日常の中の「書く瞑想」: 書く行為の心と脳への影響

笠原彰　とちぎスポーツ医科学センター協力心理相談員　プロメンタルコーチ　作新学院大学教授

2023年9月11日 11:30

写経は「書く瞑想」とも称されます。

この行為には、意識を文字へと一点集中することで、邪念を払い、心を落ち着かせる効果が期待されます。

弘法大師が古代の学者たちの筆論を引用して述べた「書は散なり」という言葉は、文字を書くときの心は束縛されず、自由であるべきという意味を持ちます。

書の技法や基本がわからなくても、普段は乱筆で「気が抜けた字」と評されることが多いかもしれませんが、真剣に集中して書かれた文字からは、書き手の熱意や楽しみを感じることができます。

これは、文字が持つ独特の魅力と、それを書く者の心がリンクすることから来るものです。

実は、写経だけでなく、書くという行為そのものにも脳に良い効果があります。

具体的には、指先を使って文字を書く動作は、脳の前頭前野を活性化させると言われています。

前頭前野は思考や計画、意識の制御などの高次機能に関与しており、これを刺激することで学習効果も上がると考えられています。

実際、学生時代に「書いて覚える」とよく教えられますが、それはただの信仰ではなく、書くことで情報が記憶に定着しやすくなるという研究結果が支持しています。

また、寝る前に短い日記を書くことも推奨されます。これは、自律神経のバランスを整える効果が期待されるためです。

具体的には、

「よくなかったこと」
「よかったこと」
「明日の目標」

という3つのポイントをゆっくりと丁寧に書き留めることで、一日の出来事を振り返り、自分の感情や思考を整理することができます。

このような習慣を取り入れることで、秋の夜長などに過去の日記を読み返すときに、当時の自分の気持ちや思考を文字を通して再体験する楽しみが増えます。

文字を書く行為は、その時の自分の気持ちや考えを具体的に形に残すことができるため、後で読み返す際には、その時の自分の存在を感じることができるでしょう。

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