エキサイティングなアイディアは共感の後に生まれる

大きな仕事を成し遂げるには、ステークホルダーとの合意形成が不可欠です。
そのためには「共感」が必要であり、共感とは「自分が創り上げた概念を相手の中に移植する作業」であることは、以前にお話しました。
共感できれば、その相手と同じ土俵で話ができます。道に迷った時の拠りどころは、共有した概念モデルです。
しかし、私たちが目指しているのは共感することではありません。ゴールは、目の前の仕事をやりとげることであり、正解のない問題を解くことです。
そして、ゴールを達成するには、共感した概念モデルを磨き上げていくことが重要になります。

皆さんは、皆さん自身が創り上げた概念を、一寸の狂いもなく相手の中に移植できると思いますか。答えは「No」です。そんなこと、できるわけはありません。相手とは、これまでの経験も違えば目の付けどころも違うからです。
そもそも、相手に概念を移植するとき、価値観も問題意識も違う相手に自分の考えをうまく伝えるために、皆さんは、概念を一部アレンジするはずです。
つまり、100パーセント同じ概念が移植されることはありえないのです。

私は、これらの概念に次のような呼び名を付けています。

自分が創り上げた概念 = 源流の概念
共感のためにアレンジされた概念 = 共感のための概念
自分の概念が移植され相手の中に形成された概念 = 支流の概念

そして、「源流の概念」と「支流の概念」とのギャップが大きな役割を果たすことになります。

共感したことで、皆さんと相手とは、同じ土俵で議論できるようになりました。
そして共有した概念モデルを拠り所に、意見の相違点や腑に落ちない点、相手へのアドバイスなどを交換し合うはずです。その過程で、双方の概念モデルのギャップが明らかになります。

すると、「なぜ、相手はそう考えたのだろうか」「自分が気付いていないポイントがあるのではないか」という疑問が生まれ、白熱した議論が生まれるはずです。
その結果、概念モデルはさらに具体化され、磨き上げられていくのです。
こうして磨かれた概念が、「成熟した概念」です。

成熟した概念は、相手との議論で生まれました。そして、成熟した概念をまた別の相手に移植し、その人との議論の結果、成熟した概念はさらに磨かれていくのです。

世の中のエキサイティングなアイディアは、こうやって生まれているはずです。

こんなことがありました。

私たちは、プロジェクトのコスト超過という問題に直面していました。
「提案段階からプロジェクトは始まっている」というコンセプトに沿って、私とメンバーのA氏は、横軸にプロジェクトの各フェーズ、縦軸にインプット、処理、アウトプット、問題点をとり、全体像の把握に努めていました。
たたき台レベルの構造化が終了したある日、私たちは他のメンバーと、それを囲んで議論することにしました。

A氏 「この中で、欠けている要素はないでしょうか?」
B氏 「ありがとうございました。これを見ると、全体像が手に取るようにわかります」
C氏 「確かにそうです。コストの見積りは提案段階からスタートしていることがわかります ね。これまで、提案段階のことはあまり意識していませんでした」
A氏 「これは見逃せないポイントです」
B氏 「こうしてみると、コスト見積りが、時間の経過とともにどのように変化していくの かが気になります」
C氏 「なるほど。フェーズが進むにつれて、コスト見積りの精度も向上するわけですから」
A氏 「コスト見積りはすべてのフェーズを通じて一気通貫で、時間の経過と共にそれが成長 していく」
私 「いい着眼点が見つかりました。今の概念モデルを、コスト見積りを軸に再編成してみ ましょう。次回は、さらに深い議論ができそうです」

概念化が起点となって共感のポジティブループが生み出され、概念は、議論のたびに成熟するのです。

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