Book Review|スマホ片手に、しんどい夜に。
大丈夫、大丈夫。いや、ほんとに。
大人たるもの、自分の機嫌は自分でとらなきゃね!
・・・いや、本当に大丈夫だって!
もっと大変なこと、よくあるから。
今日は全然楽勝だったわ~!
そうやって笑顔振りまいて。
今日も一日、何とか無事におつかれさま。
――この本を手に取ってほしいのは、そんな人。
2024年の1冊目に選んだのは「スマホ片手に、しんどい夜に。」。X(旧Twitter)で80万人超のフォロワーを誇る、通称「シャープさん」による書籍です。
大変さとやりがいと。そんな間にある日常。
白か黒かでは割り切れないこの世界を理解できてしまうからこそ、グレーの海を揺蕩い続ける。それは大人の健全であると同時に、限りなく黒に近くても、それに黒ではなく「グレー」というラベルを貼ってしまう不健康さも持ち合わせている気がします。本当は「しんどい」のに、手を差し伸べようとしてくれたあの人に心から「大丈夫」の笑顔を向けてしまう、あの瞬間のように。
Xでもこの本でも、私たちに届くシャープさんの声は、耳を澄ませないと聞こえません。
訥々と、まさに私にしか聞こえないような声量で。ある時は、日常生活をやりくりする主婦に。ある時は、子どもだったあの頃の誰かに。ある時は、明日を生きる光を見出せない人に。マンガサイトに投稿されるマンガのほんのひとかけらを、あたたかな毒が時に見え隠れするシャープさんのコラムが包み込んで、一つずつ差し出されます。いや、差し出されるのとも違うな。日常生活というメインストリートの脇、私たちがふだん気に留めることもなかったけれどふと目をやると気づくその場所に、一杯のお茶とともにそっと置いてある、とでもいいましょうか。
私は心配されるほど疲れてもいないし、そこまでうんざりしてもいない。けれど、この本をめくると、そこかしこに小さくしんどい自分が見つかる。誰に向けて書いているか分からないようで、全部「私」に書かれているのです。
ささくれの存在を声高に教えてくれるわけではないけれど、だからといって見ないふりをするわけでもない。私事をあえて他人事のように代弁してくれるシャープさんのおかげで、人目を忍んでそっと薬を塗ることができる気がします。
目を合わせない優しさ。「言わないこと」を選びつくして残った優しさ。そんなシャープさんの言葉は、本棚ではなく、寝室のサイドテーブルに。そしてぜひ、紙の本で。グレーの海を揺蕩い泳ぎ切った一日の終わりくらい、真っ白なページを行きつ戻りつしながら、優しさの海に身を任せていいはずだから。
\Thank you/
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たくさん読むより、じっくりと。 今すぐ役に立つことより、じんわり効いてくる言葉を。 ライター・矢島美穂がゆっくり楽しんだ本をレビューします。