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思い出の扉

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2024年11月の記事一覧

おじちゃん3

おじちゃん3

 ところで、高校1年時の夏休み以外にも、ぼくはショックを受けたことがある。それは再び「おじちゃん」と呼ばれたことではない。もっと先を行っていたのだ。

 20年目ほど前だったろうか、ショッピングモールの中でそれは起こった。
 嫁さんが買い物をしている最中、ぼくは暇をもてあまし、そこにあったテレビを見ていた。すると、2,3歳くらい男の子が、ぼくの方にトコトコと歩いてきた。そしてぼくの前で立ち止まった

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おじちゃん2

おじちゃん2

 さて、その後は「おじちゃん」などという忌まわしい言葉で呼ばれることは、ほとんどなくなった。それは、頭が真っ白になった今でもそうだ。
 まあ、たまにそう呼ぶ人がいないではないが、そういう人たちは、ぼくのことを何と呼んでいいかわからずに「おじちゃん」と呼んでいるのだと思う。愛称として「おじちゃん」と呼ばれることは、まったくないのだから。

 ちなみに戸籍上ぼくを「おじちゃん」と呼べる立場にある甥や姪

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【詩】バス旅行

【詩】バス旅行

峠を越えていくバスの中
ぼくらは歌を唄っている
何という歌か知らないが
バスガイドのあとを追い
懸命に声を合わせている
窓の外は青空に包まれた
晩秋の風景が続いている
なのにぼくらは窓の外を
見ることなしに前を向き
必死に声を合わせながら
知らない歌を唄っている

おじちゃん1

おじちゃん1

「おじちゃん」
 ぼくに対してその言葉が初めて使われたのは、高校1年の夏休み、横須賀の叔父の家に遊びに行っていた時のことだった。当時叔父の家には風呂がなかった。そのため、叔父の家に滞在中は毎日銭湯に通ったものだ。

 そんなある日のこと、その日は叔母といっしょに銭湯に行っていた。先にぼくが風呂から上がったようで、外に出てもまだ叔母の姿はなかった。そこで叔母が上がってくるのを待っていたのだが、その時

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【詩】田んぼと電柱

【詩】田んぼと電柱

線路沿いの小道で昨日の子供達が
手を振りながら汽車を追っていく。
運転手のおじさんはそれに答えて
汽笛を鳴らし煙を噴かしてくれる。
田んぼと電柱の他に何もなかった
田舎町の小さな思い出であります。

象が踏んでも壊れない

象が踏んでも壊れない

 かつて『象が踏んでも壊れない』という筆箱があった。テレビのコマーシャルでは、実際に象が踏んでいる映像が使われていた。しかしそれは象が踏んでいるというよりも、足を乗せているだけにしか見えなかった。

 象のCMが始まって数年後、ぼくが高校一年の時だった。
『やはりあれはおかしい』ということで、ぼくは友だち数人といっしょに、教室でその実験をやってみた。実験には、ぼくが中学時代に使っていた古い『象が踏

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昭和45年

昭和45年

1、
 前に、コカコーラのキャッシュバックキャンペーンのことを書いたが、それは昭和45年のことだ。中学の入学後から始まったとぼくは記憶しているのだが、それが正しければ、そのキャンペーンはその年の4月から始まったことになる。

 この記事に書いているコカコーラミニボトルのキーホルダーだが、十数年ほど前に、実家で見かけたことがある。実家にあるぼくのコレクション入れの中に入っていたのだ。
 その写真をこ

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寝不足とラジオと3

寝不足とラジオと3

6,
 東京に出た目的の一つが、ラジオだった。東京でAM放送を聴くのが昔からの憧れだったのだ。ラジオに専念するために、ぼくは下宿にテレビを持込まなかった。

 東京で何を聴いたのかというと、TBSラジオで当時やっていた『マカロニほうれん荘』など一連のラジオ劇画や、文化放送の『セイヤング』だ。
 特に『セイヤング』を聴くのは中学からの夢でもあった。『オールナイトニッポン』や『パックインミュージック』

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お金の行方

お金の行方

 先日、嫁さんと近くのレストランに昼食を食べに行った時、高校の同級生Sにあった。彼は高校以来の友人で、社会に出てからもずっと飲み友だちでいるのだが、コロナ禍があってからは会ってなく、久々の再会となった。彼は仕事でそのレストラン近くに来ていたということだった。しばらく話をして、「また飲み会をやろう」ということで別れた。

 彼と別れたあと、ふと思い出したことがある。それは、高校2年の頃の話だ。
 他

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【詩】階段の怪人

【詩】階段の怪人

階段の怪人が
ジッとこちらを伺っている
来る日も来る日も
飽きもせずに
ジッとこちらを伺っている
たまに足を踏み外すのか
ギイッという音がする

【詩】風を集めて

【詩】風を集めて

中学校の裏手には
小高い丘が続いていた。
人の入らないその丘は
草がぼうぼうと生えていて
蛇やムカデが棲んでいた。

空は滅多に晴れたことなく
丘から下りてくる風が
小さな校庭に落ちていた。
ぼくらはその風を拾い集め
空に向けて蹴り飛ばした。

風は力なく飛んでいき
ゆっくりゆっくり空を舞い
再び校庭に落ちてきた。
ぼくらはそれを受けとめて
力を込めて蹴り返した。

胸やのどに痛みを覚えた
青臭坊

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