「相手がなぜそんなことを言うのか」を考えなさい

議論の場には、誰しも自分なりのシナリオを持って臨むものです。
そんなとき、想定外の切り口から異なる意見を発言する人がいると、たいていの人はイラッとするのではないでしょうか。
私も、以前はそうでした。でも、今は違います。
意見の相違はシナリオの成熟に向けた大きなチャンスと思うのです。

相手への反論や主張を繰り返す前に「自分のシナリオには、この人しか気付いていない重要な抜け漏れや間違いがあるのではないか」と疑ってかかれば、シナリオの完成度が上がります。しかもこれを習慣化することで、シナリオだけでなく、思考ロジックも磨かれます。

相手が単なるへそ曲がりでない限り、自分と違う意見を持っているということは、背景にその人なりの思考ロジックが存在する、と最近では考えるようになしました。しかも、その思考ロジックは、自分の思考ロジックを磨き上げる重要なヒントなのかもしれないと考えるに至り、今では異論、反論を大歓迎しています。

例で理解を深めましょう。
このとき、私は改革プロジェクトを支援していました。

担当者 「これまで通り、上がってきた案件に対して現場主導で進めるべきだと思います。ダメ だった理由は、本社側の支援体制に問題があったからです」
私 「業績悪化は、戦略なしにその場しのぎのビジネスをやってきた結果だと、皆さんおっ  
    しゃっていたではないですか」
担当者 「現場は、自分を評価する上司しか見ていないので、こちらの言うようには動きません。 いくら戦略を練ったところで、会社が何を目指しているかにはまったく興味がないので す」

このとき私の頭には、「現場のモチベーション」「評価制度の問題」「組織としての価値観」「障壁」というキーワードが浮かびました。意見をもらったおかげで「部門が一丸となってゴールを目指す」という価値観が現場にないことが分かったのです。
そして、次のように呼びかけました。

私 「では、現場への落とし込み方や現場に対する評価制度の変更なども視野に入れつつ、 実行障壁を洗い出して議論してみませんか」
担当者 「わかりました。私も真っ向から反対している訳ではありません。ただ、できないこと をそのまま実行に移すことに問題を感じただけです。ぜひ、いっしょに考えさせてく ださい」

議論の結果、私たちは、「実行障壁」や「実現シナリオ」という観点から戦略の在り方を練り直しました。こうして出来上がった戦略の概念モデルは現実的で確実なものになり、改革プロジェクトは成果を残すことができました。

このように、異なる思考ロジックは、ビジネスを成功させるためのヒントであり、自らのスキルを向上させる糧なのです。

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