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おじちゃん2
さて、その後は「おじちゃん」などという忌まわしい言葉で呼ばれることは、ほとんどなくなった。それは、頭が真っ白になった今でもそうだ。
まあ、たまにそう呼ぶ人がいないではないが、そういう人たちは、ぼくのことを何と呼んでいいかわからずに「おじちゃん」と呼んでいるのだと思う。愛称として「おじちゃん」と呼ばれることは、まったくないのだから。
ちなみに戸籍上ぼくを「おじちゃん」と呼べる立場にある甥や姪が、ぼくのことを何と呼んでいるかというと、「にいちゃん」である。
十数年前、うちに遊びに来た大学生の姪を連れて、近くの居酒屋に飲みに行ったことがある。その時、たまたまその店に飲みに来ていたぼくの友人が、ぼくを見つけて声をかけた。
「おまえ、今日は女子大生連れか」
「これは姪っ子」
「ああ、姪っ子か」
その後、その友人はぼくたちの席で飲み始めた。ことあるたびに、姪をからかっていたが、姪のほうは軽くあしらっていた。
ぼくがトイレに立った時だった。友人は姪に、
「おじちゃんといっしょに飲んで楽しい?」と聞いたらしい。その時姪は、キョトンとした顔をして
「おじちゃんって誰ですか?」と聞き返したという。姪はぼくが「おじちゃん」であるというのが、ピンと来なかったらしいのだ。
姪にとってぼくの存在は、物心ついた時から『にいちゃん』だったのだ。さすがに意地の悪い友人も、ぼくと姪の鉄壁な『にいちゃん』関係にあてられたことだろう。
ところで、姪がその友人のことを何と呼んでいたかというと、「おじちゃん」だった。
「へえ、おじちゃんは、うちのパパと同い年なんですか?へえ…」といった具合だ。
その都度友人は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。「ザマーミロ」である。