By doingの訳し方~格助詞「より」など

 〈do(ing) A by doing B〉はよく英文で見かけます。ビジネス翻訳ではとくに頻出します。そこで、こんな小見出しの例を作ってみました。

Gaining competitive advantage by being more knowledgeable

 「知ることにより競争力増加」といった風に訳されていることが多いのですが、わたしは数か所手を入れたくなります。1つ目は「より」です。

格助詞「より」は多義

 by doingを「~することにより」と訳す人はかなり多いのですが、わたしはそれを勧めません。なぜでしょう。
 日本語の「~より」という格助詞には多くの意味があります。

より
1 比較の基準を表す
2 動作・作用の場所・時間の起点を表す
3 境界を表す
4 限定を表す(否定表現といっしょに)
5 強調を表す(疑問詞+より)

『すぐに使える実践日本語シリーズ ことばをつなぐ助詞』

 読み手は読んだ瞬間に「この『より』は5つのうちどれだろう?」と考えなければなりません。読み手にとって、その分負荷がかかっています。しかし「わかりやすい文章』をめざす場合、読み手の負担は最小限にするべきです。そこで、「より」を使わない訳文にします。

Gaining competitive advantage by being more knowledgeable
知ることによって競争力増加
 
 
「より」にくらべて、「よって」の方が意味が狭いのでこちらの方がよいですね。「よって」は本来文と文とをつなぐ接続詞ですが、このように格助詞「に」にプラスして使われることもあります。

「増加」と「増大」の違い

 この文章にはもうひとつ直したい箇所があります。タイトルにも書いた「増加」ですね。

【増加】
数量が増える意で、会話にも文章にも使われる漢語。〈面積が――する〉〈予算が――する〉〈定員の――〉に踏み切る
✒「喜び」や「苦しみ」のような抽象的なものより数値で表せる対象に使う。

日本語 語感の辞典

 そう、「増加する」は「数値で表せる対象」に使う語なんですね。ここに出ている例文の「面積」「予算」「定員」はすべて数値で表すことができます。
 しかし、competitive advantage「競争力(競争上の優位点)」は「数値で表せる対象」かというと、そうではありません。ではどうしたらよいか。「増大」の出番です。

【増大】
数量や程度が増す意で、会話にも文章にも使われる漢語。〈使用料が年々――する〉〈危険が――する〉〈不安が――〉する。

日本語 語感の辞典

「競争力」は「程度」で表すことができるので、ここは「増大」とするのが適切でしょう。
 「増加」は「数量」、「増大」は「(数量や)程度」なので、「増大」の方が広く使うことができます。これは覚えておくと便利です。

「増大」の中に「増加」があるイメージ

 というわけで、「増大」を使ってみました。

Gaining competitive advantage by being more knowledgeable
知ることによって競争力が増大

 また、ここでは競争力の次に「が」を入れてみました。読みやすく、わかりやすくなったと思います。

knowledgeableの訳


 もっと変更してよいならばknowledgeableの訳も変えます。また、moreが訳出されていない(とクライアントに言われる可能性がある)のでこれも入れます。

Gaining competitive advantage by being more knowledgeable
より多くの見識を身につけて競争力を増大

 「知ることによって」は若干幼稚な印象を与えますし、knowledgeableの意味が充分に出ていません。knowledgeableは「知識のある」という意味ですが、Wisdom英和辞典の語義を使い「見識」としてみました。
 これでだいぶよくなったと思うのですが、どうでしょう。

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