大事にしたい私の名前:2021年9月19日(苗字の日)
私の苗字は珍しい。
下の名前のような読み方をするので、日本で美容室や飲食店などの予約をするときには必ずフルネームで名乗るようにしている。
予約の電話口でフルネームで名乗るようになったのは、大学生の時、福岡で初めて美容室に予約の電話をしてからだ。
電話に出た若い声の店員さんから予約名を聞かれたときに、いつも通り苗字で名乗ったところ、
「すみません、苗字を宜しいでしょうか」
と聞き返されたときの店員さんの少し笑ったような声が、今も記憶に残っている。
後から考えると、この時の私はきっと電話口の「お名前をどうぞ」という問いに対して、苗字ではなく「下のお名前」を答えてしまうちょっと常識を知らない若者だと思われていたのかもしれない。
私の苗字と同じ読み方が下の名前の女性芸能人もいたし、私自身も親族以外で同じ苗字の人にも出会ったことがなかったので仕方ないことだったけれど、当時はちょっぴり恥ずかしい思いをした。
9月19日は苗字の日。1870年、戸籍整理のため、太政官布告により平民も苗字を名乗ることが許された。
自分の苗字のルーツをたどると、もともとは長野県や東京で多い苗字らしく全国で約6,000人ほど同じ姓の人がいるそうだ。全国で約205万人いる「佐藤」さんと比較するとかなり少なく、やはり珍しい。
マレーシアで暮らし始めてからは、苗字で名乗ることはなくなった。
仕事でも基本的にはファーストネームである「Mariko」と呼ばれている。
日本では仕事でも下の名前で呼ばれることはほとんどなかったので、最初は少し戸惑ったけれど今ではすっかり慣れた。
マレーシアではマレー系、インド系、中華系の人たちが住んでいるので、それぞれの民族によって名前の配列が異なる。
人口の6割を占めるマレー系マレーシア人の人々は、ほとんどがイスラム教徒ということでイスラム式が採用されているので姓(苗字)がない。
「自分の名前 + bin(~の息子の)あるいはbinti(~の娘の) + 父親の名前」の順の配列になっていて、姓(苗字)がないので日本のように結婚してどちらかが改名することもない。
インド系の人々もマレー系と似ている。姓がなく「自分の名前 + A/L(~の息子の)あるいはA/P(~の娘の) + 父親の名前」の順、名前はヒンドゥー教の神様の名前から付けられることが多いそうだ。
中華系の人々は伝統的中国人氏名法で漢字名と英語名の両方で表記され、姓と名がある。ただ日本と違うところは、結婚しても姓が変わらないところで、子供は基本的に父親の姓を名乗るそうだ。
女性も姓が変わらないので、結婚すると「〇〇(夫の姓)夫人」というように呼ばれる。
日本では近年「選択的夫婦別氏制度」が議論されている。
世論調査では「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」と答えた方の割合が42.5%いるそうだ。
ただ、婚姻制度や家族の在り方と関係する重要な問題ということで、「日本の伝統である家族の絆が希薄になる」「戸籍制度となじまない」といった反対意見もある。
私の珍しい苗字について、昔は美容院の予約でちょっぴり恥ずかしい思いはしたけれど、今では「得をしたなあ」と思うことも沢山ある。珍しい苗字は何より覚えてもらいやすかったり、名乗ると「漢字でどう書くんですか?」などと言われて会話の糸口になったりする。
マレーシアでの名前の方式では、自分の名前は一生変わらない。
私の「Mariko」という名前は父が一生懸命考えて付けてくれた名前。
父からもらった財産なのでこれからも大切にしたい。
そして苗字も、これまでの私とずっと共にあるものなので、できれば変えることはしたくない。
日本で姓が選択できる制度ができる日はまだ遠いのだろうか。
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