【読書】人生は痛いものだとしつこくしつこくしつこくしつこくしつこくしつこく
しつこくしつこくしつこくしつこく語りかける、花村萬月の「ハイドロサルファイト・コンク」を読んだぞ!
「なんでこの作品への賛否で世間は荒れ狂っていないんだ!」と思いながら読んだ。
血液のがんになった作者の体験をもとにした、フィクションと一応銘打った、ノンフィクションに見える小説。
もともとの血液に放射線をあびせて殺し、ほかの人の血液を輸血して入れ替える治療で、血液型が変わり、顔かたちが変わり、爪が新しく生えてくるなど、自分の内側からもうひとりが出てくるような体験をする。
終わりのない痛み、かゆみ、無菌室の孤独。
スプラッタ映画のように血と苦痛が文字を介して読者の脳内に送り込まれる。
「幸運にも現在ご健康なみなさん、目を背けているかもしれませんが老後って、死ってこんなにつらいんだよ、痛いんだよー」
という宣告だ。
さらに闘病記と別に「トラウマと多重人格」の話も同時進行する。
作者は入院のときにベッドの並んだ病室を見て、子供のころ送り込まれた宗教系の施設を連想する。
白人の神父に「しつけ」とはいいがたい暴力を振るわれた場所。
花村萬月のエッセイでは、暴力、薬物、楽器、バイク、やりたい放題の生活がつづられる。ここではあまり触れられなかった「それ以前」が語られる。
著者をモデルにした主人公がやたらモテたり、キレかたが普通じゃない感じはしてたが、その観察力と暴力性がどこから来ていたのかのルーツがわかる。
死に近づいて出生が明かされる。自分が死ぬかもしれない病室のベッドが並ぶ部屋から、子供のころ入れられた寮を連想して、この本自体がハイスピード走馬灯みたいにぶわあああっと回りだす。
本の内容を問われたら
「主人公が娘の愛で難病をのりきる話」という、
よくある筋書きになるんだけど、そんな簡単にまとめられない。
血液を入れ替えて免疫力がゼロになった作者に、体内からウイルスがいっせいに攻撃して、色黒の顔の内側から白いもうひとりが出ようとしてるみたいな姿になり、気分は落ち、白内障で視力を失い(でも片目で執筆をつづけ)、これだけ強く鈍感な人が「痛い」だけで壊れていく様子が書かれている。
書店で「お年寄りニッコニコ」の棚あるじゃないですか。「80歳。今がいちばん楽しい」みたいな笑顔のお年寄りが表紙のやつ。
自分の人生も「あのルート」に分岐すると思いたいのに。多くの人の人生は「痛いルート」に入っていく。
ただ、最後でおもわぬ展開がまっている。
当人にとっては笑いごとではないんだけど、自分は吹き出した。えっ何、最後にきてその話!ってなりました。終わりまで痛みとともに駆け抜けよう。