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お粥やの物語番外編 第1章2-4 謙太の呟きと、神さんたちの内緒話

【賢者の言葉】
「人生には二通りの生き方しかない。
ひとつは、奇跡などなにも起こらないと思っていきること。
もうひとつは、あらゆるものが奇跡だと思っていきること」

アルベルト・アインシュタイン


【謙太の呟き】
奇跡は信じます。信じたいです。
でも、すべてが奇跡だと思うには、路頭に迷ういまの状況は酷すぎます。
目の前に、綺麗な女性が現われて、「よろしければ私の家に来ませんか」と手を差し伸べてくれたら、それは奇跡以外の何ものでもありませんが……。

【神さんたちの内緒話】
「奇跡なんていくらでも転がっているだろう」
「その最たるものは、この世界に生まれて来たことですね」
「そうそう、何か一つでも違っていたら、生まれて来なかったんだからな。それを忘れて、綺麗な女の人に優しくされたいなんて、愚かな奴だ。こいつ、役に立たないんじゃないか」
「まあ、そう結論を急がずに」
「奇跡に気付けないなら、自分で奇跡を起こしてみろ、と尻を叩いてやりたいよ」

「河さんは、最近、どんな奇跡がありましたか」
「道を歩いているときに、若い女の子から『大丈夫ですか』と優しく声を掛けられた」
「また、具合が悪い振りをして気を引いたんでしょ」
「少し立ち眩みがして、そこにたまたま可憐な女の子が通り掛かっただけだ」
「たまたまじゃないですよね」
「まあな。俺は奇跡を起こすのが得意だから」
「一つ間違えば女の子に大声を上げられていましたよ」
「俺は痴漢じゃないぞ。変態でもない」

「似たようなものでしょ。少なくとも、そんな人に、『綺麗な女性に手を差し伸べられたい』と願う彼を、頭ごなしに否定する権利はありません。二人は似た者同士ですね」
「似ているかな……」

首を傾げて考え込む河さんの姿は、物思いに耽る哲学者のようだった。

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