見出し画像

#9 ゲーム学習のサービスデザイン PART2

「#7 ゲーム学習のサービスデザイン PART1」の記事では、ビジネスゲームにおける課題とその具体的な解決方法について提案しました。※詳細はこちら↓

今回の記事では、その続きとなる、なぜそのような解決方法に至ったかの背景を紹介できればと思います。

「失敗しないゲーム学習の導入方法を知りたい」「継続的なプロジェクトとしてゲーム学習を行いたい」といったテーマが気になる方はぜひご覧ください。

はじめに

近年ゲームを活用した、企業内の課題解決は注目を集めていますが、ゲーム制作や活用には高いハードルがあります。

実際に、研修 / 業務支援 / 自己啓発の文脈では、ゲームは積極的に使われており、事業者数は増加傾向にありますが、まだその普及まで至っておらず、現場の課題感に沿った提供を行っているサービスは少ない現状です。

そこで、ゲーム学習を研究する一人のデザインリサーチャーとして、ビジネスシーンにおけるゲーム学習活用へのギャップを埋めたいと強く感じるようになりました。

そのために、ゲーム制作・研究を自ら行い課題解決を目指している中で、見出したのが「サービスデザイン」の視点です。

本記事では、サービスデザインについて紹介しつつ、ゲーム学習に当てはめながら解説していきます。

以下では、次の3点に沿って説明を行っていきます。

・デザインからのアプローチ
・サービスデザインとは
・ゲーム学習のサービスデザイン

デザインからのアプローチ

まずは、そもそもデザインとは何かについて、ここで整理します。

私たちの身の回りは、プロダクトで溢れており、ゲームも当然プロダクトの一種です。しかし、その捉え方は時代とともに常に変化しています。

・プロダクトという意味の拡大
プロダクトのサービス化によって、何を提供できるか考え、より魅力的なサービスを継続的に提供することでプロダクトの価値を高めるように。

・プロダクトが人に合わせる時代
ユニバーサルデザインや人間中心設計といった考え方が台頭し、ユーザーにとっての使い勝手がプロダクトの価値を構成する要素と考えられるように。

・VUCA時代に合うプロダクト開発へ
社会の変化が大きく、かつ速くなり、これまでの仕事の進め方では変化に追いつけない現状への解決として、デザイン思考が求められるように。

デザインが対象とするプロダクトは常に変化しており、デザインする側もその変化に対応する必要があります。

そこで、「デザイン」からのアプローチで、ゲーム学習の課題を再考できるのではないかと考えました。

サービスデザインとは

ゲーム学習は「経験」をデザインすることを指します。こうした経験のデザイン領域は、時代が進むにつれ、拡大してきました。

これまでは、インタラクションデザインが中心でしたが、前述のプロダクトに対する捉え方の変化を受け、現代ではサービスデザインが主流です。

インタラクションとサービスの違いは、継続的なプロジェクトとして回っていく仕組みがあるかどうかです。インタラクションは活用の幅がありませんが、サービスは柔軟性が高いのが特徴です。

サービスデザインの特徴として、「サービスデザインの原則」が存在します。ここでは、次の6つの要素にまとめられています。

・人間中心:サービスの影響を受けるすべての人のエクスペリエンスを考慮する

・共働的:サービスデザインのプロセスには多様な背景や役割を持つステークホルダーが積極的に関与しなければならない

・反復的:サービスデザインは、実装に向けた探索、改善、実験の反復型アプローチである

・連続的:サービスは相互に関連する行動の連続として可視化され、統合化されなければならない

・リアル:現実にあるニーズを調査し、現実に根差したアイデアのプロトタイプを作り、形のない価値は物理的またはデジタル的実体を持つものとしてその存在を明らかにする必要がある

・全体的な視点:サービスはサービス全体、企業全体のすべてのステークホルダーのニーズに持続的に対応するものでなければならない

この中でも、特に「共働的」や「全体的な視点」で挙げられているように、サービスの提供には多様なステークホルダーが存在します。

単なるツールメイカーとして「For People」なデザインを行うのではなく、ステークホルダーを考慮した「With People」なデザインを共につくっていくことが重要とされています。

ゲーム学習のサービスデザイン

では、ここまでの話をゲーム学習に当てはめて考えてみたいと思います。

これまでのゲーム学習は一時的なインタラクションで終わってしまう「パッケージ」が中心でした。パッケージは型が決まっているので、なかなかゲーム自体を現場のニーズに合わせて変更することができません。

そのため、現場感とかけ離れている画一的なゲーム学習の提供となってしまい、学習者はゲームで学んだことを実務で活かすイメージが掴めていない状態のまま、成果に繋がらないという失敗を招いてしまいました。

一方で、新たに提案するゲーム学習は、継続的なサービスとして回る「パッケージ×カスタマイズ」の形式です。従来のものとの違いとして、現場のヒアリングに基づく柔軟なカスタマイズ性があります。

これにより、現場感とすり合わせした可変的なゲーム学習の提供が可能となり、ゲームで学んだことを実務で活かすイメージが掴めている状態が実現し、成果に繋がりやすくなります。

さらに、より細かく提供プロセスの観点で違いを提示したいと思います。

インタラクションデザインは、開発者によるパッケージをクライアントに提供し、それを学習者に対して提供します。一方で、サービスデザインでは、開発者とクライアントが一緒となり、変化するニーズを捉えながら、共働的に開発したものを学習者に提供します。

つまり、ここでのカスタマイズは、単なるゲームとして変更できる余地があるかだけではなく、サービスとしての柔軟性があるかがポイントになります。

最後に、この提供プロセスを踏まえ、自分自身の考えを共有します。私はサービスを超えた、体験のデザインを行いたいと考えています。

その実現にあたって、ツールをつくるクリエイター、他者と共創するコーディネーター、学びを届けるファシリテーターの役割が求められますが、まずは自分自身が実践者として、これら全ての役割を担いながら、今後も研究・開発を進めていく予定です。

ゲームだけでなく、学びをデザインする中で得た気づきは、今後も共有していきますので、ぜひ楽しみにしていただけると嬉しいです。

まとめ

さて、今月は「ゲーム学習のサービスデザイン」というテーマで、新たなゲーム学習提供の検討を行いました。

長期的なプロジェクトになるようなゲーム学習の開発・提供に寄与しつつ、自分自身もその過程で学んだ内容は今後もシェアしていければと思います。

本記事が、皆さまの今後のゲーム学習に対する考えや学びへのヒントになれば幸いです。

もっと詳しく知りたい方へ

マーク・スティックドーン、アダム・ローレンス、マーカス・ホーメス、ヤコブ・シュナイダー 著 / 長谷川敦士 監修 / 安藤貴子、白川部君江 翻訳(2020)This is Service Design Doing サービスデザインの実践

武山 政直(2017)サービスデザインの教科書:共創するビジネスのつくりかた

木浦幹雄(2020)デザインリサーチの教科書


筆者:大空 理人
東京大学大学院 学際情報学府 修士課程。Ludix Labにて、人の学びや成長につながる「楽しい経験」を創り出す学習コンテンツの設計や教育プログラムのデザイン方法論を研究。また大学院進学と同時に、株式会社NEXERAに新卒入社し、クリエイターとしてビジネスゲーム及び研修カリキュラムの企画、開発、運用を行う。2023年に『ELSI Game Lab』を設立。科学技術と社会の接続・課題解決にも努める。

東京大学 ELSI Game Lab:@ELSIGamelab
大空 理人:@masato_edut

いいなと思ったら応援しよう!