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お粥やの物語 「謙太の出会い」

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理不尽な理由で会社をクビになった謙太と、お粥やとの出会いを描いたお話です。
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記事一覧

お粥やの物語 第1章1-1  「僕が、主人公でもいいですか」

僕の名前は、並木謙太。社会人四年目の二十六歳だ。 これから始まる物語の主人公である、と胸…

ユカ夫
1年前
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お粥やの物語 第1章1-2 「溜息をするたび、幸せは減るんですか」

  「あの、オジさん、ママに叱られて家を追い出されたの?」 若い母親に手を引かれて歩く、…

ユカ夫
1年前
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お粥やの物語 第1章2-1 「夜の営業は五時半からです」

夕方の五時半になる三分前、いつものように店の前に暖簾を掲げる。 濃い紺色の布に、白字で書…

ユカ夫
1年前
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お粥やの物語 第1章2-2 「常連客の神山さんは一見おだやかそうです」

カラカラと乾いた音を響かせながら引戸が開き、パナマ帽を被った初老の男が入って来た。 「今…

ユカ夫
1年前
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お粥やの物語 第1章2-3 「常連客の神河さんは見るからに短気です」

入口の引戸が盛大な音を響かせて開いた。 その音は、商店街の抽選会で回るガラガラのように威…

ユカ夫
1年前
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お粥やの物語番外編 第1章2-4 謙太の呟きと、神さんたちの内緒話

【賢者の言葉】 「人生には二通りの生き方しかない。 ひとつは、奇跡などなにも起こらないと思…

ユカ夫
1年前
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お粥やの物語 第1章3-1 「住み慣れた社宅は、別れを告げた彼女のように冷たくて」

謙太の頭の中で、途切れがちな映像が現われては消えていく。 黒い海の底から出現したような記憶はどれも悲しいものばかりで、目頭が熱くなる。 さかのぼること一時間前、会社から帰宅して目にしたその光景はあまりにも衝撃的だった。いまでも網膜にくっきりと焼き付いている。 もしかしたら、一生消えないかもしれない。それほどのインパクトがあった。 新卒で採用されてからの三年半、ずっと住み続けたワンルームの社宅は、僕の暮らした痕跡を、強力な洗剤で洗い流すように整然と片付けられていた。 備え付

お粥やの物語 第1章3-2 「祖父の想い出は消えることなく」

僕は梅雨明けの夜空を仰ぎ見て、自分に言い聞かせるように小さく呟いた。 「逆境のときこそ前…

ユカ夫
1年前
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お粥やの物語 第1章3-3 「笑うと、幸せになれますか」

『私の靴が見つからないの……』 さっきと同じ女の人の声だ。 声に滲んでいる悲しさは濃くな…

ユカ夫
1年前
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お粥やの物語番外編 第1章3-4 謙太の呟きと、神さんたちの内緒話

【賢者の言葉】 「幸福だから笑うのではない、笑うから幸福なのだ」 アラン「幸福論」より …

ユカ夫
1年前
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お粥やの物語 第1章4-1 「殺意を帯びた目つきで僕を睨んでいる美少女は、幻覚ですか…

「起きなさいよ」 細いながらも鋭い女の声に、僕は瞼を持ち上げた。 ランプの灯りが左右に揺れ…

ユカ夫
1年前
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お粥やの物語 第1章4-2 「初夏なのに、夜の雨はとても冷たくて」

頬にポツンと、冷たいものが当たった。 瞼を開けると、薄汚れた少女の姿は消えていた。 夜の…

ユカ夫
1年前
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お粥やの物語番外編 第1章4-3 謙太の呟きと神さんたちの内緒話

【賢者の言葉】 「恐れは逃げると倍になるが、立ち向かえば半分になる」 ウィンストン・チャ…

ユカ夫
1年前
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お粥やの物語 第1章5-1 「信じるモノが見つからない僕は、強くなれませんか」

『私の靴を探してよ……』 雨の間をすり抜けるようにして聞こえてきた少女の声に、僕の心臓は波打った。最初に耳にしたときより、少女の声が横柄に聞こえたのは気のせいだろうか。 強張った首を強引に動かしたが、やはりと言うように、辺りに人影はない。 空耳という一言で片づけるには、少女の声はあまりにもリアルだ。少し前に目にした馬小屋の映像も網膜に残っている。 霊に取り憑かれ、呪われたのかもしれない……。 そう考えると、凍ったアイスを背中に突っ込まれたように、急速に背筋が冷たくなっ