お粥やの物語 第1章3-1 「住み慣れた社宅は、別れを告げた彼女のように冷たくて」
謙太の頭の中で、途切れがちな映像が現われては消えていく。
黒い海の底から出現したような記憶はどれも悲しいものばかりで、目頭が熱くなる。
さかのぼること一時間前、会社から帰宅して目にしたその光景はあまりにも衝撃的だった。いまでも網膜にくっきりと焼き付いている。
もしかしたら、一生消えないかもしれない。それほどのインパクトがあった。
新卒で採用されてからの三年半、ずっと住み続けたワンルームの社宅は、僕の暮らした痕跡を、強力な洗剤で洗い流すように整然と片付けられていた。
備え付