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アジア最大規模の人材育成会議「ATDアジアパシフィックカンファレンス2024」参加レポート(今年も素晴らしかった!)

今年もアジア地域最大規模のHRのカンファレンス「ATD Asia Pacific Conference(ATD-APC)」(開催期間:10/29-11/1)に参加してきました。
コロナ禍を除けば、2014年からの毎年参加してきたカンファレンスで、初参加から今年でちょうど10年。このカンファレンスに参加したことがHRとしての自分を本当に大きく成長させてくれた個人的に思い入れの深いカンファレンスです。今回はATDメンバーネットワークジャパンの理事として、日本からの参加者(デリゲーションチーム)の取りまとめ役を務めさせて頂きました。 

ATDと言えば本場アメリカでの大会(通称:ICE)が有名ですが、ICEに比べると大会規模はもちろん大きな違いがあるものの、スピーカーの質などは、ICEと比べても決して引けを取らない印象です。逆にこの規模感でこそ感じられるスピーカーや参加者との心地よい距離感、そして台湾という私たち日本人にとってなじみの深い場所ということも相まって、規模感の違いなどをはるかにしのぐ、魅力あふれる大会です。(あくまでも個人的な意見です)

カンファレンスということで、それぞれのセッションからの学びがメインではありますが、実はそれ以外の学びもATDカンファレンスの特徴です。
今回は、以下3つの視点でATD-APCの魅力を交えてご紹介します。

1.セッションからの学び
 
世界各国のスピーカーからの最新のトレンドや多種多様な観点での
 インプット
2.ネットワーキングからの学び
 参加者や新たな出会いによるネットワーキングを通じた学び
3.リフレクションによる学び
 参加者とのディスカッションやダイアログを通じた学びの深耕や
 新たな視点の共有

ランチ会場の様子
EXPO(展示会)も開催されています
カンファレンスのスケジュール

セッションからの学び

今回、私が3日間で受講したセッションはキーノート含めて全部で15セッション。セッションタイトルにAIが入っているかいないかにかかわらず、全体的にはまさにAI祭りでした。
この流れはここ数年変わらない大テーマですが、今年は益々その活用や影響の輪郭がクリアになってきた印象です。もう少しカテゴライズすると、

1.AIインパクト
 AIが社会に与えているインパクトや影響、AI世界の現状、AIの活用/限界、
 L&Dへの影響など。
2. 働く環境の変化にどう対処するか
 AIの急速な進展を中心とした環境変化に加えて働き方や世代などの多様性
 が益々進む中で、人、企業、組織、職場、リーダーシップ、そして学びは
 どう変化しているか、どうあるべきか。
3.HRの役割変化
 AIによる様々な影響だけでなく、改めてこれからの時代のHRはどうある
 べきか。

といったテーマが様々な切り口から語られていました。今回はこの3つの観点で印象的だったセッションを中心にご紹介します。

AIのインパクト

2日目のキーノートで、ビジネス心理学の専門家のTomas Chamorro-Premuzic博士が「Harnessing AI for a Future-Ready Workforce(将来に備えた労働力のための AI の活用)」という話をされていました。
AIが社会に与えるインパクトや影響、そしてAIをどう活用すべきか?といった話は、皆さんどこかで色々な所でインプットされていると思いますが、お話されたポイントをざっと上げるとこんなところです。(前後の文脈を端折っているので理解しづらい点はご了承ください)

  • AIは生産性を向上させたのか。テクノロジーはインプットを減らすことで生産性を高める。

  • スマホは勤務中の生産性を低下させている。(実は生産性を高めたい会社と低めたい会社がいる)

  • 人は人生の中で6年8か月をスマホの利用に費やしている。

  • AIに偏見があるわけではない。人間のバイアスがAIに反映しているだけ。

  • 知識のコモディティ化が益々進む。

  • AIにも限界がある。(それを知ろう)

AIの限界、特にバイアスについては、昨年のこのATD-APCでもピーター・カペリ氏が強調していた点でした。
その上で、今後起こるであろう5つのトレンド変化/意識しておくべきことに触れていました。(2と3は知識のコモディティ化による変化への対応です)

1.AIのスキルを活用 
2.資格から可能性へ
3.深い専門性の開発
4.仕事に人間性を取り戻す 
5.AIは完ぺきではない

また、Meta(Facebook)のデータサイエンティストであるDr. Eddie Lin博士が、「L&D 2.0 with AI: A New Paradigm Shift beyond Technologies」というテーマでL&DにおけるAIの活用のポイントをわかりやすく解説して頂きました。
印象的だったのは、テクノロジーのみにフォーカスしすぎない、問題が何かを特定してAIを活用する、という点。当たり前のことですが、どうしても新しいテクノロジーやソリューションドリブンになりがちな我々の意識をしっかり正しい方向に戻して頂いた感じでした。
その他には、リアクティブからプロアクティブな学習支援としてのAI活用、学習がパーソナライズされていく方向感、これまでの個別モジュール化からされた統合的な活用/実践を、といった提言もされていました。

この他のセッションでは、マイクロソフト台湾のCOOの方やタタコンサルタンシーサービスのタレント開発のヘッドの方が、自社のL&DにおけるAI活用事例を紹介されていました。世界のメガカンパニーでは既にAI使用の実践知がかなり蓄えられてきているようです。

copilotの活用シーン
TataのAIインタビューコーチ

働く環境の変化にどう対処するか

こちらは、初日のキーノートスピーカーである、オランダの組織理論家/異文化経営のコンサルタントのFons Trompenaars氏が、「Leadership as a Catalyst」というテーマでお話をされていました。
そのまま訳せば、”触媒”としてのリーダーシップということですが、国、組織における多様性が進む中で、世界中のリーダーが様々なジレンマを抱えていて、それをどう触媒として解決していくか、さらに言えば、二極化している世界、集中化と分散化といった国際環境にはじまり、物の見方、感性、主義/主張、そして国の文化等、色々なジレンマがあり、そんな環境下でのリーダーの役割は、ジレンマを解決することである、というに内容でした。

ものの見方の例として、日本語の「客観的」「主観的」という言葉を引用したり、(客観的を「Kayakkanteki」と表記していたのはご愛敬)、アップルは、iphoneで機能性と美学を結合させイノベーションを実現させた、といった様々なジレンマ(視点や考え方の違いなど)を例に挙げながら、どちらかを取るということではなく、ジレンマを特定して、うまく結合させて解決策を見つけいくプロセスを紹介されていました。

また、Go1というラーニングソリューションの会社の APACの営業責任者であるLiying Lim氏のセッション「Meeting the upskilling and training needs of a multi-generational workforce」も興味深い内容でした。

  • 近代史上、初めて4世代が一緒に働く初めての時代になった。

  • 学び方がますます多様化しているので、EXの改善が必要。
    具体的にはエンゲージメントへ影響のある学習、内発的動機と成長、学習文化、スキルセット、パーソナライズされた学習環境など。

  • 多世代の労働力を活かすための取り組みコラボレーション促進、メンタープログラム、ゲーミフィケーションの活用。相互尊重、シニアの経験を活かす。

といった内容で、よく話題になるZ世代、若者との価値観ギャップの視点だけでなく、日本における喫緊の課題であるシニア層の活躍(エイジダイバーシティ)の視点も盛り込まれた、とても実践的で洞察に富んだセッションでした。

また、「Investing in Talents of the Future Today」というタイトルのフィリピンの病院(St. Luke’s Medical Center)での人材投資の事例もなかなか面白い内容でした。
フィリピンでは、ヘルスケア業界の人材確保が難しいということで、特にナースは英語が話せるため海外に出ていってしまうとのこと。
そのため、長期的なリテンション施策が必要で、スキル開発、リーダーシップ開発、学習する文化、人への投資、D&Iの取り組みなど、まさに総合的なタレント開発の仕組みを紹介して頂きました。

今回は、日本からATDメンバーネットワークジャパンの理事3名がスピーカーとして参加していました。その中で、トム・メイーズ理事(資生堂勤務)と今泉さんという方が「Developing Futurists - Leadership in Shiseido」という資生堂さんの事例を紹介されていました。まだローンチされたばかりの取り組みということでしたが、リーダーをFuturistと呼んでいるネーミングも素敵で、コンセプトや役割、ケイパビリティの整理がとてもわかりやすく参考になる内容でした。(出席者も多く注目度が高かったようです)

HRの役割について

こちらは戦略人事という考え方の提唱者で、HRの方にはおなじみのDave Ulrich教授のセッションをご紹介します。
最終日のキーノートスピーチということでまさにオオトリという位置づけ。生のウルリッチ教授が見られる、ということで個人的にはこのカンファレンスのメインイベント的にとても楽しみにしていたのですが、なんとこの時期に台風が台湾直撃!!ということで、この日のセッションはすべてオンライン開催に変更されました。(ウルリッチ教授とのランチ会だけはリアルで開催)
やや残念でしたが、セッション自体はしっかり聞けましたし、内容も期待通りの内容で大満足でした。

セッションのタイトルは、「Delivering Impact: How HR Creates Stakeholder Value in a Rapidly Changing Workplace(インパクトの提供: 急速に変化する職場で人事がステークホルダーの価値を生み出す方法)」。

お伝えしたいことが満載の内容でしたが、"HRは人の能力を通じて、ステークホルダーの価値を創造しよう"が一番のキーメッセージだと理解しました。心理的安全性とか社員の成長とかHRにとって重要なテーマはいろいろあるけど、それらは組織が市場で成功するための一つの要素にすぎないのである、というものでした。
原文ではこんな表現をされていました。
Now is the time to reinvent HR:AI for HR
1. HR is not about HR, but creating value for others
2. HR contributes value through human capability
3. HR needs to upgrade HR department and people

最近は自分自身の業務としてISO30414の認証取得の取り組みなど、まさに多様なステークホルダーを意識した業務を行っていただけに、個人的にもタイムリーかつ改めてHRという仕事の意味、価値をじっくり考える/見直すきっかけとなりました。最後のこのスライドもイイ感じでした。

ネットワーキングからの学び

今回は、久々にGala Dinner(夕食会)にも参加しました。
セッションのところで紹介したMETAのデータサイエンティストのDr. Eddie Linさんが、なんと夕食会で隣の席になり、色々なお話をさせて頂きました。こんな方とガッツリお話する機会なんてそうそうありませんが、そんな貴重な機会が得られるのもATDの素晴らしさです。

同じテーブルの方々と

カンファレンス後には、ご本人のリンクトインでもこんな投稿をして頂きました。(過分なコメントを頂き、ちょっと恐縮ですが)

Eddieさんのリンクトインの投稿より

リフレクションでの学び

今年のカンファレンスでも、一日の終わりに、その日の学びを深める取り組みとして、日本からの参加者によるラップアップ会(振り返り会)を実施しました。今回は、ATDメンバーネットワークジャパンの理事(一部はスピーカーも兼ねて)以外にも、HR関連サービスのコンサルティング会社の方や私のような一般企業のHRの方も複数名参加され、総勢10人以上の方が日本からの参加でした。
振り返り会では、その日の感想や印象に残ったセッション等の意見交換を行いましたが、改めて思ったことを言葉にしたり、他の方の物の見方、考え方をインプットすることで、学びや気づきが一段階上のインプットに変わることも多く、とても有意義で濃厚な時間でした。
普段はなかなか触れることのない情報やいつもと違った環境に触れることで、日本、そして日本のHR、自分の仕事に対する危機感を感じられた方も多かったようです。

厳密にはラップアップ会の写真ではないのですが、写真がないためこちらで代替

カンパニーツアー(TSMC)

ここまでご紹介したカンファレンスのセッションだけでもなかなかの充実度ですが、今年も昨年に引き続き、カンファレンスのオプション企画として、台湾企業への企業訪問の機会がありました。
昨年は世界有数の液晶ディスプレイメーカーであるBENQ社でしたが、今年は台湾発の世界企業TSMC、FOXCONN、デルタ電子の中から選択できるとのことで、私はTSMCを訪問しました。
皆さんもご存じの世界一の半導体ファウンドリの本社に訪問できるというなかなかない機会で、世界最高峰の頭脳が集まるR&Dセンターということで、スマホなどのデバイスは持ち込み禁止、撮影も禁止。ゲートを入る際には、空港さながらの手荷物検査とボディチェックもありました。(空港より厳しいでしょ、とアテンドの方も笑っていました)

同行したカメラマンが撮影

上の写真で一部映っているように去年の夏にできたというこの建屋は両サイドに20階近い執務室棟があり、真ん中は吹き抜け (=我々がいるところ)になっていて、大型ショッピングモールのような印象でした。

建屋内の色々な場所の案内の前には、TSMCの人材戦略やリーダーシップ開発プログラムなどをプレゼンして頂きました。前述の通り、スマホ持ち込み禁止ということで、必死にメモを取りながらでしたが、幸い、同社のサステナビリティレポートには、この時お話頂いた内容の一部が掲載されていたので、そちらを確認しながら復習できました。
企業のコアバリューやT&D戦略もわかりやすく共感できるワーディングで素晴らしく、AIチャットボットを活用したオンボーディング施策などの最新の取り組みも取り入れているのはさすがだなと思いつつ、「70:20:10のロミンガー法則」や「カークパトリックモデル」といった人材育成に関わる皆さんにはおなじみのフレームワークを活用して学習プログラムの設計やKPIマネジメント、効果検証も実施されています。

TSMCのサステナビリティレポートより

今回の訪問では、最新鋭の設備にはもちろん圧倒されましたが、世界一の企業のこうした戦略的なHRの取り組みが強さの源泉ということも改めて実感できた素晴らしい機会でした。

素晴らしかったATD台湾の皆さんの大会運営

今年も素晴らしい機会を与えて頂いたATD台湾の皆さんには本当に感謝です。私も日本からのデリゲーションチームのオーガナイザーとして壇上での挨拶の機会を頂いたり、カンファレンス全体のクオリティやオプション企画など本当に素晴らしい学びの場が満載でした。

また、今年は台風によるオンライン開催への変更等、ただでさえ運営でいっぱいいっぱいのはずが、スムーズにオンライン開催に切り替える機動力と柔軟性には本当に頭が下がりました。(当日の明け方まで準備されていたとか)
こんな素晴らしい場に一人でも多くの方が参加できるよう、また来年も微力ながらご支援させて頂こうと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=KRjLJqaMx6Y

<おまけ>
今年も台湾の皆さんとおいしい夕食会。いつも本当に温かく迎えて頂き、感謝しかありません。また来年もお会いしましょう!


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