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映画「シックス・センス」の児童精神科医の言葉掛けに臨床心理士がダメ出ししてみた。

あなたの想いを
そのまま受け止めていきたい。




こんにちは!臨床心理士/公認心理師/精神保健福祉士/臨床発達心理士のまりぃです。

まだ若輩心理職で、【公認心理師試験・臨床心理士試験対策/心理学部生専用オンライン個別指導塾】や,【公認心理師・他専門職のための心理査定/カウンセリングはじめの一歩講座】,SNS発信/起業のお手伝い(伊藤まり名義)もやっています。


思いが高ぶって働き方・生き方の本まで書きました。読んでください。
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最近,「シックス・センス」を観ました。
ホラーだと思って怖がって観ていなかった(+家庭環境の都合で流行っていた当時は禁止されて観られなかった)のですが,児童精神科医が主人公ということで今回アマプラで観てみました。

『シックス・センス』(The Sixth Sense)の簡単な紹介


©︎ディズニー

1999年の映画でブルース・ウィルス主演。当時子役だったハーレイ・ジョエル・オスメントが有名になった作品でもありますよね。(A.Iは当時映画館で観ました)

とっても有名な作品なので,もうあちこちでネタバレされていて,実はオチを知った状態で観たんですけれど,オチを知っていたからこそ「気づきポイント」を探しながら観るという楽しみ方をしました。

オチについては隠す必要もないかもしれませんが,今回の話の趣旨とは異なるのでネタバレはしません。

ブルースウィルス演じる児童精神科医が,かつて助けになれなかった患者によく似た症状を呈する少年(オスメント)に出会い,彼の力になろうとする物語です。

児童精神科医と少年の会話

さて,児童精神科医と少年の出会い,会話の流れは,最初から「フィクションだなぁ」と思うやりとりでした。もちろん,フィクションであることに加えて,心理療法にも流派があるのでやり方が異なるのも当然だと思います。

ただ,特に物語が始まって約30分ほど経った部分での少年と医師の会話について「私ならこう言う」と強く思う部分があったので,書いてみようと思います。



ちなみに,字幕版で見ているので,英語の表現よりは字幕を優先して書いていきます。

①事実をそのまま受け止める重要性

©︎ディズニー

少年「僕を見つめないで。見られるのは嫌いだ」
  「いつもトミーと学校に行く」
医師「親友かい?」

まず,ここ。実はここでの医師の返答は,私のような精神分析的心理療法をしているものからするとNGです。

なぜかを解説しましょう。
少年は,「トミーと学校に行く」と述べました。
私が少年にこう言われたら,(もしかしたら事実ではないかもしれないことも念頭に入れつつ),少年が「トミーと学校に行く」という事実を提示したことを受け取ります。

なので,私なら返答は「そう,トミーと学校に行くんだね」となります。
単にスキルとしてオウム返しをしているのではありません。
「あなたが,トミーと学校に行っていると伝えてくれた,その事実を受け取りましたよ,」と言う意味を込めての返答です。

しかし医師はここで「親友かい?」とトミーと少年の関係性を勝手に決めつける返答をしてしまっています。
もし少年が気の弱い子であったり,あるいは(映画の設定でも,実はこの少年とトミーは友達ではなく,友達のふりをしているだけなんですが)彼がトミーを友達だと思わせておきたかったりしたら,ここで「そう」という返事になってしまう危険,あるいはその後,トミーとの仲良しエピソードを空想で作り上げて語ってしまうかもしれない危険を孕んだ誘導質問になってしまっています。

ですから,ここでは上述のように「そう,トミーと学校に行ってるんだね」と言う応答にとどめることで,フラットな状態で,その後少年が今から何を語りたいのかを待つことができます。そうすることで,少年に対して「私は聞く準備がありますよ」ということを言語化せずに伝えることができるんですね。

もし,どうしてもトミーとの関係に触れたいなら,「トミーって?」と聞くに留めるのが良いでしょう。友達と決めつけてしまうのは,ましてや親友と決めつけてしまうのは非常に悪手です。

②あなたはそう思っていることを受け取った,という提示


しかし,この少年は自ら語る力がありました。カウンセラー側が下手であってもクライエント側に力があると,ある程度カウンセリングの流れはクライエントの力で修正されていくことは良くありますが,この2人のやりとりもまさにそれです。

©︎ディズニー

続き
少年「嫌われてる」
医師「君は嫌いか?」
少年「いや,別に」
医師「ママが彼と行けと?」
少年「そうだよ」
医師「ママに話したかい?」
少年「話してない」

この会話も(精神分析的心理療法であれば)あまりよろしくありません。
医師は会話のイニシアティブを握ってしまっています。少年は質問攻めと感じるかもしれない。
ネタバレしませんが,実はこの少年は,かなり傷ついた状態にあります。
ですから,現実のカウンセリング場面で,この少年のような子にこんなにグイグイと質問したら,少年はおそらく侵入的に感じて怖くなってしまうことでしょう。結果として,現実では何も返事をしなくなることの方が多いと思います。

では,私ならどう応じるか書いてみます。
まず,少年の「嫌われてる」に対しては「そう,嫌われてるって思うんだね」と返答します。
これも傾聴スキルとして単純にオウム返をしているわけでは決してありません。
ここは,「あなたは,彼に嫌われていると思っている,その事実を私は受け取りました」ということの提示なんです。
実際にトミーが彼を嫌っているかは,この時点ではカウンセラーには分かりません

しかし,少年がそう思っていることは事実です。
ですから,それをしっかり受け止める。

その上で,もし少年がトミーについて語りたいのなら,語れるように土壌を設定しています。ですから,この医師のような聞き方をしなくても,少年はこの後,必要であれば,「自分はトミーを嫌いではない」ことを自然と語り出せるでしょう。

その後のやりとりも,私とトミーなら上記のような流れになっていかないことが,ここでお分かりいただけるでしょうか?

③安易な励ましを決してしてはいけない


実はこの後が最悪なんです。だから(これを真似てしまう方がいないように)この記事を書いていると言っても過言ではないくらいです。
では,2人のやりとりを見てみましょう。

©︎ディズニー



医師「どうして?」
少年「ママは他の人と同じだ,何も知らない」
医師「何を?」
少年「僕が化け物だと」
医師「化け物じゃない,いいか?そんなことを言う奴はクソタレだ。そんな気持ちを捨てろ。いいか」
少年 (無言)

医師の応答が最悪であることは,もしかしたら映画の脚本家も分かってわざと書いているのかもしれません。なぜなら,ここで少年は返事をしないからです。

©︎ディズニー

ここで少年は大事なカミングアウトをしました。
「僕は化け物だ」
ネタバレになるので詳細は書きませんが,これは少年の秘密に関わる大事なカミングアウトです。
しかし医師は,ここでいとも簡単にそのカミングアウトを「そんなことを思ってはいけない」と切り捨ててしまいました。

励まし,力づけ,教育のつもりであったとしても,少年がここで心を閉ざしてしまっても仕方ないくらいの悪手です。
これがカウンセリングだったら,少年は次から来なくなるでしょう。

では何故いけないのか?
自分を卑下してはいけない,というのは教育です。
自分に自信を持とう,自分を大切にしよう,という考え方を教えるのは教育の役割です。

あなたはよく出来るよ,頑張っているね,という励ましや力づけは福祉の役割です。

それらが役に立つこともあります。
しかし,心理療法家,カウンセラーの役割ではありません。
再三書いているように,カウンセラーがするべきは,本人の思いを「まるで本人であるかのように受け止めること」そして,「それについて考えること」です。
そこに善悪のジャッジは要りません。

なぜなら,「そんなことを思ってはいけない」と伝えることは,ネガティブな想いを否定することになるからです。
無理やりポジティブに変換されてしまったり,ネガティブに考えてはいけないと言われてしまったら,その子は自分の想いを受け取ってもらえたとは感じられないでしょう。
ポジティブに考えることについて参考noteこちら

ですから,ここで私だったらどう応答するかと言うと,やっぱり彼の「僕は化け物だ」という想いを受け止めるんです。

何故,彼は自分を化け物と言うのだろう?
と頭の中では考えます。
悲しいことだ,とか,良くないことだ,というジャッジは個人としての私にはありますが,カウンセラーとしての私はそれを一旦おいて「なぜ?」と考えるに留める。

考える機能を引き受ける


その上で,少年には「そう,自分のことを化け物と思っているんだね」という応答をします。
……と,このように書くと,一見いつもおうむ返しをしているように聞こえますよね?
だから,多くの傾聴スキルの本や,カウンセラー養成学校なんかで「相手の言葉を繰り返しましょう」と教えられているんです。
でも,それは単に繰り返しているのではなく,「あなたが,そう思っていることを私は受け止めたよ,それで?」という思いを伝える手段としての繰り返しであったことをご理解いただけたでしょうか?

なんてつらつら書きましが,映画です。フィクションです。
しかも彼は児童精神科医であって,カウンセラー,心理療法家ではありません。

日本でもそうですが,精神科医は,心理療法の訓練を受けた方以外は,医師の役割の方々であって,カウンセラーではありませんので,アプローチが違うのは当然です。

以上の記事は,もし,(精神分析的心理療法を行う)カウンセラーだったら?という視点で書いた記事であることをご了承くださいね♡

参考文献

ありすぎるほどありますが,いくつか今日書いた記事の元になっている本を紹介しておきます。

藤山直樹(2008)集中講義・精神分析 上─精神分析とは何か フロイトの仕事,岩崎学術出版社
藤山直樹(2010)集中講義・精神分析 下 フロイト以後,岩崎学術出版社

松木邦裕(1996)対象関係論を学ぶ―クライン派精神分析入門,岩崎学術出版社
松木邦裕 (2015)「耳の傾け方―こころの臨床家を目指す人たちへ」,岩崎学術出版社
松木邦裕(2016)改訂増補 私説 対象関係論的心理療法入門―精神分析的アプローチのすすめ,金剛出版

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