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ミシュラン三ツ星のお店「山田屋」にて、高級なふぐに舌鼓を打つ
せっかく旅行にいくなら、「そこでしか食べられないグルメ」を現地で食べたい。
けれど、私はご当地グルメに詳しくない。その地域の「ご当地グルメ」は一体何なのか、わざわざ調べるのも面倒だと思っている。おそらく一人旅なら、ろくに調べもせずに「行き当たりばったり」で、お店を回っていたことだろう。
その一方で、夫は旅行とグルメが大好き。好きなことのためには、リサーチにも力が入る。どのお店、ホテルが安いのか。
ここでしか食べられないお店とは。満足度の高いお店・ホテルは一体どこにあるのか。旅行に行くたびに、インターネットを駆使してリサーチを欠かさない。
そんな夫から、5泊6日の九州旅行(福岡〜大分)前に、「大分に行くなら、ミシュランにも選ばれた『山田屋』に行かないか?」と誘われた。
夫によると、山田屋とはミシュラン三ツ星を9年連続で獲得している人気ふぐ店とのことらしい。
私はグルメにそう詳しくないので、そもそもミシュランが一体何なのかすらわからない。
ミシュランに選ばれたお店の、一体何がすごいのか。知りたい。そこでライターである私は、「ミシュランの意味・定義」についてGoogleに尋ねてみることにした。
↑詳しい内容については「公式サイト」のよくある質問をチェック。
公式サイトで情報を調べてみたところ、どうやらミシュランとは「インスペクターの厳選したレストランに与えられる栄誉」のことらしい。
公式サイトによると、ミシュランの星はレストランで提供される料理だけがあくまで評価対象であり、サービス・テーブルアート・レストランの雰囲気などは考慮されないとのこと。
つまり、ミシュランに選ばれたお店に行けば「絶対に美味しい料理が食べられる」ということである。
ミシュランのレベルは、それぞれ「星」の数で評価される。星の定義については、公式サイトの「よくある質問」欄にて説明があった。
ミシュランの星の定義については、主に以下のとおりである。
星の定義
一つ星: 近くに訪れたら行く価値のある優れた料理。
二つ星: 遠回りしてでも訪れる価値のある素晴らしい料理。
三つ星: そのために旅行する価値のある卓越した料理
山田屋は、ミシュラン三ツ星のお店である。「お店に行くために、旅行する価値のある卓越した料理が食べられる」という評価を9年連続獲得しているお店ということは、きっと「とんでもなく美味しいふぐ」が食べられるに違いない。
ミシュランのことを知り、ますます山田屋についてもっと知りたくなった。
そこで私は、山田屋について公式サイトでお店の情報をチェックすることに。ホームページによると、お店は大分県に本店のある有名なふぐ料理店とのこと。
山田屋は明治38年(1905年)、初代店主とある山田浅吉・トラ夫婦によって創業。その後、二代目・三代目と受け継がれ、今に至っているのだそう。
お店は本店のほか大分都町店、東京西麻布店、東京丸の内店にあるが、公式サイトによると西麻布店は現在休業中らしい。
どうやら移転・営業再開日も未定とのこと。
西麻布店 休業のお知らせ
平素より、山田屋をご利用いだだきまして誠にありがとうございます。誠に勝手ながら、2024年2月29日を持ちまして当面の間、休業させていただくことになりました。
皆様にはご迷惑をおかけしますこと心よりお詫び申し上げます。なお、移転・営業再開は未定となっております。
東京の方は、西麻布店が再開するまで丸の内店に行くと良さそう。
なお、お店のリサーチが得意な夫情報によると、東京にある西麻布店・丸の内店と本店(大分)では料金にも違いがあるらしい。
本店
ふぐコース
全6品 14,520円コース(税サ込)
【前菜、ふぐ刺し、から揚げ、ふぐちり、雑炊、甘味】
東京丸の内店
ふぐコース
全6品 26,620円(税サ込)
【先付、ふぐ刺し、から揚げ、ふぐちり、雑炊、甘味】
同じメニューなのに、本店と東京では1万円以上も料金が違うことに驚く。そして「お得情報」に詳しい夫、この部分を何度も力説する。
「東京で食べると、同じ料理でも1万円以上高いんだって!大分に行ったら、ふぐがお得に食べられるんだって!だから、絶対に大分に行ったら山田屋本店でふぐを食べた方が絶対にいい!」
お得かどうかに関してば、その場所にいくまでの「交通費」も本来なら考慮されるはず。私たちが住む場所は愛知なので、交通手段も踏まえると東京のお店の方がもしかしたらお得なのかもしれない。
けれど、その法則を考えなくてもいいのが「旅」の醍醐味ではないだろうか。お店のために、大分へ行くのではなく。旅のついでに、お店へ行くのだ。旅のついでだから、ふぐ料理以外にも温泉に入ったり、他の観光地も堪能すれば旅行気分も楽しめて一石二鳥。
そのスタンスで行けば、交通費のことはそこまで考えなくても問題なさそう。私たちは「ふぐ」のために、大分に行くんじゃない。観光のために大分へ行くのだ。そう。ふぐは、あくまで「寄り道」感覚で行くのである。
交通費のことは、一旦忘れよう。私の中のぺこぱが、そっと呟く。
そもそも、交通費以上に夫がふぐを食べたそうだ。夫の熱意に負けて「うん。そこまで言うなら、ふぐを食べに行こう」となった。
◇
山田屋へ向かう道は、ほぼ山道だった。私たちはレンタカーを借りて、辺り一面を見渡せる山道をぐんぐん走る。
「テンションを上げるために、globeを聞こうか」
夫がノリノリで私に声をかける。ふぐとglobe。ふぐと小室ファミリー。一体、何の因果関係があるのか。
その点については「山田屋 globe」で検索して欲しい。実は山田屋、有名なアーティストの実家が営んでいることでも有名である。
YouTubeで検索すると、松浦勝人さんも訪れている。
夫がglobeの曲「DEPARTURES」を、YouTubeから選択する。音楽につられて、夫がやや濁声で「どこまでもぉ~」と歌い始める。
歌詞の内容は「雪が降り積もる」というものだが、残念ながらまだ11月後半の大分。雪はない。けれど外は寒いので、歌詞が心に沁みる。それにしてもKEIKOさん、元気だろうか。良く通るハリのある歌声、好きだったなぁ。
「どこまでもぉ~降り積もるぅ~」と、globeの歌が最高に盛り上がったところで、電波が突然プツンと切れて音楽が鳴り止む。同時にカーナビが「GPSを、見失いました」と淡々とした口調で語り始める。
カーナビが動かなくなり「どうしよう!目的地を見失ったんだけど!どうやってお店に行けばええんや!」と、夫が狼狽え始める。
とりあえず目の前には、トンネルがある。一本道なので、とりあえず目の前の道を突き進む。どこへ行けばいいかわからないからこそ、目の前の道をがむしゃらに突き進む。まるで人生みたいだ。
◇
お店に辿り着く。玄関から、老舗のふぐ料理店ならではの高級な雰囲気が伝わる。
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「せっかくだから、お店の前で写真を撮ってもらおうよ!」
夫は意気揚々とした表情で、そう言った。正直「お店の前で、記念撮影してもいいのだろうか?」と、私は一瞬躊躇する。
私が狼狽えていた矢先に、夫はお店の前にいたスタッフの方に声をかけ、「写真撮ってもらってもいいですか?」と、交渉していた。
スタッフの方は笑顔で「いいですよ」と答え、慣れた手つきで写真撮影をし始める。おそらく、他の観光客からも記念撮影をお願いされることがあるのだろう。
私たちは、店の前で記念撮影をする。きっと普段からこういったお店に行く人は、お店の前で記念撮影とかしないで、黙って暖簾をくぐるんだろうなぁ……。ここで写真を撮る私たちは、きっと根っからの庶民なのだろう。
お店に入るなり、広々としたお部屋に通される。
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高級そうな絵画と、壺の並ぶお部屋に圧倒されつつも料理が届くのを静かに待つことにした。
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◇
お料理はすでにコースを注文していたので、あとは飲み物を注文するくらい。夫は車を運転しているため、私のみ「かぼす酎ハイ」を注文した。
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かぼす酎ハイはすっきりした喉越しで、ふぐや他の料理との相性も良いと感じる。
料理のふぐは厚みがあり、口に入れるとふわっと旨味が広がる。
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ふぐって、こんなにジューシーなんだ。あまりのおいしさに、舌を鳴らす。
思い起こせば、結婚してから一度もふぐを食べたことがない。実家で食べていたふぐは、スーパーのお惣菜コーナーで手に入れたものばかり。スーパーのふぐも美味しかったけれども、山田屋のふぐは「厚み」が違った。
厚切りのふぐを、ポン酢につけて食べるとコリっとした食感が楽しめる。味はあっさりしているので、量が多くても胃にもたれることなく食べ進められた。カボスをポン酢に入れると、酸味が効いてより一層美味しい。
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夫は一口食べるなり、「この一口が数百~千円するかもしれんのや!」と、その都度価格を計算していた。味わうよりも、1枚あたりの料金が気になるタイプなのだろう。
4歳の娘には「お子さまセット」を注文した。お子さまセットにはエビフライ、ハンバーグ、うどんなどが入っており、とても美味しそう。
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子ども用メニューもあるので、子連れでも楽しめそうと感じた。
ふぐの他にも、から揚げや水炊き、雑炊、デザートなどを楽しめて、どれも非常に美味しかった。ふぐのから揚げは、外はサクサク・中の身はふわふわ。
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水炊きも、お肉がぷりぷりしていたし、デザートのゼリーもすっきりした後味で食後にちょうどいい味だった。
お店は別府にあるホテルから遠かったけれども、頑張って足を運んだ甲斐があると感じるほど、とても美味しかった。
味だけではなく、お店の方のサービスも充実していて「来て良かった」と改めて思う。なるほど。これがミシュランのお店か、と。
ミシュランの「ふぐの味」を、舌に記憶してしまった。私はこれから先、他のふぐを食べて満足できるのだろうか。
贅沢を知ると、ひとつハードルが上がる。一度上がったハードルは、なかなか下げることが難しい。人によって「生活レベルを上げるな」と言う人がいるのも、そういった理由があるからだろう。
けれど、そのハードルを恐れていては、いつまで経っても世界が広がらない。あなたは、世界を広げるのか。それとも、ハードルが低いまま人生を終えた方がいいのか。そして私は、どちらを選んだ方が「幸せ」でいられるのか……。
なにはともあれ、私は至高のふぐを知ってしまった。これから先、出会うふぐに対して妥協ができるのか。それとも……。
一抹の不安を抱えつつも、食べ過ぎて膨らんだお腹をさすりながら、私たちはホテルへと戻るために車へ戻る。
ホテルへ戻る最中、夫が「ふぐ美味しかったなぁ〜!ふぐの余韻に浸るために、globeの曲をかけよう」と提案する。どうやら夫の中では、既にふぐ=globeになっているらしい。
娘は食べ疲れたのか、車の中でぐっすり眠っていた。娘が爆睡の中、マークパンサーの「want! you! wanna Be A Dreammaker!」という力強いシャウトが、車内に響き渡る。
【完】
⭐︎この記事を書いた人
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