計画は躾(しつけ)の問題だ(2/2)
今回は前回に続き、プロジェクトマネジメントを例にとって、私がどのようにして計画を躾けているのか、その方法について紹介します。
そこには「Microsoft Project」と「基本行動」が深く関わっていました。Microsoft Projectを日常的に活用させることでプロジェクトマネジメントの基本行動を身に付けさせようという算段です。Microsoft Projectは文字通り、マイクロソフトがプロジェクトマネジメント専用に開発したオフィスアプリケーションで、世界中で使われています。
ところが、ここで高い壁にぶつかることになります。
日本人が抱える「Microsoft Projectの食わず嫌い」もしくは「Microsoft Projectへの苦手意識」という壁です。
日本人はExcel好きです。基本的な知識さえあればある程度は使いこなせるというとっつき易さがExcelにはあるからです。創意工夫しだいで “自分なり” の使い勝手や利便性を手に入れることができることも日本人の好みに合っています。ヘビーユーザーの中から「Excelオタク」が生まれ、なかには標準のExcelからは想像もできないような機能を作り込んでいる人もいます。日本人の多くが、本来ならWordやOneNoteで書くような技術文書や議事メモなどをExcelで作成します。
技術者にはExcel好きが多いことと、プロジェクトマネージャの多くが技術者上がりであることが合わさり、国内の製品開発プロジェクトの多くはExcelで管理されています。
Microsoft Projectにも問題はあります。非常にとっつき難いのです。
これ以降の説明では、説明の都合上、Microsoft Projectを操作しているのはプロジェクトマネージャとして話を進めましょう。
ExcelやWord、PowerPointのような一般的なオフィスツールは、慣れや知識に比例して活用度合いが高まります。それなりに操作していれば、自然と使いこなせるようになるわけです。ところがMicrosoft Projectはそうはいきません。試しに使ってみたり、しばらく辛抱して使い続けてみたりしたくらいでは使い物になりません。操作内容に対して予想とは違う動きをして、プロジェクトマネージャを悩ませ続けます。私の感覚では、30パーセントくらいの知識量に達するまでは、操作していて苛立ちが治まりません。
ところが、これを越えて使い続けると、プロジェクトマネジメントを行う上で非常に効率的かつ効果的な機能が手に入るため、Microsoft Projectは手放せなくなります。この壁を越えられるか否かが、Microsoft Projectを使いこなせるようになるか否かを左右するというわけです。
ちなみに、Microsoft Projectのこのような特徴には、内蔵されているスケジュールエンジンの存在が深く関わっています。プロジェクトマネージャの思考を読み取って操作を半自動化するためのもので、プロジェクトマネジメントに欠かせないさまざまなシミュレーションを効率化してくれます。その半面、スケジュールエンジンの内部には複雑なロジックが組み込まれているため、これが「Microsoft Projectは癖が強すぎる」というマイナス評価につながっています。先ほどの私見「30パーセント」は、これを理解するための知識量を指しています。
「良薬は口ににがし」とはよく言ったもので、使い慣れると効果絶大のMicrosoft Projectは、とっつき難い厄介な代物であるというのは、紛れもない事実です。
これにとどめを刺すのが、Microsoft Projectの実践的活用法を指導できる人材が、世の中には圧倒的に不足していることです。指導者がいないからMicrosoft Projectが普及しないのか、Microsoft Projectが普及しないから指導者が育たないのか、これは鶏と卵の問題です。いずれにしても、私が知る限りではMicrosoft Projectの実践的活用法を指導できる人材はほとんど見当たりません。
手前味噌ですが、私はその、極めて稀なMicrosoft Project指導者のひとりです。
さて、そんなこんなで、日本国内ではMicrosoft Projectユーザーは極めて少数派なわけです。
「Microsoft Projectなんて、たかがツールでしょ?」
そう思っている人が多いのは知っています。
しかし、プロジェクトマネジメント問題に悩む製造業のクライアントを抱えてきた私にとって、それは「たかがツール、されどツール」なわけです。“たかがツール” を使いこなせるようになるだけで、ほとんどのクライアントはプロジェクトマネジメントの悩みから解放されます。
私が声を大にして言いたいのは、こうです。
「たかがツールを使いこなせないだけで、しかもグローバルスタンダードのMicrosoft Projectを使いこなせないだけで、皆さんのプロジェクトは、数億円、数十億円のコストオーバーランや、半年近い納期遅れに見舞われています。本当にそれでいいのですか?」
このような状況を背景に、私は立ち上がることにしました。
今も私は、Microsoft Project片手に、プロジェクトマネジメント基本行動の定着に向けて切磋琢磨しています。
プロジェクトマネージャごと、毎週決まった時間帯に顔を合わせ、彼らの心情やプロジェクトの状況に気を配りながら、手取り足取り、いっしょに計画を作成しています。計画ができ上ったら、こんどは毎週、いっしょに進捗会議をやります。そこでは同朋意識にも似た尊敬と尊重、信頼感が育まれます。私は彼らのために指導し、彼らは私のためにも成長しようと努力します。途中で放り投げたりするひとはひとりもいません。
最初のうちは私がファシリテーションしながらMicrosoft Projectを操作します。このとき、プロジェクトマネージャに身に付けてほしいのは、プロジェクトマネジメントの勘所です。勘所が身に付くとMicrosoft Projectの機能ひとつひとつの意味が理解できるようになり、「自分も操作してみたい」「自分も操作を身に付けたい」と思うようになります。
このタイミングで、私は彼ら、つまりプロジェクトマネージャの皆さんにMicrosoft Projectを触ってもらうようにしています。隣で見守りながら、徐々に徐々に、独り立ちさせていくわけです。
なぜMicrosoft Projectを使うのか… 私にとってMicrosoft Projectが躾のための大切な道具だからです。
実際に手を動かして考え、考えながら手を動かす。その結果を目の当たりにして驚き、感心し、自分のこれまでの行動を反省する。これが躾です。時代錯誤と思われるかもしれませんが、繰り返し、体で覚えるのが躾なのです。
計画の躾けが身に付くに連れ、事業運営はかつてないほど活気に満ちてきました。
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