを目の前にした利用者さんは、その頃にはすっかり死刑執行のことは忘れて「コーヒーがぬるい!!」と怒ってた。ぬるく出したのは、その方がよく飲み物をこぼすから火傷しないようにする為の配慮だとは知らずに。
文中に出てきた翔太朗さんの整体。
舞踏家でもある翔太朗さんの整体はしなやかで痛みがありません。身体の状態に対する言語化が美しくて詩的。
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