思いやりと多様性と人生と(寄り添うことについて)~『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー①②』読後感
刊行された2019年からずっと気になっていたものの、文庫化を待ちながら、実際にようやく購入して読んだのは5年後の2024年。
今年の7~8月に行く先々へ持ち歩き、少しずつ読み進めた。ちょうど歯を抜いた時期だったため病院の待ち合い室や薬局でもずっと寄り添い傍にいてくれて、不安で緊張していた私の気分転換に大いに貢献してくれた本。
2冊目は鞄の隙間から雨が入って濡れてしまい、帯がぐにゃぐにゃになって表紙とくっついている。それが余計に愛着となった特別な本。
そして、ずっと感想を書こう書こうと思っていながら先延ばしになり、やっと思考を整理し始めたところだ。
「イギリス」は海外かぶれ日本人の私にとって憧れの国の1つで、初めての一人旅も含め2回行ったこともあるけれど、正直よくわからない国だ。
実際に訪れる前の、ドラマや映画で見た「イギリス」のイメージは、お上品でおしゃれで、伝統を大切にし、みんな紅茶を飲んでいて、男性は全員紳士、のような感じ。笑
約20年前の様子だが、自分の目で見に行ってみると、(もちろんエリアによるが)タトゥーを入れた人がかなり多く、ガラの悪い酔っぱらいもたくさんいて、ちょっとビビる。(のんびり平和だったアイルランドから、船でリヴァプールに移動し、港を出た時の第一印象を鮮明に覚えている)
人を観察していると、物凄くおしゃべりな人が多いイメージ。そして、英語の話し方にとても多様性があり、ロンドンでも人によっては分かりづらいし、北部の方や地方に行くと全然聞き取れないこともあった。
一部の海外の方が日本に対して抱いている昔ながらの日本のイメージは、現実には今ではほぼ存在せず、やはりドラマや映画の世界にのみ生きているのと同様に、私が持っていたイギリスへのイメージもメディア等によって分かりやすいステレオタイプとして作られたものであり、その根幹にスピリットとしては残存してはいるものの、目に見える分かりやすい形では確認することが出来ないのは同じことであるなと分かった。
「THEイギリス」な世界観は観光地では目撃し、体験することが出来たことも興味深い経験だった。世界各地で似たようなことが起きており、お互いに異文化に対して持つイメージと実際とのギャップ、そしてそのギャップを埋めるための観光地の努力はどこへ行っても同じであるなと感じる。
そして、それを見に行くのは楽しいし、結局、百聞は一見に如かずだから、私はいつまでも旅をやめられない。
また、世界のどこへ行っても思わず観察してしまう社会構造というものに漠然とした興味がある。同じ国、地域と言えどもそれぞれに多様な人々の生き様がある。それを見るのが好きだ。
文化の中のどの側面に触れたかによるが、私を含め、多くの外国人たちが持つ「イギリス」のイメージは、いわゆる昔の上流階級の文化であると思うけれど、それ以外の庶民、普通の人々の暮らしは海の向こうにはなかなか伝わって来ない。
19歳で一人旅を始めてから、私がいつも夢中になって探しているものは、その普通の人々の暮らしなのだ。
そのため、基本的にツアーなどには参加せず、自分で公共交通機関を利用したり、徒歩で移動する。バスや電車、ガイドブックに載っていない無名のカフェやレストラン、そして地元のスーパーマーケットは贅沢な人間観察、暮らしを知るための場であるのだ。
ただ、行きずりの旅行者が目撃できる現地の日常というものはとても限られている。表面的なものは見えていても、彼らの背景やマインドまではわからない。
この本ではそのような、作者のブレイディみかこさんの言葉をお借りすると元底辺中学校の日常という、観光客が観察できる表層を越えたイギリス社会のリアルを覗き見することができる。
そのような好奇心で読み始めたシリーズであったが、いつしか更にもっと深い部分に引きずり込まれていくのを感じた。それは、思いやりである。
社会構造は確かに存在する。イギリスの一般庶民の視点から、深い考察とともに生活、経済、政治、労働、貧困そして社会の分断が描かれており、時には重いテーマもありつつも、後味が苦くなりすぎないようなユーモアも絶妙に入り交えながら語られる内容にどんどん読み手は惹き付けられていく。
こうして異国の普通の人々の暮らしや価値観、人生を知ることは確かに面白いが、好奇心のその先に感じたのは、他者を知ること、他者を理解すること、寄り添うことの大切さだ。
1冊目の本では「エンパシー」という言葉で、2冊目では「社会を信じる」こととして、大きなテーマとして伝えられている。
多様性を認める、などと書くとありふれすぎていて陳腐にも見えるが、自分とは色んな意味で違っている人のことを知ろうとし、それを理解して、相手の立場に立って考え想像してみること、それが世の中、時代を変化させるし、もちろん個人の人生も変えていく。
違っているから攻撃、分断とならず、違いは違い、だけれども、お互いに思いやりを持ちながら寄り添えたら豊かな関係性になるのではないか。
寄り添いはお節介ともまた異なる。相手を自分の価値観で変えようとするのは単なるエゴ(お節介)であるが、本人の内側を認めて信じ、優劣なく対等に尊重しながら温かい目で見ながら一緒にいることが、執着なく寄り添う姿勢なのではとも思う。
大人はもちろんのこと、感性がみずみずしい中高生のうちにこの本を読むことをオススメしたいな、と夏の読書感想文の時期にこの文を書きたかったが、私がグズグズしていてすっかり秋になってしまった。読書の秋のお供にするのもまた良いかもしれない。