便利な訳語。なるべく使わないで! #1
英日翻訳では、 便利なためにしょっちゅう使ってしまう訳語が多く存在する。気をつけて使用を減らすだけでも、訳文の読みやすさがぐんと変わってくるはずである。そのうち3つに焦点を合わせ、今日はひとつだけ解説してみる。
~し、~し、~し:〈サ行変格動詞の連用形+読点〉の連続
以下の英文と訳文がある。
「~連携し、~発信し、~生活し、」と3回も「~し、」が連続している。実に読みづらいのだが、意外と多く見られる訳文だ。
では、具体的にどう変えたらよいのだろう。まず原文を見て、andでいったん切ってみる。
これで考えてみよう。
中学で習ったto不定詞「結果を表す副詞的用法」の訳し方を使う
ここで、to partnerとto deliverの文法的役割と意味を考えると次のようになる。
to partner:to不定詞。名詞的用法「連携すること」
to deliver:to不定詞。結果を表す副詞的用法「(連携して、その結果)お届けします」
「結果を表す副詞的用法」というのは次のパターンである。中学生で習った例文でこういうのがあったことを思い出す人もいるだろう。
She grew up to be a doctor.
彼女は成長して医者になった。
ここで、「して」の「て」に注目してほしい。格助詞「て」には、原因と結果を表す用法がある。それを使って「結果」を表している訳文になっている。
「て」を上の翻訳にも使ってみよう。before→afterで並べるとこうなる。
どうだろう。「て」を入れただけで読みやすさが変わってくることが示されたではないか。では後半にいこう。
この「生活し、」はどうしたらよいだろう。
動詞を品詞転換して名詞で訳してみる
英文を見ると、how節に動詞が4つある。move, live, work, playだ。だが、日本語も動詞で訳さなくてはいけないわけではない。
これを、howと合わせて「移動、生活、仕事、娯楽(のやり方、ありよう)」としてみる。before→afterで並べるとこうなる。
大分すっきりしたと感じないだろうか。前後半を合わせてbefore→afterで並べると次のようになる。
最初の訳文で3つあった「~し」は結局すべて消えた。afterは、beforeに比べてだいぶ読みやすい日本語になっているとわかると思う。
では最後に、「~し、」を減らすための今日のポイントを再掲しておく。
「~し、」→「~して」にする(意味もクリアになる)
品詞転換して動詞を名詞で訳す(冗長さが消えて簡潔になる)
「~し、」は便利なので多用する翻訳者は多い。どうしたら「~し、」を使わずに訳文を作れるかを知らないと、つい使い続けてしまいがちだ。今日の話を読んだ方は、まず、「~して」にできるところはないかどうか、ご自身の訳文を見直していただけたらと思う。