By doingの訳し方~格助詞「より」など
〈do(ing) A by doing B〉はよく英文で見かけます。ビジネス翻訳ではとくに頻出します。そこで、こんな小見出しの例を作ってみました。
Gaining competitive advantage by being more knowledgeable
「知ることにより競争力増加」といった風に訳されていることが多いのですが、わたしは数か所手を入れたくなります。1つ目は「より」です。
格助詞「より」は多義
by doingを「~することにより」と訳す人はかなり多いのですが、わたしはそれを勧めません。なぜでしょう。
日本語の「~より」という格助詞には多くの意味があります。
読み手は読んだ瞬間に「この『より』は5つのうちどれだろう?」と考えなければなりません。読み手にとって、その分負荷がかかっています。しかし「わかりやすい文章』をめざす場合、読み手の負担は最小限にするべきです。そこで、「より」を使わない訳文にします。
Gaining competitive advantage by being more knowledgeable
知ることによって競争力増加
「より」にくらべて、「よって」の方が意味が狭いのでこちらの方がよいですね。「よって」は本来文と文とをつなぐ接続詞ですが、このように格助詞「に」にプラスして使われることもあります。
「増加」と「増大」の違い
この文章にはもうひとつ直したい箇所があります。タイトルにも書いた「増加」ですね。
そう、「増加する」は「数値で表せる対象」に使う語なんですね。ここに出ている例文の「面積」「予算」「定員」はすべて数値で表すことができます。
しかし、competitive advantage「競争力(競争上の優位点)」は「数値で表せる対象」かというと、そうではありません。ではどうしたらよいか。「増大」の出番です。
「競争力」は「程度」で表すことができるので、ここは「増大」とするのが適切でしょう。
「増加」は「数量」、「増大」は「(数量や)程度」なので、「増大」の方が広く使うことができます。これは覚えておくと便利です。
というわけで、「増大」を使ってみました。
Gaining competitive advantage by being more knowledgeable
知ることによって競争力が増大
また、ここでは競争力の次に「が」を入れてみました。読みやすく、わかりやすくなったと思います。
knowledgeableの訳
もっと変更してよいならばknowledgeableの訳も変えます。また、moreが訳出されていない(とクライアントに言われる可能性がある)のでこれも入れます。
Gaining competitive advantage by being more knowledgeable
より多くの見識を身につけて競争力を増大
「知ることによって」は若干幼稚な印象を与えますし、knowledgeableの意味が充分に出ていません。knowledgeableは「知識のある」という意味ですが、Wisdom英和辞典の語義を使い「見識」としてみました。
これでだいぶよくなったと思うのですが、どうでしょう。
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